2015年7月17日金曜日

日経ビジネス「始まった都心争奪戦」の都心とは?(2)

日経ビジネス7月13日号の特集「ニトリ、銀座へ~始まった都心争奪戦」の中の「データで見る~都心を攻める6つの理由」という解説はかなり苦しい。(1)都心への人口流入が増えている (2)「脱デフレ」の兆しが見え始めた (3)訪日外国人の数が急増している (4)地方と比べて所得水準が高い (5)人口密度が圧倒的に高い (6)クルマの保有率が低い--というのが「6つの理由」だ。この中で納得できるのは「訪日外国人の数が急増している」ぐらいか。これは確かに都心への恩恵が大きいだろう。他の5つは疑問が残る。

オランダのデンハーグにあるマウリッツハイス美術館の所蔵品
                    ※写真と本文は無関係です

◎「都心への人口流入」が分かる?

記事では「東京都の転入超過数の推移」を基に「都心への人口流入が増えている」と説明している。「都心」の定義の問題とも絡むが、「東京都の転入超過」で見てしまうと、八王子市や日野市への転入も「都心への人口流入」になってしまう。「23区は転出超過だが、それ以外が補って東京都全体では転入超過」となった場合「都心の転入超過」と言えるだろうか。本当の「都心」に限定しても人口流入が増えているのならば、そのデータを使ってほしい。


◎脱デフレなら「都心」?

物価、賃金が上がると高価格帯の商品が売れるようになるので、出店コストの高い都心でも利益の出る環境が整う」と平気で書いているのには驚いた。奇妙なのは、インフレ率が高まっても出店コストは上がらないとの前提を置いている点だ。物価が上がれば従来より商品の価格帯は高くなるだろう。しかし、賃料や労働コストも上昇すると考えるのが自然だ。販売価格も賃料も労働コストも同じように上がっていけば、利益の出しやすさに基本的な変化はない。

「販売価格は上がるが賃料は横ばい」となる場合もあるだろうが、それはかなり変則的だ。今回の「脱デフレ」でそうなる確証があるのならば、その点を説明すべきだ。


◎昔からそうでは?

都心に関して「所得水準が高い」「人口密度が高い」「クルマの保有率が低い」というのは、以前からある傾向のはずだ。「郊外中心に出店していた企業が都心に注目するようになった理由」として挙げるのは苦しい。「郊外との所得格差が開いている」といった変化を見せるなら分かるが…。

さらに言えば「クルマの保有率が低い」のは、どうでもいい話ではないか。「(都心は)クルマを持たない消費者が多く、日常の買い物は近場で済ませる人が多い」と書いているが、「だから都心部に出店したい」となるだろうか。仮に都心では近場で買い物を済ませる傾向が強いとしても、消費者が外に逃げて行きにくい分、外から入ってきにくいので「行って来い」だと思える。

それに、この「6つの理由」は「ニトリが都心を攻めるワケ」という記事の一部だ。ニトリが扱う「家具」となれば「日常の買い物」とは言い難い。そもそも銀座に出店するのに「車がないから買い物は自宅の近所で」という人を当てにしているとは考えにくい。


※全体に無理のある特集だった。記事の評価はD(問題あり)。河野紀子、須永太一朗、武田安恵、杉原淳一、大竹剛の各記者の評価も暫定でDとする。

※この件では編集部から回答があった。「吉祥寺は東京23区内か? 日経ビジネスの回答」を参照してほしい。

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