2015年9月2日水曜日

東洋経済「郵政上場特集」 せっかくの力作なのに…(3)

買いますか 買いませんか 日本郵政株」という東洋経済9月5日号の特集に関する問い合わせに回答が届いた。納得できるものではなかったが、興味深い中身だった。早速、内容を分析してみよう。
スヘフェニンヘン(オランダ)のクルハウス 
             ※写真と本文は無関係です

◎「重し」は負担?

【問い合わせ】

(1)51ページには「ユニバーサルサービスのインフラである全国約2万4000の郵便局の存在が収益の重しになっている面もありそうだ」との記述があり、87ページの見出しは「ユニバーサルサービス 2600億円超の維持費用が重しに」となっています。「重し」を「重荷」の意味で用いるのは誤りです。8月29日号の「ライザップの真実」でも同じような使い方をしており、問い合わせに対して「『重し』ではなく、『重荷』とすべきでした」との回答を既に頂いています。なのになぜ、似たような表現を2カ所も使ってしまったのでしょうか。編集部内で情報共有はされているのでしょうか。

【回答】

先日、「ライザップ」の記事に関して回答を差し上げました後、関係者で協議しました結果、「重荷」と「重し」をいずれも「負担」という意味で用い、ネガティブかそうでないか前後の文脈に応じて使い分けることにいたしました。私どものルールに照らしますと今週号のご指摘部分に関しては誤りではございません。


デジタル大辞泉で「重し」を調べると(1)物を押さえつけるために置くもの。おし。「辞書を―にする」(2) 人を押さえ鎮める力。また、その力をもっている人。「若輩で―がきかない」(3) 秤(はかり)のおもり--となっている。これで「重し」を「負担」の意味に用いられるだろうか。例文にある「辞書を重しにする」の場合、辞書は何かの「負担」になっているわけではない。風で何かが飛んだりしないようにする役割を担っているのだろう。

ネガティブかそうでないか前後の文脈に応じて使い分ける」というのはよく分からないが、東洋経済が「重し」を「負担」の意味で用いると決めたのなら、読者としては従うしかないだろう。これまで「組織内ではAさんが重しとなっていた」と書いてあった場合、「Aさん=組織を安定させる役割を担う人」と解釈していたが、これからは東洋経済の記事であれば「組織にとって負担になる人」と変換する必要がある。それを考えると、ちょっと面倒ではあるが…。


◎みずほFGを除けば済む話では?

【問い合わせ】

(2)53ページに「第一生命保険、みずほFGが上場するまで、NTTは最も株主数が多い銘柄だった」との記述があります。上場時期はみずほFGが2003年、第一生命が2010年と離れています。
NTTが株主数で最多だった時期はどう理解すればよいのでしょうか。「2003年に株主数トップではなくなったが、その後に再びトップとなり、2010年に今度は第一生命に抜かれた」ということでしょうか。仮にそうだとしても「第一生命保険、みずほFGが上場するまで、NTTは最も株主数が多い銘柄だった」との説明は適切なのでしょうか。

【回答】

こちらに関します事実関係は以下の通りです。

NTTは、みずほより後に上場してきた第一生命にまず抜かれ、次にみずほに抜かれ、いったんみずほを抜き返し、しかし第一生命を抜くほどではなく、その後にみずほにまた抜かれ、最終的にはみずほは第一生命も抜いた

当該記事の主旨は「NTTは長らく株主数で首位だった」ことです。そこで詳細については割愛し、「第一生命保険、みずほFGが上場するまで、NTTは最も株主数が多い銘柄だった」との記述としています。


結論から言うと、この記事の説明ではダメだ。回答の通りの事実関係ならば「第一生命保険が上場するまで、NTTは最も株主数が多い銘柄だった」でいい。みずほFGを除くだけで問題はほぼ解消する。「記事中で詳細に記述しろ」と求めているわけではない。混乱させるような書き方をなぜするのかが問題だ。回答の説明を信じれば「みずほFGの上場時期」と「NTTが株主数トップではなくなった時期」に直接的な関係はない。しかし、記事を素直に読めば、そうは思わないだろう。だから、この書き方では不合格だ。


◎「伝わらないこと」への恐れはある?

【問い合わせ】

(3)63ページの記事では、メルパルクについて「日本郵政が承継・運営してきたが、08年に挙式サービス会社・ワタベウェディングにゼロ円で事業譲渡された」と書かれています。しかし、その後に「(日本郵政の)宿泊事業の損益はかんぽの宿が赤字、メルパルクが黒字」との説明があります。後者を信じれば、日本郵政は現在もメルパルクの宿泊事業を自社で手がけていることになります。これはどう理解すべきでしょうか。日本郵政はメルパルク関連の不動産を保有しているようですが、それだけならば「宿泊事業」とは呼ばないはずです。

【回答】

ワタベへの譲渡は、記載しております通り「事業」の譲渡であり、保有資産の譲渡ではありません。ワタベに賃貸する形で日本郵政が宿泊事業を運営しています。なお、日本郵政の宿泊事業にはメルパルクだけでなく、保有・運営するかんぽの宿も含まれます。


ワタベへの譲渡は、記載しております通り『事業』の譲渡であり、保有資産の譲渡ではありません」というのは、もちろん分かっているし、問い合わせにも書いている。問題は記事中の説明の仕方だ。メルパルクについて「事業譲渡した」と書いた後で「宿泊事業の損益はメルパルクが黒字」と出てくれば、「えっ!どういうこと? 事業譲渡したんじゃなかったの?」と読む側が混乱するのは当然だ。

例えば、「A社はB社に百貨店事業を売却。その結果、A社の百貨店事業が黒字化した」と書いてあったら、「何それ?」と思わないだろうか。不動産を日本郵政が保有して貸し出しているのであれば、常識的には「不動産賃貸事業」だ。それを日本郵政が「宿泊事業」に含めるのは勝手だが、だからと言って記者がその情報をそのまま記事にしてはダメだ。改善例を示してみる。


【改善例】

(日本郵政の)宿泊事業の損益はかんぽの宿が赤字で、保有不動産を貸すだけとなったメルパルクは黒字。

例えば上記のように書いてあれば、すんなり読めた。今回の回答からは「自分たちの記事は読者にきちんと伝わるような配慮が十分にできているだろうか。何か足りないところはないだろうか」という恐れが感じられない。それが残念だ。せっかくの力作なのに…。

編集部には再度の問い合わせをした。最後にその内容を紹介する。


【東洋経済への問い合わせ】

東洋経済9月5日号の「郵政上場特集」に関する問い合わせに対し、丁寧な回答を頂きありがとうございます。ただ1点、記事の説明と食い違う部分がありましたので、再びお尋ねいたします。

回答では株主数に関して「NTTは、みずほより後に上場してきた第一生命にまず抜かれ、次にみずほに抜かれ、いったんみずほを抜き返し、しかし第一生命を抜くほどではなく、その後にみずほにまた抜かれ、最終的にはみずほは第一生命も抜いた」と書かれています。しかし53ページの記事では「(NTTは)現在は第一生命、みずほFGに次ぐ3位」となっています。回答によると、現在の株主数トップはみずほFGですが、記事に従えば第一生命です。どちらを信じればよいのでしょうか。

付け加えると、今回の回答からは「記事中の分かりにくい説明をできるだけなくしていこう」という意思が感じられませんでした。そこは少し心配です。

たびたび申し訳ありませんが、回答をよろしくお願いします。


※この問い合わせへの回答は(4)で紹介する。

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