2015年10月27日火曜日

「TSUTAYA特集」に見えた東洋経済 杉本りうこ記者の迫力

週刊東洋経済10月31日号の巻頭特集「TSUTAYA 破壊と創造」(34~53ページ)は満足できる出来だった。特に増田宗昭カルチュア・コンビニエンスクラブ社長のインタビュー記事が秀逸だ。筆者の杉本りうこ記者に関しては、10月24日号の深層リポート「アシックス 知られざる改革」を「ヨイショが過ぎる」「批判精神が足りない」と批評したばかりだが、今回は一転して迫力と緊張感のあるインタビュー記事に仕上がっていた。

シーサイドももち海浜公園(福岡市早良区) ※写真と本文は無関係です
経済メディアの取材をほとんど受けないCCCの増田宗昭社長に、独占インタビューを行った」とのくだりに触れた時は「取材に応じてもらう代わりに、相手を持ち上げるような質問ばかりするのでは?」と心配になったが、杞憂に終わった。本来ならば省いてもいいような増田氏とのやり取りをあえて文字にすることで、インタビューの緊張感が伝わってきたし、それが増田氏という経営者の実像を浮き彫りにする効果も発揮している。

その一部を見てみよう。


【東洋経済の記事】

--そもそも図書館事業はどう収益化する方針ですか。

武雄の収益を聞いた? もう全然赤字だから。だけど喜んでくれている人がいるの。誰だと思う? 来館者です。そのコスト、僕らが負担してるのよ。

--それではまったくサステナブルではない。

それをどうするか考えるのが俺らの責任。継続性という観点では、公共工事も民間事業も一緒。それで知恵を使ってるわけ。だから、それはR&Dの視点で「こうやったらええんちゃうか?」と試行錯誤している。今は「赤字だからといって、コストダウンばかりしてはダメ。ブランドイメージもあるし」って言って赤字を容認してる。その代わり、4年目ぐらいには黒字出せよと。

--どういう方法で?

うーん。多少、市にお願いするかもしれない。俺は担当じゃないから細かいことは分からない。

--質問を変えますが…。

ちょっと、今の話わかってくれた? 大事な話よ、ここ。みんな俺らが経営してると勘違いしてるけど、図書館は市が経営しているの。それを委託されているんだから。ここの区分けがあなた、できていないんじゃないの? そして市民は議会を通して、場合によっては住民投票のような手段で議論する。だから小牧は健全なのよ。あの投票はすごくよかったと俺は思うよ。 

--では投票結果を受け、「CCCには依頼しない」となれば。

仕方ない。それは市民の決断だから。もちろん「図書館を作るなら、俺らと組んだほうがいいよ」というアピールはするけどね。

----------------------------------------

取材相手から「ちょっと、今の話わかってくれた?」といった反応が返ってくることは珍しくない。しかし、普通はインタビュー記事にまとめる過程で省いてしまうし、少ない行数しかない場合、「省くのが正解」とも言える。しかし、上記のやり取りでは、増田氏が記者に「わかってくれた?」「ここの区分けがあなた、できていないんじゃないの?」と問いかける部分があるおかげで、増田氏が何にこだわっているのかが伝わってくる。もちろん、記者が増田氏と緊張感を保って話を進めているのも実感できる。

増田氏に切り込んでいく記者の様子に好感が持てた部分をもう1つ紹介しておこう。


【東洋経済の記事】

--要するに、無用な疑念を招かないことが公的な事業をやるうえで重要なのでは。その意味で、なぜ前武雄市長の樋渡啓祐氏を系列会社のトップに迎え入れたのでしょうか。

やましいことは何もない。だから極端な話、疑われても全然構わない。俺は彼の戦力としての面、物事の考え方や市民に対する思いは日本に必要だと思っている。彼の力を借りようと俺が思ったの。だってCCCじゃあ、行政のことわからないもの。行政と民間は意思決定のプロセスが全然違うから。だから俺らがどんなにいい提案書を書いても刺さらない。そこで樋渡さんが「これじゃダメよ。こっちからまず説明しなさい」と教えてくれる。だったらうちの会社でやってよ、っていうだけ。

--やましくないからこそ、距離を置くべきだったのでは?

やましく思われるかどうかは俺らにとって重要じゃない。いい企画を作れるかどうかが軸。それを曲げてまで、世間体を気にするつもりは僕にはない。そうじゃなかったらイノベーションなんて生まれないんだよ。イノベーションって執念がいるの。俺、代官山(蔦屋書店)をやるときにも、役員全員に反対されたのをやり抜いたんだから。

組織や社会の意思決定においては大きな声を出す人がいる。株主総会でも1株しか持っていない人が発言できる。開かれている反面、本当にリスクを取っている株主の発言機会が奪われることもある。そういうのはどうなのかなって、総会の議長をしながらずっと思っていた。

図書館問題でも、いったい誰がどのぐらい損をしているの? それより俺が問題意識を持っているのは、図書館が箱モノ事業の典型になっているということよ。おカネをうんと使って、癒着業者もいる。そういう問題を誰も書かない。

--でも、このままではTSUTAYA図書館こそ箱モノになります。

なんで?

--確かに来館者数は大きく増えました。しかしそれが、カフェがあってくつろげる空間だからというだけでは…。

でもその部分の投資は、俺らがコストを負ってやってんのよ。

昨日、ある事業本部の連中を全部集めて図書館問題を総括したのよ。そこで言ったのは、ミスは誰にでもある、それは仕方がない、きちんと謝っていこうと。だけど地域創生の役に立っているし、市民の税金を本当に効率よく使うのは俺たちなんだという自信は失わずにやろうぜ、ということ。

今は超ローコストの図書館を設計しようとしている。みんな「図書館って、このぐらいおカネを使っていい」みたいな常識に乗っかっちゃってるから。そういう挑戦で、企画会社としての価値をもっと発揮していこうと。

海老名でも1日2000冊もの貸し出しがあって、スタッフみんながもう夜遅くまで、必死に書棚に戻してるわけ。そんな中でネガティブなことばっかり言われるんだよ?

----------------------------------------

読み応えがあるからか、ついつい引用が長くなってしまった。若手の経済記者にはぜひ読んでほしいし、自分がインタビュー記事を作る際の参考にしてほしい。記者にとって取材先との関係が大切なのは、もちろん分かる。しかし「とにかく相手に気に入られたい」「相手を怒らせるようなことは絶対に聞けない」と思った瞬間から、ヨイショ記者として生きていくしか道がなくなる。この手の記者の生み出す記事は一種の広告なので、カネを出して読む価値はない。価値のある記事を作れる書き手であるためには、多少のリスクを負ってでも、厳しい質問を投げかけていく必要がある。若手記者には、そのことを忘れないでほしい。


※記事の評価はA(非常に優れている)。「アシックス 知られざる改革」を受けて杉本りうこ記者の評価は暫定でD(問題あり)としていたが、これまでの記事に対する評価を総合して暫定でB(優れている)に引き上げる。次も批判精神あふれる記事を期待したい。

0 件のコメント:

コメントを投稿