2016年1月21日木曜日

見出しに釣られて日経「新興国の失業率悪化」を読むと…

見出しに釣られて記事を読んでしまい「引っかかってしまった」と後悔することがある。20日の日本経済新聞夕刊1面に載った「新興国の失業率悪化 昨年5.6%、資源安が影 ILO『社会不安広がる懸念』」はそんな記事の1つだ。見出しに間違いはない。記事によると、新興国の失業率は確かに悪化している。しかし、わずか0.1ポイントだ。「ほぼ横ばい」と言ってもいい。

早稲田大学大隈庭園(東京都新宿区) ※写真と本文は無関係です
記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

【ダボス(スイス東部)=原克彦】国際労働機関(ILO)が19日発表した2015年の世界の失業率は5.8%と前年に比べ横ばいだった。先進国は6.7%と同0.4ポイント改善したものの、人口が多い新興国で5.6%と同0.1ポイント悪化。特にロシアが0.6ポイント、ブラジルは0.4ポイントとそれぞれ大幅に失業率が上がった。ライダー事務局長は「商品相場の下落に伴う新興国の減速が世界の雇用に影響している」と警戒を促した。

先進国は日米英のほかにドイツやイタリアも雇用情勢が改善し、失業率は総じて低下した。ただし資源国のオーストラリアは6.3%と同0.2ポイント上昇した。新興国ではロシアとブラジルのほかに南アフリカやトルコも雇用が悪化。中国は4.6%で横ばいだが、ILOは16年に同0.1ポイント上昇すると予想する。

世界の失業者数は15年に1億9710万人にのぼった。16年は労働可能な人口が増えるため失業者は1億9940万人に増えるとみている。

ILOは新興国や途上国での雇用情勢の悪化で社会不安が広がる危険性が増していると指摘。20日にスイス東部で始まる世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)でも議論を促す。東南アジアで74%、アフリカ南部でも70%の労働者が失業手当などの社会保険を受けられない状態にあることも問題視している。

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これは整理担当者にとって見出しの付けづらい記事だ。「世界の失業率 15年は横ばい」では「なぜ1面なのか」という話になってしまう。1面らしくするために「新興国の失業率悪化」としたのだろう。代償として、見出しに大げさ感が出ている。

中身を見る限り、1面に持ってくるような話とは思えない。1面に持ってくるならば、1面の記事として見出しが付けやすいような書き方をすべきだ。ただし、今回のILOの発表内容ではかなり苦しいだろう。最も大きく動いているのが「先進国」なので、「先進国で失業率低下」を柱に据えるしかないが、「資源安を受けて新興国で失業率低下」という話に比べてインパクトに欠ける。1面で囲み記事にしようとすれば、結局どこかに無理が出てしまう。

ついでに言うと、原記者が「ILOは新興国や途上国での雇用情勢の悪化で社会不安が広がる危険性が増していると指摘」と書いているのも気になった。記事に付いたグラフを見る限り、15年の失業率は途上国で横ばい。2016年と17年の予想は、新興国も途上国もこれまた横ばいだ。だとしたら「雇用情勢の悪化で社会不安が広がる危険性が増している」のはなぜなのか。記事の中に答えは見当たらない。

余談ではあるが、ILOが新興国と途上国を分けて数字を出しているのは興味深い。どういう基準で新興国と途上国を分類しているのか、グラフに注記でも入れてくれると助かるのだが…。

※記事の評価はC(平均的)。原克彦記者への評価も暫定でCとする。

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