【日経の記事】
アントワープ(ベルギー)のノートルダム大聖堂 ※写真と本文は無関係です |
株式市場が一般の人々の資産形成の場として根を下ろすには、日本株への期待リターンが継続的に資本コストを上回ることが条件になる。
「期待リターンが継続的に資本コストを上回る」という説明は苦しい。一般的に「期待リターン」とは株主資本コストの裏返しなので、基本的に数値は一致するはずだ。北沢編集委員へのメールの中では、以下のように説明した。
【北沢編集委員へのメール】
「資本コスト」という場合、負債も含めて考えるのが一般的ですが、ここでは文脈から判断して「資本コスト=株主資本コスト」との前提で話を進めます。「株主資本コスト」とは、「株主が企業に対して要求する期待収益率(期待リターン)」を企業側から見た言葉であり、原理的には「期待リターン=株主資本コスト」となるはずです。北沢さんも以前の記事で「株主資本コスト(期待収益率)」という表現を用いています。今回の記事に関しては、「期待リターン」を「実際のリターン」と置き換えれば、問題が解消しそうです。もちろん、「期待リターンと言っても、CAPM理論に基づいて計算するようなものではない。もっと漠然とした、その時の投資家全体の総意みたいなもの」といった弁明も成り立ちます。その場合、記事中の用語に関する説明が十分だとは言えないでしょう。
この指摘に対し、北沢編集委員から返信はなかった。なので、記事の説明には問題があったと考える方が自然だ。メールでは、他にも2点を指摘した。
~指摘その1~
【日経の記事】
ROEの最大化を目指す米国流の経営は、規模の拡大を犠牲にして成り立つ例が多い。ROEが高くなるほど、新規投資で現状のROEを維持するのは難しくなり、企業は投資よりも自社株買いや増配を優先したり、事業の売却や人員削減を進めたりする。会社の主人である株主が望むのは、1株利益の成長だからだ。
【北沢編集委員へのメール】
上記のくだりでは、「米国企業は株主が1株利益の成長を望むからROEの最大化を目指している」と解説しています。これに関しては、「株主の求めるものが1株利益の成長ならば、単に1株利益を最大化させればいいのでは?」との疑問が湧きました。ROEを高めるために増配するのは分かりますが、増配は1株利益の成長と直に結び付くわけではありません。「とにかく1株利益を増やしたい」と考えるのであれば、配当はゼロにして、利益が少しでも出そうな事業への投資に回すのがあるべき姿でしょう。
~指摘その2~
【日経の記事】
そして、ROEと配当性向の水準をどうするかが、期待リターンを決める重要な要素となる。
【北沢編集委員に送ったメール】
上記のくだりは理解に苦しみました。期待リターンを求めるのに一般的に使われるCAPM理論では、「期待リターン=金利+(株式市場全体の期待収益率-金利)×β」という関係が成り立ちます。ここで個別企業に関わる部分はβだけですが、βは個別銘柄の株価と市場全体がどのくらい連動しているのかを表す数値であり、個別企業のROEや配当性向と大きな関連はないはずです。期待リターンの求め方は1つではないので、「ROEや配当性向は期待リターンを決める重要な要素にはなり得ない」とまでは言いません。ただ、「重要な要素となる」と断定するのならば、ROEや配当性向が期待リターンにどう関係するのか、もう少し説明が必要でしょう。
※私の指摘が的を射ているかどうかについては、やや自信がない部分もある。ただ、以上の指摘に対して、北沢編集委員から反応はなかった。こうした昨年までの記事の内容も考慮に入れた上で、記者としての評価をDとしている。今回の(1)~(3)だけでなく、「『株主優待制度をしている』?」でも北沢編集委員の記事に言及しているので、参考にしてほしい。
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