「Xデイ到来~資産はこう守れ!」という書籍の中で著者の藤巻健史氏がまたも雑なMMT(現代貨幣理論)批判を展開している。今回はそこを見ていく。
夕暮れ時の筑後川 |
【本の引用】
ロシアのウクライナ侵攻はMMTのインチキさも浮き彫りにしました。3月24日の日経新聞に「元米軍高官のベン・ホッジス氏は米欧の経済制裁が効力を発揮し、今後(注:ロシアの)戦費調達が苦しくなる」との記事がありました。
MMTだと「ルーブル建て国債を発行してロシア中央銀行に引き受けてもらえば、いくらでもルーブルを発行できる。戦費調達、問題なし」ということになりますが、誰もそんなことを言い出しません。ばかばかしくて言い出す気にもなれないのでしょう。
MMTに関してはマネックス証券の創業者兼会長の松本大氏も、マネックスメール(マネックス証券が毎営業日に顧客に市況等を送っている電子メール)の中で次のように述べています。
「皆さん、MMT=現代貨幣理論って覚えてますか? ちょっと前によく聞いた、税金なんて上げるな、中央銀行がバンバンお金刷って国債買えばそれでいいじゃん! というアノ論です。
しかしこのMMTはまやかし、あるいはまやかしのようなもので、そんな錬金術がある訳がありません。でも日本にいると、国の歳出は歳入より断然大きい状況が恒常化していて、そのために国債の大量発行を続けていますが、金利は上がってこないので、もしかしたらこれはまやかしではなく本当に機能するのではないか? などと思ってしまったりするのです。
しかし、今のロシアを見てください。欧米が、世界が、ロシアを国際金融システムから排除しています。それはなぜか? ロシアを立ち行かせなくさせるためです。しかしもしMMTなるものが本当に機能するのならば、ロシアがドルを調達できなくする、即ちドル建ての債券発行をできなくするとか、関係ないでしょう。
ロシア中央銀行がルーブルを刷り、そのお金でルーブル建てのロシア国債を買い、国はそうして調達したお金で経済を回し、兵器を作ればいいではないですか。そんなこと夢物語ですよね? そんな話にだまされてはいけません。私の尊敬する知人の藤巻健史さんも同じことを仰っています。
今回のロシア・ウクライナ危機は、資本市場や安全保障という、人類が苦労して作ってきたけれども、その恩恵に与っている現代の人はその大切さと、どうしたら機能するかの要点を忘れがちなのを、まざまざと見えるようにしてくれていると思います。気をつけましょう」
まさに、松本氏のおっしゃる通りだと思います。
◎MMTの主張を理解しよう!
藤巻氏はMMTの本を読んだことがないらしい。しかしMMT批判はしたがる。「批判をしたいのならばMMTの基礎を学ぼう」とツイッターで呼びかけてみるが反応はない。
藤巻氏がMMT批判を展開する時にはMMTの主張をおかしな形に変えている場合が多い。今回もそうだ。
「MMTだと『ルーブル建て国債を発行してロシア中央銀行に引き受けてもらえば、いくらでもルーブルを発行できる。戦費調達、問題なし』ということになります」と藤巻氏は言うが、そうはならない。
「ルーブル建て国債を発行してロシア中央銀行に引き受けてもらえば、いくらでもルーブルを発行できる」のは間違いない。だからと言って「戦費調達、問題なし」とはならない。2つの「問題」がある。まずインフレだ。MMTでは「過剰な支出の証拠はインフレである」(主唱者のケルトン氏)と見る。なので高インフレになってくると自国通貨建て(ロシアの場合はルーブル建て)でも「戦費調達」に「問題」が出てくる。
「米欧の経済制裁」との絡みで言えば、より重要なのは2つ目の「問題」だ。「政府には自国通貨で売られているものなら何でも買えるだけの力がある」とケルトン氏は述べている。なのでインフレを気にしない前提で言えば、戦争に必要なものが全て「ルーブル」で売られているのならば「戦費調達、問題なし」だ。
しかし、兵器を輸入しようとしても、それが「ルーブル」で買えないとなると「戦費調達」に「問題」が出てくる。
藤巻氏と「松本大氏」は本人たちが言うように、よく似ている。松本氏の「電子メール」を見る限り同氏がMMTの基礎を理解しているとは思えない。
「税金なんて上げるな、中央銀行がバンバンお金刷って国債買えばそれでいいじゃん!」とMMTは訴えていない。繰り返すがMMTでは「過剰な支出の証拠はインフレである」と見る。高インフレになった場合は増税も選択肢となる。
ちなみに「ロシア中央銀行がルーブルを刷り、そのお金でルーブル建てのロシア国債を買い、国はそうして調達したお金で経済を回し、兵器を作ればいいではないですか。そんなこと夢物語ですよね?」と松本氏は言うが「夢物語」ではない。
輸入に頼らず「経済を回し、兵器を作れ」る体制を築けばいいだけだ。簡単とは言わないが「夢物語」ではない。実際にロシアはそれに近いことができている。
「世界が、ロシアを国際金融システムから排除して」いるのにロシアが「経済を回し」戦争を続けられているのはなぜか。松本氏にはぜひ考えてほしい。
※今回取り上げた本「Xデイ到来~資産はこう守れ!」
※本の評価はD(問題あり)
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