2015年9月18日金曜日

「種類株ゆえの緊張」と言える? 日経「資金調達 新潮流」

17日の日経朝刊投資情報面に出ていた「資金調達 新潮流(下) ~種類株が生む新たな緊張」を最後まで読んでも「種類株が生む新たな緊張」は感じられなかった。記事で取り上げていたのは「種類株がなくても生まれる緊張」ばかりだ。記事の中身を見ながら考えてみたい。

リエージュ(ベルギー)の中心部に近いギユマン駅 
                ※写真と本文は無関係です
                  
【日経の記事】

米国2位の公的年金基金、カリフォルニア州教職員退職年金基金のクリストファー・エイルマン最高投資責任者には心配事がある。「他の日本企業に広がったら……」

トヨタ自動車が7月に約5000億円発行したAA型種類株のことだ。議決権も付き、配当もあるが5年間は原則、売らせない。その上、5年後にトヨタが発行価格で買い取るという、事実上の元本保証も付けた。

息の長い研究開発に必要な投資の原資を、今は預金に眠る日本の個人マネーから調達しようという「資本市場の活性化を半歩進める」(豊田章男社長)試み。それは取りも直さず経営の監視役の株主の顔ぶれを企業自らが選別する側面を持つ

2015年3月末に約18%と9年ぶりに2割を切った個人株主を増やし、逆に言えば過去10年で10ポイント増えた外国人株主(約31%)を減らす。資金調達を通じた株主構成の再構築に通じる

それだけに海外機関投資家を中心に反対も多く、6月の株主総会での反対票は25%に達した。辛くも発行にこぎ着け、販売も完了した8月6日早朝。豊田社長の姿が野村証券名古屋駅前支店にあった。会社の狙いを種類株の形に落とし込み、販売を成功させた野村の朝礼に飛び入り参加して、スタッフを直接ねぎらった。


記事では、トヨタによる種類株の発行を「経営の監視役の株主の顔ぶれを企業自らが選別する側面を持つ」と解説している。これによって緊張が生まれているのかもしれないが、「種類株が生む新たな緊張」とは言い難い。これまでも第三者割当増資などで企業は株主を自ら選んできた。トヨタの種類株発行では新たな大株主が生まれるわけでもないし、規模の大きな第三者割当増資に比べたら「緊張」もかなり小ぶりだろう。

以下の話も新たな問題とは思えなかった。

【日経の記事】

グーグルは3種の株を持つ。通常のA株、04年の上場時に共同創業者ラリー・ペイジ最高経営責任者(CEO)らに向け発行した10倍の議決権を持つB株、そして昨年導入した議決権のないC株だ。C株発行で資金だけ調達、B株の創業者株主らが思い通りに会社を支配するなら、株主による経営監視は機能しない


グーグルを「上場企業なのに株主による経営監視が機能しない例」と筆者らは捉えているのだろう。これも新しい問題とは思えない。以前から子会社上場でも似たようなことが言われてきた。50%超の出資比率を保つ親会社は基本的に「思い通りに会社を支配」できる。しかも上場に伴い子会社は資金調達も可能だ。そうした事例は珍しくないのに、グーグルの動きを新たな問題として認識すべきだろうか。

ついでに、記事中で他に気になる点もいくつか指摘しておこう。


◎なぜ「及び腰」?

【日経の記事】

「トヨタ―野村に続け」。海外投資家が懸念するように、証券業界は次の種類株発行例を求め売り込み攻勢を強める。だが、企業側は「あれはウチにはできない」(自動車A社)、「長期株主が欲しいのは確かだが……」(電機B社)と、今のところ及び腰だ。


トヨタのような種類株の発行に企業側は「及び腰」らしいが、その理由には触れていない。これでは、説明不足と責められても仕方がない。


◎「権利を負う」?

一方、瞬間蒸発したトヨタの種類株。知名度もあるが、伊藤園種類株と比べ決定的に違う点がある。議決権付き、かつ元本保証という、株式会社のガバナンスの根本にかかわる立て付けだ。海外投資家の目にはハイリスク・ハイリターンという株式の常識の逸脱に映る。「全ての株主は平等に権利をリスクを負うべきだ」(英機関投資家のリーガルアンドジェネラルのメリエム・オミ氏)


「リスクを負う」とは言うが「権利を負う」は違和感がある。例えば「全ての株主は権利もリスクも平等であるべきだ」とすれば問題はなくなる。


◎これは「種類株」の話?

【日経の記事】

フランスでは14年に「フロランジュ法」が成立した。株主総会で3分の2以上の反対を集めない限り、株式を2年以上保有する長期株主が一般株主の2倍の議決権を持つようになる。日産自動車が傘下のルノーでも既に導入が決まっている。


記事には「種類株は目的に応じそれぞれ特徴がある」というタイトルの表が付いていて「トヨタの新型株」「グーグルのC株」「フランスの大企業」を比較している。ただ、「フランスの大企業」のケースは「種類株」なのか疑問が湧いた。これは、普通株でも2年以上持てば議決権が2倍になるよう法律で定めただけではないのか。確信はないが、「フロランジュ法」に関する他の記事などを読む限りではそう思えた。


※記事の評価はD(問題あり)。暫定でDとしていた堤正治記者の評価はDで確定とする。二瓶悟、山下晃の両記者については暫定でDとする。

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