2015年6月17日水曜日

年産量は「200トン」? 日経「プラチナ、長引く逆転相場」(2)

引き続き、ツッコミどころの多い「プラチナ、長引く逆転相場」という日経の記事(17日付朝刊マーケット総合2面)に注文を付けていく。

◎「生産量 年間200トン」と言われたら…

プラチナの生産量は年間200トン」と書いてあったら、どう理解するだろうか。記事では「年間」がどの年を指すのかには言及していないし、「約200トン」でも「200トン前後」でもなく「200トン」と言い切っている。普通は「プラチナの年間生産量は200トンでほぼ一定」と読み取るだろう。「直近の2014年の生産量は200トン」と補って解釈する読者もいるかもしれない。

ヴェンツェルの環状城壁(ルクセンブルク)  ※写真と本文は無関係です
調べてみると、プラチナの生産量は2012年=176トン、13年=180トン、14年=159トン、15年見通し180トンのようだ。ネットで見つけた情報なので、どの程度正確なのかは分からない。ただ、この生産量がおおむね正しいとすると、日経の説明は誤りになる。12年以降の生産量はピッタリ200トンではもちろんないし、「約200トン」「200トン前後」とも言い難い。ちなみに、11年の生産量は201トンのようだが…。

日経にはこの件で「記事の説明は誤りではないか」と17日午後5時頃に問い合わせをした。しかし、まともな回答が届くことはないだろう。


◎金は需給と無関係?

記事中の「プラチナは排ガス触媒の素材として欧州のディーゼル車で使われるため、原油と同じように需給も投資判断の材料になる」との説明は非常に引っかかった。「これを書いた記者は根本的に分かっていないのではないか」と疑わざるを得ない。

金とプラチナを比較する中で、「プラチナは原油と同じように需給も投資判断の材料になる」と言われると「では、金相場は需給と無関係に動くのか」と問いたくなる。市場で価格が決まる場合、投資対象が何であろうと需給は投資判断の材料になる。プラチナも原油も金も同じだ。もちろん、需給以外の要素をどの程度見る必要があるかには差も出るだろう。

記者が「原油とプラチナは需給を見ないと分析できないが、金は別」と考えているのならば、まともな市場関連記事を書ける見込みは限りなくゼロに近い。


◎「憶測」の意味 分かってる?

「憶測」とは「確かな根拠もなく、いい加減に推測すること」という意味だ。それが分かっているのか疑わしい記述があった。

【日経の記事】

デフォルト(債務不履行)が懸念されるギリシャも中銀が定額積み立てのように少しずつ金を買い進める。ユーロの下落が鮮明になり始めた11年5月から買い始めており、「ユーロを離脱して通貨、ドラクマの復帰を念頭に金を保有して一定の信用力を担保しようとしている」(亀井氏)という臆測は根強い。


記事では金融・貴金属アナリストの亀井幸一郎氏という市場関係者のコメントを使っている。亀井氏は取材に協力して金市場に関するコメントをしてくれているのに、その見方を「憶測」にしてしまうのは感心しない。「観測」あたりが適切だろう。

付け加えると、「ユーロを離脱して通貨、ドラクマの復帰を念頭に金を保有して~」という記述は日本語としてやや不自然だ。例えば「ユーロを離脱して自国通貨ドラクマを復活させる事態を念頭に金を保有して~」としてはどうだろうか。


最後に…


市場関連記事は本来ならば日経の得意分野のはずだ。なのに、この完成度の低さ。記者だけの問題ではない。こういう記事を経済紙のアタマ記事に仕立てていることに、デスクや部長、あるいはもっと上の編集局幹部は何の痛痒も感じないのだろうか。猛省を促す意味もあり、記事の評価はE(大いに問題あり)とする。

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