2016年1月28日木曜日

市場分析に難あり 週刊エコノミストの谷口健記者

週刊エコノミスト2月2日号に載った「止まらない世界同時株安~アベノミクスに立ちはだかる原油暴落、米利上げ、中国失速」は分析の甘さが目立つ記事だった。筆者の谷口健記者は市場関連記事を書く上で知識が不十分だと思えた。まずは、最も気になった「アベノミクスが犯した2つの間違い」について見ていく。
久留米大学附設高等学校(福岡県久留米市)
            ※写真と本文は無関係です

【エコノミストの記事】

豊島氏は、15年6月がアベノミクス相場の最高値だったと言い切る。今年前半は、上値が1万7000円、下値が1万4500円まで、レンジ(値幅)が下がったと予想する。その根拠はアベノミクスが犯した2つの間違いだ。

「1つ目の間違いは、アベノミクスが当初に掲げた『三本の矢』を達成する前に、『新・三本の矢』にすり替えたこと。そして、東芝の不正会計問題で日本企業全体のガバナンス(企業統治)に疑いの目を持たれ、東芝は氷山の一角ではないかという信用不安を生んでいる」(豊島氏)

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豊島&アソシエイツ代表の豊島逸夫代表は「東芝の不正会計問題」を「アベノミクスが犯した2つの間違い」の1つとは考えているようだ。しかし、これは無理がある。安倍政権の政策変更によって東芝が不正会計へのインセンティブを持ってしまったのならば分からなくもないが、東芝の件はそうした問題ではない。谷口記者はコメントとして使う時に「おかしい」と感じなかったのだろうか。

『三本の矢』を達成する前に、『新・三本の矢』にすり替えた」との豊島氏のコメントも謎だ。「三本の矢」とは「大胆な金融緩和」「機動的な財政政策」「成長戦略」の3つを指す。効果はともかく、どれも実行には移されている。そういう意味では「達成した」とも言える。「達成していない」と主張するならば、具体的に何を達成できていないか言及してほしい。

新・三本の矢」と違って「三本の矢」は目標というより手段だ。だから、そもそも達成することに意義が乏しいような気もするが…。

原油市場に関する説明にも疑問が残る。

【エコノミストの記事】

原油急落を前に石油輸出国機構(OPEC)の盟主・サウジは、手をこまねいているばかり。サウジはじめOPEC加盟国が協調して減産に動けず、価格調整の役割を放棄している。これによって、原油の価格決定権をニューヨークの投機筋に譲ってしまった

その投機筋は「原油先物を空売りしては買い戻しの繰り返しで1バレル30ドル台でも左うちわで利益が出ており、20ドル台に入ってもまだ空売りする余裕がある」(市場関係者)。これが原油安が止まらない理由で、その原油リスクを嫌気して株安が進んだ構図だ。

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OPECが価格決定権を市場に譲ってしまったのは、最近の話ではない。遅くとも1990年代にはそうなっていた。記事の書き方だと、ごく最近までOPECが価格決定権を持っていたような印象を受ける。

投機筋が原油先物で売りを仕掛けるから原油安が進むという説明も納得できない。投機筋全体で見るとNY原油市場では買い越しとなっている。しかも、昨年末に比べると買い越し幅は拡大している。記事を読むと普通は「投機筋が大きく売り越している」と思ってしまうのではないか。投機筋が買い越しで、買い越し幅も拡大傾向であれば「投機筋が売りを仕掛けるから、原油安が進む」という説明では辻褄が合いにくい。

谷口記者はNY原油市場の建玉明細をチェックした上で記事を書いたのだろうか。きちんと目を通していれば、今回のような書き方にはならないはずだ。

言葉の使い方についても2つ指摘しておきたい。

【エコノミストの記事】

・2014年秋から始まった原油安は、今年に入っても下がり続けている

・日銀の量的緩和第3弾(QQE3)をめぐっては、政府周辺からも期待感が漂う。

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原油安は~下がり続けている」は拙い表現だ。「2014年秋から始まった原油安は、今年に入っても続いている」などとしてほしい。

日銀の量的緩和第3弾」については、略語を「QQE3」とするのであれば「量的質的緩和第3弾」と表記すべきだろう。


※記事の評価はD(問題あり)。谷口健記者への評価も暫定でDとする。

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