「少子化を克服したかったらフランスやスウェーデンを見習え」ーー。これまで繰り返されてきたこの主張に説得力はないが、それでもこのパターンの記事はなくならない。日経ビジネス10月31日号の特集「産める職場の作り方~人口減少は企業が止める」の中の「フランスとスウェーデン、高出生率の秘訣~充実の国家支援で 子育ての負担減らす」 という記事もやはり苦しい内容だった。そうなる理由を述べてみたい。
錦帯橋 |
(1)フランスとスウェーデン、出生率はなぜ低下?
「フランスの2020年の合計特殊出生率は1.83と欧州連合(EU)内でもっとも高く、スウェーデンは1.66でその後を追う。両国ともに近年は出生率が下落傾向にあるが、それでも日本に比べると高い。ともに急速な人口減少の危機にひんした時期があり、少子化対策を国家戦略の需要な柱に据えてきた。まずはフランスの事例を見てみよう」
今回の記事では「両国ともに近年は出生率が下落傾向にある」ことに触れてはいるが、そこを分析せずに「それでも日本に比べると高い」と見習うべき対象として認定してしまう。
出生率が「日本に比べると高い」国は「フランスとスウェーデン」に限らない。圧倒的な“優等生”はアフリカに多い。先進国に限定するとしてもイスラエルがある。こうした国々を無視して、出生率の水準も大して高くなく「近年は出生率が下落傾向にある」国をなぜ手本にするのか。そこを説明しないと説得力は生まれない。
(2)フランスとスウェーデンの「移民効果」は無視?
「フランスとスウェーデン」は移民受け入れが多い国として知られる。フランスでは移民を除くと出生率は高くないとも言われる。この辺りに記事では触れていない。移民は最初は出生率が高くても社会に同化していく中で出生率が低下するという話もある。
移民の多さが「フランスとスウェーデン」の“高い”出生率を支えているならば「日本も移民受け入れを積極的に進める」のが少子化対策となる。しかし記事では、そこも論じていない。結果として、ありがちな「子育て支援を見習え論」になってしまっている。
(3)子育て支援策に大きな効果ある?
「フランスは、90年代以降に子育て支援策を強化する。その柱は主に以下の3つだ。①子どもがいても新たな経済負担が生じないようにする② 保育制度の拡充③育児休業の充実──だ。こうした改革が奏功し、2000年ごろから出生率が上がっていく」と記事では解説している。
しかし2010年代になると出生率は低下傾向となり「2000年ごろ」の水準にほぼ戻っている。つまり効果は乏しかった。「子育て支援策を強化」しても効果は限定的と見るのが妥当だ。なのに記事では、その辺りも無視してしまう。
「フランスやスウェーデンにおいては、国が少子化対策を強力に推し進めている。GDP(国内総生産)に占める少子化対策への公的支出の割合は、スウェーデンが3.4%、フランスは2.9%と、日本(1.6%)の2倍前後に上る。両国は多額の予算と制度を駆使して出生率を高めており、見習うべき点は多い」と記事では結論付けている。ありがちなパターンだ。
「少子化対策への公的支出」を増やすと「出生率を高め」るという因果関係を前提にしているようだが、この3カ国の数字だけからは因果関係を断定できない。「公的支出の割合」はスウェーデンがフランスを上回るが出生率では逆なのも気になる。
仮に因果関係があるとしても「フランスとスウェーデン」では出生率が低下しているのだから「効果は持続的ではない」という可能性は高い。
(4)フランスとスウェーデンに追い付けば満足?
「少子化対策への公的支出」を「フランスとスウェーデン」並みにすると出生率も並ぶとしよう。それで良しとするのか。高い方のフランスでも出生率は「1.83」。人口置換水準に及ばない。なのに「公的支出」を倍増させる意味があるのか。
少子化克服を目指すなら人口置換水準が目安になるだろう。そして、この水準を上回る国は世界にたくさんある。なのになぜ「フランスとスウェーデン」を「見習うべき」なのか。
その答えはこの記事にもない。
※今回取り上げた記事「フランスとスウェーデン、高出生率の秘訣~充実の国家支援で 子育ての負担減らす」
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/01265/
※記事の評価はD(問題あり)
とにかく遅い。今、低下傾向にあるところに学んでどうするの?TVCMで日経は考えるって言っているということは、いかに考えていない日経社員が多いことの証左ですね。
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