筑後川と夕陽(福岡県久留米市・朝倉市)※写真と本文は無関係です |
「商社5社減損1兆円」という記事に付けた解説記事「次代の経営者に重い宿題~収益の安定化/革新力の向上」の全文は以下の通り。
【日経の記事】
資源ビジネスへの傾斜を深めた総合商社の経営が転機を迎えた。業界の双璧である三菱商事と三井物産がそろって最終赤字に転落するのは、やはり衝撃的だ。資源以外の事業の育成を急ぎ、お得意の「稼ぐ力」を取り戻す必要がある。
過去四半世紀、停滞を続けた日本経済だが、個別の業界や企業に焦点を絞ると、飛躍的に成長した例も少なくない。その代表格がいわゆる総合商社だ。三菱商事を例にとると、1990年度から99年度まで10年間の純利益の合計は3700億円にすぎないが、最近は単年度で4千億円以上の純利益を当たり前のように計上してきた。
桁違いの収益力の源泉は、以前のモノの売買を仲介するトレーディング(交易)会社の事業モデルから脱却し、天然ガスや原料炭など資源分野で直接投資に乗り出したことだ。1000億円単位の巨額の資本を投下して、地下に眠る資源の所有権を獲得。それを採掘して内外の電力会社や製鉄会社に供給することで、高収益を享受した。中国の需要爆発がもたらした商品市況の高騰が、プラスに働いたことも言うまでもない。
逆にいえば、資源価格が下がれば、過去の投資案件の価値が毀損し、大型の損失が出るのも必然だ。大切なのは損切りを短期で終わらせ、なるべく引きずらないことだ。バブル崩壊後の地価下落局面で、一部の商社は「これで最後」と言いながら何度も特別損失を出し、市場の信頼を失った苦い経験がある。
商社は過去にも何度か冬の時代を迎えながらも、時代に合わせて自己変革し、よみがえってきた。今必要なのは、非資源分野の充実と顧客といっしょになって価値を創出するイノベーション力の向上だ。ブルネイの液化天然ガス(LNG)プロジェクトのように、商社が海外の石油メジャーや需要家の電力会社とチームを組んで新境地を開いた案件も過去には多い。
三井物産で昨年上席役員32人を抜いて、安永竜夫社長が誕生するなど、大手商社の経営陣はいま代替わり期を迎えている。資源価格の乱高下に振り回されない確固たる事業基盤を築けるかどうかが、問われている。
----------------------------------------
商社に「今必要なのは、非資源分野の充実と顧客といっしょになって価値を創出するイノベーション力の向上」らしい。だが、「非資源分野の充実」が本当に必要なのだろうか。仮に、4~5年に一度は大幅な市況悪化に見舞われるとしても10年単位で見れば他の事業より大きな利益を得られるのが資源ビジネスだとしよう。その場合、権利取得の費用が安く済む今の時期に思い切って積極策に出るべきとの考え方もできる。
「今必要なのは、非資源分野の充実」というならば、「資源ではなく非資源に人や資金を振り向けるべきだ」と言えるだけの根拠を示してほしい。例えば「ほとんどの株主は利益水準が低くてもいいから安定した収益構造を求めている」「資源ビジネスで大きな利益を得られる時代は終わった。今後、資源価格が元の高値に戻る可能性は低い」といったことが言えるのならば、「非資源分野の充実を進めるべきだ」との主張にも説得力が出てくる。
「顧客といっしょになって価値を創出するイノベーション力の向上」が必要という話も、説明が不十分だ。現状は「顧客といっしょになって価値を創出するイノベーション力」が落ちていると考えればいいのか。しかし、記事からは何とも言えない。
西條編集委員によると「ブルネイの液化天然ガス(LNG)プロジェクトのように、商社が海外の石油メジャーや需要家の電力会社とチームを組んで新境地を開いた案件も過去には多い」らしい。しかし、それが途切れているのかどうかさえ判然としない。「イノベーション力が落ちている」との考えであれば、「確かに落ちているな」と思える材料を示してほしかった。
ついでに言葉の使い方でいくつか指摘しておきたい。
まず「商品市況の高騰」という使い方は推奨しない(かなり使われてはいるが…)。「市況」とは「市場の状況」という意味なので、市況そのものが上がったり下がったりするわけではない。今回であれば「商品相場の高騰」「商品価格の高騰」などを薦める。「市況」を使いたいならば「商品市況の盛り上がり」などとすれば問題ないだろう。
最後に読点の使い方に触れたい。「非資源分野の充実と顧客といっしょになって価値を創出するイノベーション力の向上」という部分は並立助詞の「と」が続く形で「充実と顧客と」となっており、読みにくい。この場合、「非資源分野の充実と、顧客といっしょになって価値を創出するイノベーション力の向上」と読点を入れるだけでかなり読みやすくなる。
※記事の評価はD(問題あり)。西條都夫編集委員への評価もDを据え置く。
0 件のコメント:
コメントを投稿