早稲田大学(東京都新宿区) ※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
今日買って明日売るような短期投資を否定はしませんが、それは手法の一つにすぎません。投資の本質とは未来を夢見て、長い時間をかけて資産を育てることなのです。相場が急落して資産が目減りする局面もあるでしょうが、息長く取り組めば収益を生む可能性が高いのは事実です。
日経平均株価に連動する投資信託を使い、1995年末に1万円で運用を始めたとします。毎月末に1万円ずつ追加購入すると、2015年末の資産は約360万円に増えていた計算です(手数料は無視)。投資額は240万円ですから1.5倍です。このほかに分配金ももらえます。
過去20年間には強い逆風もありましたが、我慢すれば報われたのです。長期投資は人や会社にお金を託して未来を創ることです。思惑通り価値が高まれば資産も増えます。
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投資初心者に考えてほしい点を列挙してみる。
◎なぜ「95年末からの20年」なのか?
藤野氏は投資期間を「95年からの20年」と任意に選んで「我慢すれば報われたのです」と書いている。この場合は実際に報われたかもしれないが、全ての長期投資に当てはまるわけではない。例えば、バブル崩壊直前の1989年末から2009年末まで投資すれば、全く違った結果になる。1つの例を示して「長期投資なら報われる」と訴えるのであれば、考えうる最悪の期間で見るべきだ。
「確率的に見て長期投資の方が報われる」との考えであれば、それをデータで示す必要がある。「95年からの20年」はご都合主義的な前提条件と言われても仕方がない。
◎なぜ「手数料は無視」なのか?
記事中で断ってはいるものの、「手数料(信託報酬)」を無視するのは感心しない。インデックス投信の平均的な信託報酬で計算するのは、それほど手間ではないはずだ。「手数料を加味するとリターンが非常に低くなるので、長期投資の有効性を納得してもらいにくい。だから無視しよう」との判断が働いたのかと勘繰りたくなる。
手数料を含めるならば、分配金や税金も考慮していい。投資家にとってより重要なのは手数料・税金が引かれた後のリターンのはずだ。
◎なぜ「積み立て」なのか?
長期投資の有効性を事例で示すのに「毎月1万円の積み立て投資」を選んでいるのも気になった。長期投資について論じるならば、「積み立て」である必要はない。わざわざ条件に積み立て投資を組み込んでいるのを見ると「長期の積み立てで投資するのが得ですよ」と誘導しているようで気になる。長期投資が本当に有効ならば、なるべく早い時期に投資金額を膨らませた方が得なはずだ。
定額積み立ての「ドルコスト平均法」は投資家に不利ではないが有利でもない。ただ、資産をあまり持っていない投資家に継続的にカネを振り込ませて最終的な投資金額を積み上げさせるという意味では、投資商品を売る側にとって悪くない投資方法だ。なので「毎月1万円の積み立て投資」との前提条件には、好ましくない意図を感じてしまう。
◎まとめると…
投資初心者に「長期投資は有利ですか」と聞かれたら「売買手数料を抑えられるという意味では有利だ」と答えるだろう。逆に言えば、長期投資であっても頻繁に銘柄入れ替えなどをやってしまうと「有利」とは言い難くなる。「一時的に大きく相場が落ち込んでも長い目で見れば回復して報われる」といった話は、日本株はともかく米国株で見れば成立してきたはずだが、今後もそうなるとは限らない。あまり信じない方が無難だろう。
連載のタイトルは「長期投資のすすめ」なので、第2回以降も「長期投資は優れている」といった話が続くのは間違いない。少々心配ではある。
※記事の評価はD(問題あり)。藤野英人氏への評価も暫定でDとする。
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