◎退去通告は「農村戸籍」狙い撃ち?
石橋文化センター(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
「この地域を再開発する。3月末までに退去せよ」。上海市西北部にある紅旗村。今年1月11日、農村からの出稼ぎ者が多く暮らす村のあちこちに突然、退去通告が張り出された。期限まで3カ月足らず。「応じなければ強制執行し、その費用も請求する」――。
上海市は年初から市内の各地で立ち退き通告を始めた。南部の永聯村で2月23日までの立ち退きを迫られた四川省出身の鄧さん(43)は「急に言われてもどうすればいいのか」と途方に暮れる。
上海に23年、住み続けた鄧さんは一度も上海市民として認められたことがない。農村と都市を明確に分ける戸籍制度があったからだ。
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記事の冒頭から説明が足りない。上記のくだりを読んでも、上海市が年初から始めた各地での退去通告の目的がはっきりしない。「この地域を再開発する。3月末までに退去せよ」という退去通告を素直に信じれば、目的は再開発であり、農村戸籍を持つ者を狙ったものではない。ならば退去通告を受けて「途方に暮れる」のは戸籍問題と無関係だ。「農村戸籍だと上海ではこんなに大変だ」と記事では訴えているようだが、話の前提が崩れてくる。
「南部の永聯村」も含めて、退去通告を受けた地域は「農村からの出稼ぎ者が多く暮らす村」ばかりだと言うならば、それは明記してほしい。退去請求は農村戸籍への狙い撃ちだという場合、なぜ年初から上海市が強硬姿勢を打ち出したのかも入れたいところだ。しかし、そうした謎を残したまま、記事は別の話題へと移っていく。
記事の続きは以下のようになっている。
◎なぜ「公立学校」に入れない?
【日経の記事】
都市への過度の人口流入を防ぎ、食料を確保することなどを狙った中国の厳格な戸籍制度は、1950年代に確立した。
学校や病院などの公共サービスは地元出身者が優先。上海市は地方出身者の住宅購入を認めず、大学入試でも上海市民が有利になる。鄧さんは息子を上海の公立学校に入れられず、四川省の両親を頼って故郷に送らざるを得なかった。
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「鄧さんは息子を上海の公立学校に入れられず、四川省の両親を頼って故郷に送らざるを得なかった」
という説明が引っかかった。まず、なぜ「公立学校」という曖昧な情報を入れたのか。流れから言えば「公立大学」とするのが自然だ。「ここで言う『公立学校』は大学ではないが、それだと話に合わないのでわざと幅を持たせたのでは?」と勘繰りたくなる書き方だ。
公立学校に入れなかった理由にも記事では触れていない。農村戸籍しかないから受験さえさせてもらえなかったのか、そもそも学力が全く足りなかったのか。そこが分からないと「鄧さん」に同情すべきかどうかも判断できない。
◎制度導入から3年近く経ってるのに…
【日経の記事】
戸籍制度の改革を進めてきた中国政府は今年1月、ようやく制度を大幅に緩和する条例を施行した。地方の小都市では定住していれば都市戸籍を取得できるようになったが、都市の人口規模が大きくなるにつれて条件が厳しくなる。
上海社会科学院の楊雄社会学研究所長は「必要なのは高い専門技術を持った人材だけだ」と言い切る。同市は2013年、学歴の高さ、年齢などで一定のポイントを得られなければ定住を許さない制度を導入した。学歴の低い地方出身者は、出稼ぎもできなくなる可能性が高まっている。
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上海市は「2013年、学歴の高さ、年齢などで一定のポイントを得られなければ定住を許さない制度を導入した」らしい。導入から約3年が経過しているのに「学歴の低い地方出身者は、出稼ぎもできなくなる可能性が高まっている」と、今後の心配事のような書き方をしているのが気になる。
制度がきちんと機能しているならば「学歴の低い地方出身者は、出稼ぎもできなくなってしまった」などと書くはずだ。制度は導入したものの今は有名無実化している状況ならば、それを説明してほしい。
◎「捨て子=無戸籍」?
【日経の記事】
中国南部、広東省掲陽市でライチ畑の中にたたずむ紫峰寺。門前に掲げられた「子供を捨てる者は因果応報を受ける」という警告文とは裏腹に、赤子を置き去りにする親が後を絶たない。今も20人の子供が暮らす。
昨年まで続いた一人っ子政策の下、地方では低所得層の親が2人目の子供や障害児を手放すことも多かった。戸籍を持てない孤児は学校にも行けず、鉄道などの利用のほか、宿に泊まることさえできない。こうした無戸籍者は全人口の1%、1300万人に達する。
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何となく「孤児=無戸籍」との前提で話が進んでいるが、そこは説明が欲しい。日本では孤児にも戸籍があるのが当然だ。ロイターの記事によると、中国では「自身の出生が『一人っ子政策』に違反する人や孤児などは戸籍制度から除外されている」らしい。記事を書いている記者にとっては「中国の孤児=無戸籍」は自明なのだろう。しかし、大多数の読者も同じかどうかは、少し考えれば分かるはずだ。
※記事の評価はD(問題あり)。
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