2016年3月5日土曜日

安易な作り目立つ日経のコラム「銘柄診断~ヤマダ電機」

日本経済新聞朝刊マーケット総合面に「銘柄診断」というコラムがある。普段はあまり読まないのに、たまたま目を通してみたら、作りが安易で驚いた。こんな完成度で勘弁してもらえるのならば記者は楽だが、長い目で見れば記者にとっても日経にとってもマイナスにしかならない。反省を促す意味で、5日の「ヤマダ電、4年4カ月ぶり高値 今期業績改善を好感」という記事のどこが安易なのか列挙してみたい。

唐津城(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係です
記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

4日、ヤマダ電機の株価が9日続伸し、596円と2011年11月以来4年4カ月ぶりの高値を付けた。16年3月期は店舗改装の効果などで大きく業績が改善する見通し。好業績を好感した個人投資家などの買いが集まった

4日は断続的に小口の買いが入った。今期の連結純利益の見通しは331億円で、前期比3.5倍に回復する。店舗の改装を進めたところ、パソコンやデジタルカメラといった利幅の薄い商品の販売が減り、採算の良い白物家電の売れ行きが好転した。値引き販売も抑えており、売上高総利益率は28.8%と前期比2.5ポイント改善する見通しだ。

売り上げが平日より多い週末に接客技術の高い従業員を勤務させるといった人員配置の見直しを進めており、販管費も減少する。SMBC日興証券の並木祥行氏は「17年3月期は会社が目指す30%の粗利率を達成する可能性が高い」とみて目標株価を700円に設定している。

アナリスト予想の平均(QUICKコンセンサス)によると、17年3月期の連結純利益は今期見通し比3割増の420億円の見込み。「昨年春に不採算店を閉鎖した効果が一巡し、来期の収益の伸びは今期より鈍くなる」(国内大手証券)との見方がある。買い一巡後はいったん利益確定売りが膨らむ可能性もありそうだ。

----------------------------------------

◎「9日続伸」の説明になってる?

この記事には株価のグラフが付いていて、1月末からの動きが分かる。2月17日に506円の安値を付けた後、3月4日には596円まで戻している。例えば2月17日にヤマダ電機が業績予想を上方修正したのならば、記事のような説明もあり得る(その場合、上方修正があったことを明示する必要はある)。

しかし「今期の連結純利益の見通しは331億円で、前期比3.5倍に回復する」との見通しをヤマダ電機が発表したのは昨年11月だ。なのに「好業績を好感した個人投資家などの買いが集まった」と言われても納得できない。

筆者に言わせれば「特に材料なんかない。市場全体の上げに引っ張られただけだ」となるのかもしれない。だったら、なぜヤマダ電機を取り上げたのかという話になる。記事に付けたグラフを使って分析するのならば、「なぜ2月中旬から上げに転じたのか」に説得力を持たせる必要がある。


◎なぜ「販管費も減少」?

売り上げが平日より多い週末に接客技術の高い従業員を勤務させるといった人員配置の見直しを進めており、販管費も減少する」という説明も謎だ。接客技術の高い従業員を週末に勤務させても、全体として人が減るわけでもないし、販管費を削減する効果はなさそうに思える。「平日の人員配置を思い切って減らす」といった話があるのならば、そこは触れるべきだ。


◎そこは織り込み済みでは?

来期の収益の伸びは今期より鈍くなる」ことを理由に「買い一巡後はいったん利益確定売りが膨らむ可能性もありそうだ」と記事を締めているが、この説明は無意味だ。QUICKコンセンサスは公表されているのだから、「17年3月期の連結純利益は今期見通し比3割増の420億円」というのがアナリストの平均的な見方であることは株価に織り込み済みだ。

筆者の中には「直近の株価上昇は今期業績の好調さを織り込む過程」「今後は来期業績を織り込んでいく」との考えがあるのかもしれない。しかし、株価とは基本的に遠い将来まで見通して形成されていると考えるべきだ。今後「利益確定売りが膨らむ可能性」はもちろんある。しかし、それを「来期の業績の伸びが鈍化するとの見方があるから」と単純に説明していては、市場関連記事を書く記者としては半人前だ。


※記事の評価はD(問題あり)。このレベルでしか記事を供給できないならば、「銘柄診断」はコラム自体を休止した方がいいだろう。

0 件のコメント:

コメントを投稿