武道館(東京都千代田区) ※写真と本文は無関係です |
日銀は明言していないが、マイナス金利政策にはもう一つの狙いがあるとみられる。外国為替市場で円安を促す効果だ。円安が進むと日本が輸入する製品や素材の円換算の購入価格が上がり、物価の上昇につながる。自動車や電機などを輸出する企業も円安になれば業績が改善する。円安で景気や物価を押し上げる効果が期待できるわけだ。
いいことずくめに見えるマイナス金利政策だが、悪影響もある。銀行などの経営だ。銀行は預金と貸出金の金利差の部分(利ざや)を収益の柱にしている。金利全体が大きく下がると利ざやが縮んでしまい、安定した収益を得られなくなる。
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「円安が進むと日本が輸入する製品や素材の円換算の購入価格が上がり、物価の上昇につながる」のは「いいことずくめ」の1つだろうか。2%の物価上昇を目指す日銀にとっては歓迎すべき事態かもしれないが、「円換算の購入価格」が上がる点だけに着目すれば、個人にとっても企業にとってもマイナスだ。輸出企業は円安のメリットも享受できるので円安を望むだろうが、個人や内需企業にとっては基本的にマイナスだ。
付け加えると、マイナス金利政策の導入後、為替相場はどちらかと言えば円高に動いていることも記事で触れてほしかった。
日経は全体として「円安=良いこと」というバイアスが強すぎる気がする。3日の朝刊には「円高・株安、負の連鎖 市場『円、100円に向かう』の声」という見出しが大きく出ていた。「負の連鎖」としてしまうと「円高=困ったこと」との印象を読者に与えてしまう。しかし、円高にはプラスもマイナスもある。日本は貿易収支の赤字が定着しつつあるので「円安より円高の方が好ましい」との見方も成り立つ。見出しを付けるときには、この辺りのバランスを考えてほしい。
記事の結論部分にも注文を付けておこう。特集には3つの記事があり、3番目の「シナリオ通りに進んでいるの 住宅購入・中小融資 足踏み」という記事の結びは以下のようになっている。
【日経の記事】
日銀の黒田東彦総裁は3月の記者会見で、マイナス金利政策について「住宅ローン金利や貸し出しの基準金利が低下し、金利面で政策効果が表れている。今後は実体経済や物価面にも波及する」と強調した。順調に金利が下がり、お金が借りやすくなっているという認識を示したが、想定外の現象も起きている。
中略)マイナス金利政策に頼るだけでなく、政府・日銀が一体になって規制緩和や構造改革も含めた総合的な経済政策運営を進めないと、黒田総裁が主張する「実体経済や物価面にも波及する」シナリオはなかなか見えてこない。
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この結論は説得力が乏しい。マイナス金利政策だけでは「実体経済や物価面にも波及する」シナリオが見えてこないのに「規制緩和や構造改革」を推進すると展望が開けてくるとしよう。その場合、「マイナス金利政策は効果が乏しかったが、規制緩和や構造改革は効いた」と総括するのが普通ではないか。例えば、1年後に原油相場が1バレル200ドルを超えるような状況になって、それまで落ち着いていた日本の物価も大きく上昇してきたら「ようやくマイナス金利政策が物価面に波及してきた」と考えるべきだろうか。
さらに言えば、規制緩和を進めると「物価面にも波及する」というシナリオが分かりにくい。電力自由化でもそうだが、常識的には規制緩和を進めれば物価の下落要因となるはずだ。ご都合主義的なストーリーを作れば、規制緩和で物価上昇というシナリオもあり得るが、そうした説明もなしに規制緩和で物価が上がるような解説をされても困る。
「構造改革」も同様だ。記事では、具体的に何を改革するのか明確にしていない。例えば、年金に関して保険料を大幅に上げる一方で給付水準を大胆に引き下げる「構造改革」を進めたとしよう。これが物価上昇につながるだろうか。年金財政は改善するだろうが、物価上昇につながる「シナリオ」は見えてこない。
※記事の評価はC(平均的)。
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