2022年10月17日月曜日

「だったらなぜドル高?」と聞きたくなる日経 大塚節雄記者の「Market Beat」

日本経済新聞の大塚節雄記者(金融政策・市場エディター)を悪くない書き手と見てきた。ただ17日の朝刊グローバル市場面に載った「Market Beat:ドル高、『仁義なき通貨選別』~円安、政策のジレンマ映す」という記事を見るとかなり苦しい。中身を見ながら具体的に指摘したい。

下関駅前

【日経の記事】

ドル高が一段と進んだ8月以降の主な通貨のドルに対する騰落率をみると、韓国ウォン、英ポンド、資源国通貨、そして円の下落が目立つ


◎「資源国通貨」の下落が目立つ?

円や韓国ウォン、資源国通貨の売りが目立つ」との説明文を付けたグラフでは17の通貨の「ドル騰落率」を見せている。それを見る限りでは「資源国通貨」の「下落が目立つ」感じはない。下落率の小ささ(メキシコペソが唯一の上昇でこれを1位とする)で見るとブラジルレアルが2位でロシアルーブルが3位と「資源国通貨」が上位に顔を出している。

ついでに言うと下落率が最大のアルゼンチンペソについて記事で一言も触れていないのも引っかかった。

この記事の中で最も問題なのは「なぜドル高なのか?」の疑問が残ることだ。それに絡むくだりを見ていこう。


【日経の記事】

各国のインフレ率と政策金利の関係をみると、それぞれの「インフレの深刻度」が推し量れる。具体的には政策金利からインフレ率を差し引けば値が小さいほどインフレへの対応が遅れていることを示唆する。これは現実のインフレ率で計算した「実質政策金利」といえる。大幅な実質マイナス金利のままなら、インフレに対して利上げが足りないことになる。

その数値は米国がマイナス4.8%。なお利上げは止められない。英国はマイナス6.8%ともっと大幅なマイナスだ。ノルウェー、韓国、ニュージーランドはマイナス2%台にとどまる

おおむねインフレの深刻度が大きいほど通貨が売られやすい傾向が読み取れそうだ。ただし英ポンドは深刻度の割に下げが小さい。中銀の国債購入で急激なポンド安がいったん和らいだためだが、中銀のインフレ対応の必要性が高いことと政策の混乱を踏まえれば、ポンド安の余地はなお残るかもしれない。

バブル経済崩壊後の最安値を更新する円はどうか。インフレ圧力が小さく利上げ競争には参戦していないが、インフレの深刻度はマイナス2.5%とノルウェーや韓国と大差ない。政策金利が主要国で唯一「名目マイナス」だからだ。ゼロ%に戻せば計算上、インフレの深刻度は改善する。


◎だったらドル安のはずだが…

おおむねインフレの深刻度が大きいほど通貨が売られやすい傾向が読み取れそうだ」と大塚記者は言う。「その数値は米国がマイナス4.8%」で「マイナス2%台」の「ノルウェー、韓国、ニュージーランド」を大きく上回る。ポンドはともかく円などが対ドルで値下がりするのが解せない。そこの解説は欲しい。

もう1つ気になるのがトルコリラだ。大塚記者は無視しているが、インフレ率80%超で政策金利12%のトルコリラが17通貨の中では「インフレの深刻度」で他を圧倒しているはずだ。しかし「下落率の小ささ」では4位とかなり上位。都合が悪いから無視したのだとすれば感心しない。

付け加えると「実質政策金利」を「インフレの深刻度」の指標と見るのは苦しい。「インフレの深刻度」はやはりインフレ率で見るべきだ。「実質政策金利」に関しては「インフレ対応の進行度」の指標とでもすべきだろう。

記事の結論部分にも注文を付けておきたい。


【日経の記事】

止まらない円安は市場が政策のジレンマを突いた結果だともいえる。米インフレのピークアウトをただ待つのではなく、金融緩和の効果を確保しつつ金利変動を柔軟にするといった政策面の不断の工夫が必要だろう。暴力的なまでの通貨選別に走る市場を前に矛盾を放置したままでは危うい。


◎どこが「暴力的」?

暴力的なまでの通貨選別に走る市場」と大塚記者は言うが、何を見て「暴力的」と判断したのか。グラフを見ると8月以降の騰落率でメキシコペソが1%程度のプラスで、対極にいるアルゼンチンペソが13%程度のマイナス。2カ月半でこの程度の値動きなら驚きはない。

大塚記者にはこの程度の「通貨選別」が「暴力的」に見える?


※今回取り上げた記事「Market Beat:ドル高、『仁義なき通貨選別』~円安、政策のジレンマ映す

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221017&ng=DGKKZO65185260W2A011C2ENG000


※記事の評価はD(問題あり)。大塚節雄記者への評価C(平均的)からDへ引き下げる。大塚記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。


「無事これ名馬」だが…日経 大塚節雄記者に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_15.html

FRBは「巨額の損失リスク」を負わない? 日経 大塚節雄記者「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/frb-deep-insight.html

1 件のコメント:

  1. 日経新聞社の社員は、数字に弱いですね。毎度のことと流し読みをしています。

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