大分県日田市の三隈川(筑後川) ※写真と本文は無関係です |
【「ニッポン経済最強論!」の内容】
それと、なにかの原因で国債価格が急落した際にマスコミはよく「ヘッジファンド」の名前を出してきますが、これは、ウソですから。
株式と違って日本の国債なぞ、外国人は買っていません。95%が日本人による購入。外国人の顔をした日本人=海外のケイマンなどのファンドを入れれば(統計の取り方にもよりますが)97%に達するのがこの商品の特徴です。ヘッジファンドの力は、たった5%しかないわけです。50%ではなく5%です。それで相場が崩れるはずがない。
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例えば、ある上場株の5%を保有する大株主がいるとしよう。この株主が明日の寄り付きに成り行きで保有株の半分を売りに出したとする。「相場が崩れるはずがない」だろうか。その日の相場急落の要因になると考える方が自然だ。国債でも株式でも発行された分すべてが毎日取引されているわけではない。売買が成立するのは全体のごく一部だ。なので、全体の1%に満たない売りでも一気に出てくれば相場は崩れる。こんなことは、市場に関する知識が多少あれば分かるはずだ。
そもそも「マスコミはよく『ヘッジファンド』の名前を出してきます」という話自体がざっくりしすぎている。せめて1つぐらい具体例を出してほしい。「ヘッジファンドが日本国債の売りを仕掛ける」といった話では、債券先物がよく出てくる。これだと国債(現物)の何%を買っているといった情報は関係ない。ただ、「ぐっちーさん」がどんな報道に触れたのか確認できないので、この辺りは何とも言えない。
第3章「これが日本YENの実態です」では、デフレとインフレについて解説しているくだりがある。この内容も疑問が残るものだった。
【「ニッポン経済最強論!」の内容】
デフレで死んだ労働者はいないのです。過去の資本主義市場においてデフレで生活破綻した労働者は皆無なのです。考えれば当たり前のことで、給料が決まっていて、デフレ、つまり貨幣価値が上がるわけですから、月給の貨幣価値も黙っていても上がる。事実上の昇給です。悪いことは1つもありません。
では、誰が困るのでしょうか。
そうです、資本家=経営者が困るのです。資本家、経営者にとってはデフレは最悪のケースです。商品価値が上がらず、自分たちが売る商品には価格転嫁できず、逆にディスカウントを迫られる一方で社員の給料を突然半分にはできない…。インフレ待望論など資本家の論理なんですよ。デフレは資本家の敵、庶民の味方。
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上記の説明は、どう考えても違うだろう。労働者にとって「悪いデフレ」はあり得る。物価下落のペース以上に賃金が減る場合だ。そうならない保証はない。「ぐっちーさん」は給与水準を一定だと仮定しているが、デフレ下では基本的に賃金にも下落圧力がかかる。それが物価下落と比較してどの程度かの問題だ。
しかも「資本家、経営者にとってはデフレは最悪のケース」ならば、経営破綻も増えるはずだ。それが労働者にとってマイナスに働く可能性も残る。勤務していた会社が潰れ、結果として住宅ローンが払えず自己破産に至った場合は「デフレで生活破綻した労働者」と言えるのではないか。
「商品価値が上がらず、自分たちが売る商品には価格転嫁できず」という説明もよく分からない。デフレ下では人件費や原材料費なども下がる傾向にあるので「価格転嫁できず」困る懸念は非常に小さい。「逆にディスカウントを迫られる一方で社員の給料を突然半分にはできない…」と言うが、売値が突然半分になるケースもそう多くはないだろう。売値の低下よりも人件費や原材料費の減少の方が大きければ、「資本家、経営者にとってはデフレは最悪のケース」とはならない。
こんな感じで、「ぐっちーさん」の説明は思い切りがいいのだが、その代わりに荒っぽい。「こういう人もいるんだな」ぐらいの気持ちで読むならばいいかもしれないが、真剣に耳を傾けるのは危険だ。
最後に、この本の終わりの部分を紹介しよう。
【「ニッポン経済最強論!」の内容】
明治維新で起こしたような真の教育改革が必要でしょう。
振り返ってみれば福沢諭吉先生のような人が出てきたことは、日本にとって本当にラッキーでした。いまこそ教養と実学の精神が必要ではないでしょうか。もし福沢先生が生きておられたらなんとおっしゃるのか、大変興味のあるところです。
そういう人物が再び現れ、一刻も早く教育改革を行うこと。そして日本の大学を象牙の塔から解き放つことが、日本の将来を決定づけると、私は考えています。
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最後は「あれあれ? 何の話? なんで福沢諭吉?」という展開になって終わってしまう。「何なんだこれは? まさか筆者は…」と思って本のカバーに付いていた略歴を見てみると、やはり「慶應義塾大学経済学部卒業」となっていた。「ぐっちーさん」が福沢諭吉を尊敬しているのはよく分かった。ただ、「その話は慶応OBが集まった所でやってください」とお願いしたい。
※本の評価はD(問題あり)。筆者である山口正洋氏への評価もDとしたい。
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