佐田川の菜の花(福岡県朝倉市) ※写真と本文は無関係です |
この記事を選んだのは、もちろん問題が多いからだ。記事の全文は以下の通り。
【日経の記事】
通販各社が自社倉庫の拡張や新設を進める。衣料品や靴のネット通販を展開するロコンド(東京・渋谷)は来春、東京都江東区の倉庫を移転し、現在の約2倍の面積に拡張する。テレビ通販大手のQVCジャパン(千葉市)も倉庫の拡張や新設を計画する。通販の利用者が急速に増えているため、注文の増加や配送スピードへのニーズの高まりに対応する。
ロコンドは2017年3月、千葉県八千代市の物流センターに倉庫を移転する。移転後の倉庫の延べ床面積は約3万6000平方メートルとなり、現在の倉庫の約2倍となる。
同社の16年2月期の売上高は前年同期比35%増の100億円と、急速に事業を拡大している。主力の通販事業以外の事業も広げており、急速に増える顧客へのサービス強化につなげる。
QVCジャパン(千葉市)も倉庫の拡張や新設を計画している。千葉県佐倉市にある倉庫は18年までに収容できる能力が足りなくなる見込み。テレビに加え、インターネットを通じた商品の注文も増えているため、倉庫を広げて対応する。
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誰が書いたのかは知らないが、上記の記事の筆者に助言する形で問題点を指摘してみたい。
◆記事を書いた記者への助言◆
◎最低3つは事例を用意しよう!
この記事はいわゆる「まとめ物」です。書き出しは「通販各社が自社倉庫の拡張や新設を進める」となっています。「多くの通販会社で自社倉庫の拡張・新設に向けた動きがある」と判断して、記事をまとめたのでしょう。しかし、記事には「ロコンド」と「QVCジャパン」しか出てきません。これでは「本当に通販各社は自社倉庫の拡張や新設を進めているのかな? 2社だけじゃないの?」と読者に思われても仕方ありません。
では何社あればよいでしょうか。明確な基準はありません。ただ、3社は最低でも用意したいところです。記事を見ると、「QVCジャパン」に関しては「倉庫の拡張や新設を計画している」という漠然とした話しか出てきません。
私が記事を書くならば、「通販各社が自社倉庫の拡張や新設を進める」事例を3つほど用意して、「QVCジャパン」はついでに付け加える形にするでしょう。まともな事例が3つ揃わないのならば、まとめ物にはしません。非常に紙面繰りが厳しい場合には「まともな事例2つ+QVCジャパン」で妥協するかもしれませんが、少し胸が痛みます。
「まとめ物にするなら最低でも3つの事例」と覚えておいてください。
◎繰り返しを避けよう!
今回の記事では無駄な繰り返しが目立ちます。「ロコンド」に関しては「東京都江東区の倉庫を移転し、現在の約2倍の面積に拡張する」と書いた後で「倉庫を移転する」「現在の倉庫の約2倍となる」と繰り返しています。
「QVCジャパン」も同様です。最初の段落の「QVCジャパン(千葉市)も倉庫の拡張や新設を計画する」と、最終段落の「QVCジャパン(千葉市)も倉庫の拡張や新設を計画している」はほとんどダブっています。
40行程度の長くない記事で業界の動向をまとめるのです。簡潔に書かなければ、必要な情報を詰め込めません。無駄な重複は避けましょう。ちなみに、社名の後に付ける(千葉市)は初出時のみ付けるのが原則です。
日経では「アタマ記事以外、原則として全体の内容を要約した前文を付けない。前文は本文と重複しないように工夫する」と決まっているはずです。確認してください。
今回の記事は3段で、企業・消費面の中では3番手の扱いです。本来ならば「全体の内容を要約した前文を付けない」はずですが、付いています。前文と本文が重複しないように工夫したとも思えません。
他にも気になる点はありますが、まずは上記の2つを頭に叩き込んでください。記事を書く上では基礎に当たるところです。しかし、今の日経で企業報道部のデスクがきちんと指導してくれるとは思えませんし、きちんと記者教育ができていれば今回のような記事が世に出るはずもありません。
日経の中でも企業報道部は特に粗製乱造の癖が身に付きやすい部署です。周りにいる先輩の多くは、日経産業新聞や日経MJに向けて大量の記事を供給する過程で粗製乱造に慣れてしまい、問題に気付かないままキャップやデスク、あるいは編集委員になっているのです。そうならないためには、自分できちんと日経の構造的な弱点を自覚して、書き手としての技術の習得に努めるしかありません。
私からの助言がその一助になれば幸いです。
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※記事の評価はD(問題あり)。
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