キャナルシティ博多(福岡市博多区) ※写真と本文は無関係です |
記事の出来はどうかと言えば、待たせた割には今一つだ。鈴木氏が退任会見を開いたのは7日。東洋経済は翌週発売の4月16日号で鈴木氏の退任を記事にしたのに、ダイヤモンドは見送って4月23日号に回している。回すなとは言わないが、待たせた分だけハードルは上がる。しかし、期待に応えてくれたとは言い難い。
記事の問題点を挙げていく。
◎サード・ポイントと世襲問題をなぜ無視?
ダイヤモンドの記事には米投資ファンドの「サード・ポイント」の名前が一切出てこない。鈴木氏の次男への世襲を懸念するサード・ポイントは、井阪氏を退任させる当初の人事案を世襲への布石だと見ていた。そして、世襲につながりかねない人事案に反対する姿勢を明確にした。これは今回の騒動を理解する上で重要なポイントだ。「世襲問題」はもちろん「サード・ポイント」まで無視して「鈴木会長引退」を論じるところに、鈴木氏に甘いダイヤモンドらしさを感じる。
世襲問題に関しては、ダイヤモンドオンラインの「山崎元のマルチスコープ~鈴木敏文氏、『カリスマ・サラリーマン経営者』の3つの敗因」という記事で、経済評論家の山崎元氏が鋭く斬り込んでいる。「DIAMOND REPORT」よりはるかにレベルが高い。一部を紹介しよう。
【ダイヤモンドオンラインの記事】
鈴木敏文氏ご本人は、「そんな考え(世襲狙い)は全くない」と否定するものの、「世間から見ると、そう見える」という事実に対して、彼は、もっと敏感であるべきだったろう。自身の力を過信したのかも知れないが、大衆の心を読む「心理学」の重要性を強調した経営者としては、勝負に出るに当たっていかにも不用意だった。
そもそも、ワンマン社長が息子を自社に入社させること自体が、社長に対する人望を下げる要因だし、周囲は何も言わないだろうが、息子個人にとっても名誉な話ではない。家庭や本人の事情もあるので、入社自体を悪いとまでは言わないが、勝負に出る時期に、「世襲懸念」が出ない程度には息子を遠ざけておくべきだった。
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◎理解に苦しむ「持ち株寄付」の話
【ダイヤモンドの記事】
さらに、社外取締役から「ガバナンスの問題として、創業者で大株主の伊藤家の判断も重要だ」との意見も出た。そこで、村田社長は伊藤雅俊名誉会長に人事案の承諾を得ようとしたが、拒絶された。
伊藤家はセブン&アイHDの株式約10%を保有する。反対の理由は定かではないが、布石はあった。
関係者によれば、不振で赤字続きのイトーヨーカ堂のために「寄付してほしい」と鈴木会長の側近が伊藤家に要請したというのだ。この申し出を伊藤家の奨学金財団の常任理事を務める、伊藤名誉会長の長女は拒絶。伊藤家の鈴木会長への不信感が高まったという。
鈴木会長が会見で「私の提案を伊藤名誉会長が拒否したことは一回もなかった。世代が変わった」と繰り返した背景には、こうした事情もあったと関係者はみる。
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この話は色々と疑問が湧く。
ヨーカ堂の再建のため創業家に支援を求めるにしても、常識的に考えれば「増資」だろう。なぜ「保有株の寄付」なのか? これは怪しい。創業家の人間でなくても警戒したくなる。創業家の株をどこに寄付するのかも記事の説明からは判然としない。
「鈴木会長が会見で『私の提案を伊藤名誉会長が拒否したことは一回もなかった。世代が変わった』と繰り返した背景には、こうした事情もあったと関係者はみる」という解説も納得できない。寄付を拒否したのは「長女」かもしれないが、井阪氏を降ろす人事案の承諾は伊藤雅俊名誉会長に拒絶されたはずだ。「伊藤名誉会長は鈴木氏支持だが、長女らが不支持に回った」という話ではない。やはり、鈴木氏の発言の意図はよく分からない。新井記者と大矢記者には理解できているのならば、もう少しきちんと説明してほしかった。
◎引退撤回なら「止められる人はいない」?
【ダイヤモンドの記事】
鈴木会長の退任で、トップ不在という危機に陥ったセブン&アイHD。今後、巨大な組織を誰がコントロールしていくのか。複数の幹部の話を総合すれば、目下のところ考えられるのは、次の三つのシナリオである。
中略)第三のシナリオは可能性が低いが、鈴木会長が心変わりし、トップを続投するというものだ。
というのも、退任表明後、鈴木会長派の幹部らは連日“鈴木詣で”に走り、必死の慰留を続けているからだ。井阪社長の交代案に否定的だったある幹部も「まさか人事案の否決で鈴木会長が引退を言い出すとは思わなかった」と本音を漏らす。万が一、説得工作で鈴木会長の意志が揺らぎ、引退宣言を覆すことになれば、「止められる人はいない」(前出の幹部)。
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勘繰り過ぎかもしれないが、「やはりダイヤモンドは鈴木氏に引退してほしくないんだろうなぁ」と思ってしまう。特に「引退宣言を覆すことになれば、『止められる人はいない』(前出の幹部)」という書き方に、その願望が透けて見える。
これだけの騒動を起こして退任会見まで開いたのに「やっぱり引退しません」となったら、それこそ経営者として無責任すぎる。社内外から大きな反発が起きると考えるのが自然だ。なのに「止められる人はいない」という「鈴木会長派の幹部」の言葉をまともに受け止めてしまうとは…。
19日の日経(電子版)は以下のように報じている。「今後の鈴木氏の処遇については『最高顧問』などの名誉職を用意する予定だった。しかし、社外取締役が『影響力が残る』と難色を示しており、引き続き調整を進めるとみられる」。名誉職への就任でさえ社外取締役が抵抗しているようだ。だとしたら、「引退は止めてCEOを続けます」と宣言した場合、「止められる人はいない」とは考えにくい。
今回の記事では「記者会見という場で、上場企業のトップとは思えぬ部下へのバッシング」「指名委で反対された人事案を強引に取締役会にかけたのは無理があった。実現しないから引退という姿勢は、わがままな責任放棄としか映らない。カリスマ経営者の幕引きは、足跡に大きな汚点を残すものになった」などと鈴木氏に批判的な記述も見られる。遅きに失したとはいえ「ヨイショ一色」のこれまでの姿勢が変わってきている。とは言え、全体的にはやはり甘い。
※記事の評価はD(問題あり)。暫定でDとしていた新井美江子記者への評価はDで確定とする。大矢博之記者への評価はDを据え置く。両記者に関しては「ダイヤモンド『鈴木敏文』礼賛記事への忠告」「鈴木敏文セブン&アイ会長に相変わらず甘い週刊ダイヤモンド」も参照してほしい。また、「山崎元のマルチスコープ~鈴木敏文氏、『カリスマ・サラリーマン経営者』の3つの敗因」の評価はB(優れている)とする。山崎元氏への評価はA(非常に優れている)を維持する。
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