日本経済新聞の藤田和明編集委員が18日の朝刊マーケット総合面に書いた 「スクランブル:バフェット流取引の妙味~長期の流動性に強み、SVBと逆の道」という記事にはマーケットに関する理解不足を感じた。中身を見ながら具体的に指摘していく。
錦帯橋 |
【日経の記事】
日本の商社株への投資を増やした米投資家ウォーレン・バフェット氏。金融取引としてみれば、長期で安く資金を集め、高めの配当利回りで利ざやを狙う「キャリー取引」ともいえる。かたや短期資金が流出し行き詰まった米シリコンバレー銀行(SVB)。脆弱な銀行の逆を行く時間軸の取り方で周到に利ざやを稼ぐのがバフェット流だ。
同氏率いる米投資会社バークシャー・ハザウェイの資金調達が14日明らかになった。円建てで総額1644億円になる。注目すべきは返済期間と金利水準だ。3年債から30年債まで広げた借り入れになる。金利は0.907~2.325%となっている。
◎「キャリー取引」を理解してる?
「キャリー取引とは、低金利の通貨で調達した資金を高いリターンが期待できる通貨で運用し、その差で収益を得る運用手法のこと」(楽天証券のマネー用語辞典)だ。「円建て」で資金を調達しても、それを「高いリターンが期待できる通貨で運用」せず「日本の商社株への投資」に充ててしまうのならば「キャリー取引」とは言えない。
「そんなことは分かっている。キャリー取引的な要素があると言いたかったのだ」と藤田編集委員は反論するかもしれない。だったら記事でその点を断ってもよさそうだが、最後まで読んでもそうした記述は見当らない。
続きを見ていこう。
【日経の記事】
これを元手に商社株に投資するとしよう。17日時点で三菱商事など5社の配当利回りは3.1~4.7%。単純な利ざやとしては3年債で2~3%強、30年債でも少なくとも2%近くを見込めると計算できる。
バークシャーの円建てでの調達はこれで総額1兆円を超える。過去の調達では利ざやが5%を見込めるような場面があってもおかしくなかった。
◎配当利回りに着目しても…
投資で「配当利回り」に着目する意味は基本的にない。1000円の株価で年間配当が100円ならば「配当利回り10%でお得」と考える人が多い。藤田編集委員もそうなのだろう。しかし配当は株式の価値を削って出すものだ。1000円の株で100円の配当をすれば株式価値は100円減るので株主にとって旨味はない。
株式投資ではキャピタルゲインも含めたトータルでリターンを見る必要があるが、なぜか多くの人が「配当利回り」だけに目を向けてしまう。金利1%で社債を発行して配当利回り3%の株を買えば2%の「利ざや」が見込めると考えるのは間違いだ。配当の多さは株価の下押しで相殺される。株価は配当以外の要因でも動いているので分かりにくい面はあるが、日経でマーケット関連の記事を書く編集委員ならば理解しておいてほしい。
さらに記事の続きを見ていく。
【日経の記事】
このキャリー取引が成功するカギは、配当利回りが見込んだ水準を将来も維持することにある。持続して現金を稼ぎ配当を増やし続ける投資先でなければならない。それをもってバフェット氏は経営の質といい、商社株に認めたのだといえる。
◎全然違うような…
マーケットに関して誤解があるので「このキャリー取引が成功するカギは、配当利回りが見込んだ水準を将来も維持することにある」という的外れな結論を藤田編集委員は導いてしまう。
商社株が減配にならなければ「配当利回りが見込んだ水準を将来も維持すること」はできるが、だからと言って「取引が成功」したとは言えない。やはり株価も含めたトータルでリターンを見るべきだ。「配当利回り」を維持できても株価が下がればトータルで損失が出る場合もある。「バフェット氏」がドルベースで「取引が成功」かどうかを見るならばドル円相場も重要な要素となる。
そんなことは改めて言うまでもないはずだが…。そこをベテランの書き手である藤田編集委員に指摘しなければならないのが辛いところだ。
※今回取り上げた記事「スクランブル:バフェット流取引の妙味~長期の流動性に強み、SVBと逆の道」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230418&ng=DGKKZO70260580X10C23A4EN8000
※記事の評価はD(問題あり)。藤田和明編集委員への評価もDとする。藤田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。
IT大手にマネーが「一極集中」と日経 藤田和明編集委員・後藤達也記者は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/it_26.html
「FANG」は3社? 日経 藤田和明編集委員「一目均衡」の説明不足
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/fang.html
改善は見られるが…日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_2.html
「中国株は日本の01年」に無理がある日経 藤田和明編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/01.html
「カラー取引」の説明不足に見える日経 藤田和明編集委員の限界
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_37.html
東証は「4市場」のみ? 日経 藤田和明編集委員「ニッキィの大疑問」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_28.html
合格点には遠い日経 藤田和明編集委員の「スクランブル」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_10.html
説明に無理がある日経 藤田和明編集委員「一目均衡~次世代に資本のバトンを」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_28.html
新型肺炎が「ブラックスワン」に? 日経 藤田和明編集委員の苦しい解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_4.html
「パンデミック」の基準は? 日経1面「日米欧、時価総額1割減」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/11.html
「訴えたいこと」がないのが透けて見える日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/09/blog-post_74.html