英彦山山頂(福岡県添田町)からの眺め ※写真と本文は無関係です |
◎「安定している」のかいないのか?
【ダイヤモンドの記事】
フジをはじめとした民放キー局が、国に支払う電波利用料は年間4億円前後。対して、そこから生まれる広告収入は、2000億円前後にも上る。投資に対して、500倍以上もの「リターン」がある計算だ。
毎年1000億円近い番組制作費を投資に加えたとしても、それでもリターンは2倍。ここまで「コスパ」が良く、安定したビジネスモデルは、産業界を見渡してもそうそうない。
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1000億円程度の製作費で2000億円前後の広告収入が得られていたのは昔の話なのか、今も続いているのかが記事からは読み取りにくい。記事の冒頭では「打ち出の小づちだった」というフジテレビ幹部のコメントを紹介し、上記のくだりの後には「ではなぜ、冒頭の幹部は『だった』と過去形で話したのか」とも書いている。そうなると、「リターンは2倍」は過去の話だと思える。しかし、それだと現状はどうなのかとの疑問が湧く。また、「そこから生まれる広告収入は、2000億円前後にも上る」との書き方は、過去ではなく現在を描写しているようでもあるので解釈に迷った。
◎「ジェリコの戦い」と似てる?
【ダイヤモンドの記事】
話のあらすじはこうだ。古代イスラエルの預言者モーゼの後継者だったヨシュアは、モーゼの遺志を受けて、世界最古の町・ジェリコの攻略に向かう。
町を覆うのは、打ち破られることはないとされる、分厚く強固な城壁だ。
そこでヨシュア軍は、神のお告げに従い、6日間かけて、毎日ゆっくりと城壁の周りを一周し、7日目には町を7周した。
その後、司祭が羊の角笛を吹き、軍勢が鬨(とき)の声を上げると、城壁はたちまち崩壊したという。
地上波という城壁の中に居を構える民放各局にとって、ヨシュア軍はネットフリックスをはじめとした動画配信事業者に、角笛はさながらスマートフォンなどの携帯端末に見えているかもしれない。
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旧約聖書に出てくる「ジェリコの戦い」になぞらえるのであれば、「神のお告げに従っただけで、戦う前に敵の城壁が崩壊する」という状況が欲しい。しかし、ネット配信業者が「神のお告げ」に従っている様子は記事からは伝わってこない。記事では「今、民放が置かれている状況は、ヨシュア軍侵攻の6日目なのか、はたまた7日目なのか」と書いているが、動画のネット配信サービスはすでに始まっているので、攻め入る立場の配信業者が「神のお告げに従って城壁の周りや町を回っている状況」とも考えにくい。戦いは既に始まっているとみるべきだ。
◎すでに民放は「崩壊」?
【ダイヤモンドの記事】
「この業界はあと数年もたたないうちに必ず大きな変革の波にのみ込まれる。そのとき(民放)キー局は、まさかつぶれはしないだろうけど今の規模のままでは到底生きられないだろうね」
遠い目をしながらフジの幹部はそう話すが、ジェリコの戦いの一説では、ヨシュア軍が町に到着したとき、絶対に崩れないはずの壁はすでに崩れ落ち、町は誰一人いない廃虚になっていた。
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上記のくだりは「強烈な『外圧』にあらがえず、やむなく屈するのであればまだ言い訳が立つが、現状はもっと深刻かもしれない」「城壁は外圧によってではなく、内部の土台が揺れ動くことで軋み始めている」といった説明を受けてのものだ。つまり、「ヨシュア軍が町に到着したとき(=ネット配信業者が民放の牙城を切り崩そうとしたとき)に、壁(=地上波)はすでに崩れ落ち、町(=民放各社や民放視聴者)は誰一人いない廃虚になっていた」という状況に陥る可能性を示唆していると解釈できる。
しかし、これは奇妙だ。記事では「今、民放が置かれている状況は、ヨシュア軍侵攻の6日目なのか、はたまた7日目なのか」と書いているのだから、ヨシュア軍(=ネット配信業者)が町に到着しているのは間違いない。記事の例えが機能するためには「現時点で地上波の壁が崩れていて、民放各社に人はいないくなっている」との状況が必要になる。しかし、民放各社に今も人はいるし、破綻寸前でもない。
「誰一人いない廃虚になっていた」とまで言うためには、地上波放送がすでになくなっているぐらいの状況が欲しい。記事で言う「一説」とは、考古学的な調査によるとヨシュア軍の到着するずっと前に壁は崩壊していたとされることを指すのだろう。だとすると、例えがピッタリはまるためには、ネット配信業者がサービスを始める何年(あるいは何十年)も前に民放各社が消滅していないと苦しい。
結論として、この記事に「ジェリコの戦い」の話を持ってきたのは失敗だったと言える。
最後に、記事中の不自然な文に触れたい。
◎「コンテンツ自体の販売収入と」何がセット?
【ダイヤモンドの記事】
落ち目の地上波に億円単位の費用を投じるより、コンテンツ自体の販売収入と、ドラマのワンシーンに商品を出すようなかたちで広告をする方が「今の時代には合っているのかもしれない」と、大手メーカーの役員は話す。
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上記のくだりは「コンテンツ自体の販売収入」と何を並立関係にしているのか不明だ。「販売収入とワンシーン」「販売収入とかたち」「販売収入と広告」「販売収入と広告をする方」のいずれでも、うまくつながらない。改善例を示しておく。
【改善例】
落ち目の地上波に億円単位の費用を投じるより、コンテンツ自体の販売収入を得つつ、ドラマのワンシーンに商品を出すような形で広告をする方が「今の時代には合っているのかもしれない」と、大手メーカーの役員は話す。
※色々と注文を付けたが、特集への高い評価を覆すほどではない。特集への評価はB(優れている)とする。田島靖久副編集長の評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。中村正毅、宮原啓彰、森川 潤の各記者への評価は暫定でBとしたい。田島副編集長のF評価については「週刊ダイヤモンドを格下げ 櫻井よしこ氏 再訂正問題で」を参照してほしい。
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