2016年2月25日木曜日

数字はどこから? 日経夕刊「ライブチケット 10年で2割上昇」

25日の日本経済新聞夕刊1面に「ライブチケット、10年で2割上昇~規模拡大で運営コスト増 CD不振の穴埋め狙う」という怪しい囲み記事が出ていた。何が怪しいかと言えば「ライブチケット、10年で2割上昇」という記事の根幹となるデータだ。最後まで読んでも、この数字をどこから持ってきたのか謎だ。

記事の全文は以下の通り。
太宰府天満宮(福岡県太宰府市) ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

国内で開催されるコンサートやステージのチケット代が上昇している。今年は昨年までに比べて3~10%程度値上がりする興行が目立ち、10年前に比べると平均価格は2割以上高い。アーティストの招請費用や、会場代や人件費などの運営コストが上がっている。

国内では音楽CDの販売数が落ち込んでおり、「ライブで収益を伸ばそうとするアーティストが目立つ」(コンサートプロモーターズ協会=東京・渋谷)。同協会によると2015年1~6月のチケット代は平均で1枚6422円で前年同期に比べ1%高い。ぴあのまとめでも14年は13年比1割上昇し「今年も上昇傾向は続きそう」という。

4月に東京都内などで開催される米国人歌手、ボブ・ディランの2年ぶりの来日公演の場合、最も高い席はグッズ付きで1枚2万5千円。会場が違うため単純に比較はできないが、2年前の来日公演では1枚2万2千円だった。

日本国内では、14年ごろから改修などのため著名なイベント会場が相次ぎ閉鎖され、大人数が入る会場は確保しにくくなっている。一方、ライブ収入を確保するためにイベントの規模は拡大傾向にあり、会場代は高止まりしている。規模拡大でスタッフ数も増加し、運営コストを押し上げている。

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コンサートやステージのチケット代」に関して「10年前に比べると平均価格は2割以上高い」と言うのならば、誰かが平均価格を調べているはずだ。それは日経でもいい。どこの出した数字なのかは明示してほしかった。

最初は「コンサートプロモーターズ協会」が調べた数字なのかと考えた。しかし、この協会が出しているのは「2015年1~6月のチケット代」の平均だ。今年の数字が分かっていればそれを使うだろうから、今年と10年前を比べて「2割以上高い」と言っているのとは別物と考えるのが自然だ。

残る候補は「ぴあ」だが、これも出てくる最新の数字が「14年」なので違う気がする。だとすると候補がなくなってしまう。さらに言えば、10年前に比べて2割以上高くなった「今年の平均価格」の実数も分からずじまいだ。

何となくインチキ臭さが漂う今回の記事について、どう考えるべきか。「推理してみろ」と言われれば、「10年前に比べて2割以上高い平均価格とは、コンサートプロモーターズ協会が出している15年1~6月の6422円だろう」と回答したい。

昨年1~6月の数字しかないのに、そのデータを柱にして1面の囲み記事にするのは厳しい。なので、第1段落では今年の平均価格があるように装ったのだろう。「昨年1~6月の平均価格でも10年前より2割以上高い。昨年7月以降も上昇傾向は続いているようなので、今年の平均価格が10年前より2割高いと書いても間違いではない」と筆者は考えたのではないか。

もちろん推測の域は出ない。ただ、日経にありがちな話ではある。今年の平均価格を筆者が持っていれば使うはずだ。今年の数字を出さずに15年1~6月と14年のデータを用いているのは、やはり怪しい。

ついでに言うと、チケット代が上昇している理由も納得できなかった。「規模拡大でスタッフ数も増加し、運営コストを押し上げている」というが、規模を拡大しているのであれば収容人数も増えるのだから、観客1人当たりのコストが増えるとは限らない。会場代は「高止まり(高水準での横ばい)」のようなので、「アーティストの招請費用」の上昇以外に値上げの理由は見当たらない。

アーティストの招請費用」に関しても、「音楽CDの販売数が落ち込んでおり、『ライブで収益を伸ばそうとするアーティストが目立つ』」とすれば、基本的にはライブの供給が増えるはずだ。なのになぜ「アーティストの招請費用」が上がっていくのか。あり得ないとは言わないが、記事の説明では理解しづらい。

元々が雑な作りなので、その辺りにツッコミを入れる意味は乏しいのだろう。結局この記事も「日経の夕刊は歴史的使命を終えつつある」と教えてくれているのだろうが…。


※記事の評価はE(大いに問題あり)。

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