キャナルシティ博多(福岡市博多区) ※写真と本文は無関係です |
記事の内容を冒頭から見ていこう。
◎NY市場に触れなさすぎ
【日経の記事】
米国経済が力強さに欠ける状況を脱しきれずにいる。27日、利上げを見送った米連邦準備理事会(FRB)は景気減速の懸念を示した。ダウ工業株30種平均は続伸したが、景気を冷やすリスクに市場が敏感になっていることの裏返しでもある。
「メキシコ人の帰化申請ラッシュですよ」。米テキサス州南部、メキシコ国境沿いのマッカレン市に暮らす電子機器メーカーの幹部は困惑気味に話す。米大統領選で共和党のドナルド・トランプ氏が当選した場合を想定し、米・メキシコ関係が悪化する前に米国居住権を得ようという人が増えていると打ち明ける。
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NY市場の動向に触れたのは最初の段落だけ。第2段落からはNY市場の動向と直接関係ない話が延々と続く。米テキサス州やメキシコに出張した話を盛り込むのは構わない。しかし「ウォール街ラウンドアップ」というコラムで使うならば、もっとNY市場に引き付けて書くべきだ。
第2段落の「メキシコ人の帰化申請ラッシュですよ」というコメントもよく分からない。例えば、役所の前に帰化申請のための長い列ができているといった状況ならば、このコメントも生きてくる。しかし、そうした描写はない。「申請ラッシュですよ」と発言している人は「電子機器メーカーの幹部」。この人のところに申請者が殺到するとも思えない。
続いての説明も疑問が湧く。
◎壁を作ると貿易はストップ?
【日経の記事】
トランプ氏の「メキシコ国境沿いに壁をつくる」との発言は、そこで暮らす人たちには一大事だ。マッカレンの南隣、メキシコのレイノサ市では対米輸出を目的にガラス大手コーニングなど製造業の工場が立ち並ぶ。物流が滞れば製品加工で成り立っていた市の経済は立ち行かなくなる。
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トランプ氏の「メキシコ国境沿いに壁をつくる」との発言は、不法移民対策のはずだ。壁ができると貿易もできなくなるのか(トランプ氏は保護貿易主義的ではあるだろうが…)。「物流が滞れば製品加工で成り立っていた市の経済は立ち行かなくなる」としても、「壁ができる=物流が滞る」との前提でいいのか。もしそうならば、その根拠となるようなトランプ氏の発言を紹介してほしかった。「壁をつくる」の発言だけでは不十分だ。
他にも問題のある説明が目立つ。さらに列挙していく。
◎逆輸入すると経済圏が生まれる?
【日経の記事】
その中国でも米国との経済圏が生まれている。中国で販売シェアトップのゼネラル・モーターズ(GM)は今夏、中国の工場でつくった車を米国で売る方針だ。いまや米事業強化のために中国拠点を生かしつつある。
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米国企業が中国で生産したモノを米国に輸入すると米中の「経済圏」が生まれるという話も理解に苦しむ。「経済圏」とは「経済的な結び付きの強い地域」を指して使うものだろう。例えば、スズキはインドで作った車を日本に輸出しているが、だからと言って「日本とインドは同じ経済圏に属する」とは思えない。それに、米国企業が中国で生産したモノを米国で売るのは、最近出てきた動きでもないはずだ。米国企業であるアップルはiPhoneの多くを中国で作っているのではないのか。
◎「壁をつくる企業」どこに?
【日経の記事】
とはいえ企業の成長戦略には首をかしげたくなるものもある。26日、フォード・モーターは既存の米国工場に16億ドルを投じ、650人を新たに雇うと発表した。5日に発表してトランプ氏らから批判されたメキシコ工場新設も投資額は16億ドル。金額は奇妙に一致する。
工場にお金を投じても生産性が上がらなければ競争に負ける。ドル高の今やるべきことは損益分岐点の引き下げだが、そうした議論は聞こえてこない。「壁をつくる」ようなその場しのぎの対応で投資家や政治家を喜ばせる企業が増えるとすれば、米国の成長はそれこそ危うい。
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今回の記事には「壁をつくる企業」という見出しが付いている。そして「壁をつくる企業」の候補はフォード・モーターしか見当たらない。しかし、上記の記述を見て「フォードは確かに壁を作っている」と思えるだろうか。国内の工場に投資するだけでは、壁を作っているとは言い難い。政治家のご機嫌をうかがうための投資ならば確かに「危うい」だろうが、仮にそうだとしても「壁」ができる感じはない。「壁」と言うならば、人やモノの行き来を遮断するような何かが欲しい。仮にフォードが「損益分岐点の引き下げ」に関心がなくても、それは「壁」とは関係ない。
結局、「米企業は壁を作ってるんだな」「しかも、そうした企業が増えそうだな」と思わせてくれる材料は記事中には見当たらない。やはり、この記事は苦しすぎる。中西記者は以前にも「ウォール街ラウンドアップ」で問題のある記事を書いていた。一生懸命にやっていてこのレベルならば、今後も期待は持てそうにない。
※記事の評価はD(問題あり)。 暫定でDとしていた中西豊紀記者への評価はDで確定とする。中西記者に関しては「日経 中西豊紀記者『ウォール街ラウンドアップ』の低い完成度」も参照してほしい。
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