2016年7月1日金曜日

日経 宮本岳則記者「野村株、強気の勝算」の看板に偽り

「看板に偽りあり」の典型的な記事が1日の日本経済新聞朝刊マーケット総合1面に出ていた。「スクランブル~ 野村株、強気の勝算 米ファンド『リーマンと違う』」という記事で、筆者の宮本岳則記者は「国際株ファンドで3兆円を動かす運用会社がそろり動き出した。米ハリス・アソシエイツ。中でも強気なのが、野村ホールディングス(HD)株だ。その勝算は――」と最初の段落で打ち出している。しかし、野村株に関するまともな分析がないまま話が広がっていく。これでは苦しい。
水前寺成趣園(熊本市) ※写真と本文は無関係です

まずは記事の前半部分を見ていこう。

【日経の記事】

株価が割安な時に買い集め、長期で高いリターンを狙う「逆張り投資家」。英国の欧州連合(EU)離脱で様子見姿勢を決め込む多数派を横目に、国際株ファンドで3兆円を動かす運用会社がそろり動き出した。米ハリス・アソシエイツ。中でも強気なのが、野村ホールディングス(HD)株だ。その勝算は――

 「野村は売られすぎだよ」。ハリスのデービッド・ヘロー最高投資責任者は自信を見せる。世界中を飛び回り、自ら企業を徹底調査するのが持ち味。過去に米調査会社から「最高のファンドマネジャー」に選ばれた著名投資家だ。日本株の注目銘柄を聞くと即答した。「一気に買いあさる局面ではないが、極端に割安になった株を徐々に増やす

ヘロー氏の運用は通説の割安株投資よりも「逆張り色」が強い。スイスの資源商社グレンコア、欧州金融大手のクレディ・スイスにBNPパリバ――。3兆円ファンドの組み入れ上位には、業績が景気で大きく振れるとして敬遠されがちな銘柄がずらりと並ぶ。日本株の持ち高では野村が8.5億ドル(約875億円)でトップ。ホンダ、トヨタ自動車などが続く。

多くの投資家は英国ショック以降、こうした銘柄に手が出なくなっている。野村は28日に約3年半ぶりに安値に沈んだ。30日は続伸したが、英国ショックで下げた分の2割しか戻していない。約5割を埋め合わせた日経平均株価に比べ、出遅れ感は際立つ。

自動車株の相対PBR(株価純資産倍率)は、リーマン・ショック後の2009年1月以来の低さだ。

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上記の部分にしか野村に関する記述はない。米ハリス・アソシエイツの最高投資責任者は「野村は売られすぎだよ」と発言しており、このファンドの「日本株の持ち高では野村が8.5億ドル(約875億円)でトップ」らしい。「そんなに割安なのか。なぜそう言えるんだろう?」と思って読み進めても、後は野村株の値動きが出てくるぐらいで、まともな解説はない。

野村株について「出遅れ感は際立つ」と書いたあと、「売られ過ぎ」かどうか分析するのかと思いきや「自動車株の相対PBR(株価純資産倍率)」に話は飛んでしまう。最初の段落で「中でも強気なのが、野村ホールディングス(HD)株だ。その勝算は――」と書いたのを、途中で忘れてしまったのだろうか。

そもそも「中でも強気なのが、野村ホールディングス(HD)株だ」と言えるのか疑問だ。「8.5億ドル」もの野村株をいつ仕入れたのかは不明だが「(現状は)一気に買いあさる局面ではない」とのコメントからすると、英国のEU離脱が決まる前に投資した分が多くを占めると推測できる(記事に付けた表では、組み入れ銘柄に占める野村株の比率が3月末時点で3.3%に達している)。

だとすると「約3年半ぶりに安値に沈んだ」後に「英国ショックで下げた分の2割しか戻していない」野村株について「売られすぎ」との感想を持つのは当然だろう。自分たちが大量に保有している銘柄だから、「今の価格が適正水準」とか「もっと下がってしかるべきだ」などと言うはずもない。本当に野村に対して「強気」ならば、ここがチャンスとばかりに思い切って買い増すはずなのに、そうでもなさそうだ。

注目銘柄」を聞いたら「野村」と即答したようだが、持ち高の多さから考えて「上がってくれないと困るという意味で注目している銘柄」なのだろう。結局、「売却までは考えないが、積極的に買っていくほど強気でもない」と言ったところではないか。

ついでに記事の後半部分についても注文を付けたい。

【日経の記事】

ヘロー氏の見方は異なる。「英国のEU離脱問題リーマン・ショック比較するのはナンセンス。世界経済は3%成長を維持できる」と主張する。金融機関の資本増強が進み、金融システム不安や株式市場の「底割れ」は起きないとみている。愚直に割安株投資を貫き、1998年ごろのアジア通貨危機、08年のリーマン・ショックなどを乗り切ってきた自信こそが強気の支えだ。

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英国のEU離脱問題リーマン・ショック比較するのはナンセンス」は助詞の使い方が不自然だ。「離脱問題リーマン・ショック」か「離脱問題リーマン・ショック」にすべきだろう。

株式市場の『底割れ』」は「株式相場の『底割れ』」にした方がいい。相場には「」や「天井」があるが、「市場の底」はやや意味不明だ。

1998年ごろのアジア通貨危機」も引っかかる。「1997年のアジア通貨危機」でいいのではないか。98年には危機を完全に脱したのかと言われれば違うだろうが、「97年」は外さない方が好ましい。「97年だけではない」という点にこだわるならば「1997年ごろのアジア通貨危機」か。

最後に、記事の結論部分を見よう。

【日経の記事】

米マフューズ、英シルチェスター――。29~30日に提出された大量保有報告書を見ると、複数の海外投資家が24日の株価急落直後、いち早く日本株買いに動いた様子が浮き彫りになる。

「リーマン当時とは状況が異なる」との声は、国内勢からも出始めた。DIAMアセットマネジメントの岩間恒上席ポートフォリオマネジャーは「リーマン当時の教訓で各国・地域がより迅速に政策協調に動くようになっている」という。

それでも「7月に企業業績の下方修正が相次げば、日本株の先行きは楽観できない」(ゴールドマン・サックス証券のジョン・ジョイス・グローバルエクイティ営業部長)との見方がなお支配的だ。英国ショックをきっかけに逆張り投資に動くかどうか、その判断で投資家の優勝劣敗が分かれそうだ。

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英国ショックをきっかけに逆張り投資に動くかどうか、その判断で投資家の優勝劣敗が分かれそうだ」という結びに意味がない。「そりゃそうでしょ」的な結論を導かれると、読んで損した気分になる。「特に訴えたいことなどない。順番が回ってきたから苦し紛れに書いただけ」という筆者の心の声が聞こえてきそうな終わり方だ。


※記事の評価はD(問題あり)。宮本岳則記者への評価も暫定でDとする。

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