11日の日本経済新聞朝刊グローバル市場面に佐伯遼記者が書いた「Market Beat:国債売り『負けぬトレード』~海外勢、日銀の不合理突く」という記事には不満が残った。中身を見ながら具体的に指摘したい。
平戸大橋 |
【日経の記事】
「366とかいうヤツを売ってくれ! 今すぐショート(売り持ち)だ」
日銀は2016年に長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)を導入した。長期金利の上限を0.25%程度に抑えることを金科玉条とする。10年債の366回債は、まさに日銀がYCCで金利上昇を抑え込んでいる銘柄だ。
証券会社には日本国債を取引したことがなく、口座すらない投資家からの注文が相次ぎ舞い込んでいる。証券会社の営業やトレーディングの担当者は「売りの量も、売り手の幅広さも過去最大だ」と口をそろえる。財務省の統計では6月、週間で4兆円超と過去最大の売り越しも記録した。
◎コメントの主を明示しよう!
「366とかいうヤツを売ってくれ!」というコメントの主がはっきりしないのが引っかかる。固有名詞を出せとは言わない。例えば「米国系のヘッジファンド」ぐらいの情報は欲しい。
今回の記事で一番分からなかったのが以下のくだりだ。
【日経の記事】
海外勢がここまで確信をもって日本国債売りに踏み込むのはなぜか。「今の金利水準や日銀の金融政策が合理的ではないと冷静に分析している」(バークレイズ証券の三ケ尻知弘マクロ・トレーディング本部長)。
「金利と為替を同時にコントロールすることは不可能だ」とある外資系証券のトレーディング担当者は語る。「自由な資本移動」「金融政策の独立性」「為替相場の安定」の3つは同時に満たせないとする、国際金融のトリレンマが根拠だ。円売り・債券売りを組み合わせた海外勢はトリレンマを突いている。
海外勢の売りに負けじと、日銀は様々な措置を講じてきた。2月には10年債を無制限に買い入れる指し値オペ(公開市場操作)を3年半ぶりに発動した。今では指し値オペは毎日の実施となり、先物と連動する7年債も対象に加わった。
◎「海外勢はトリレンマを突いている」?
「バークレイズ証券の三ケ尻知弘マクロ・トレーディング本部長」によると「海外勢」は「今の金利水準や日銀の金融政策が合理的ではないと冷静に分析している」らしい。
となると、その前に紹介した「366とかいうヤツを売ってくれ! 今すぐショート(売り持ち)だ」というコメントと整合しない。文脈から考えてコメントの主は「海外勢」のはずだが「冷静」とは程遠い感じがする。
さらに気になるのが「海外勢はトリレンマを突いている」との解説だ。「『自由な資本移動』『金融政策の独立性』『為替相場の安定』の3つ」を日銀が「同時に満た」そうとしているのならば「トリレンマを突いている」かもしれない。
しかし日本は「為替」に関して変動相場制を選んでいるし市場介入も見送っている。口先介入は多少あるが実質的には「円安放置」だ。なので「トリレンマを突いて」も意味はなさそう。
記事では「金利と為替を同時にコントロールすることは不可能だ」というコメントを載せているが、そもそも日銀は「金利と為替を同時にコントロール」しようと試みていない。
記事の終盤にも注文を付けておきたい。
【日経の記事】
日本国債売りは「ウィドウメーカー(未亡人製造機)」とされてきた。巨大な政府債務を背景に、金利急騰を見込んで投機筋が仕掛けたのは一度や二度ではない。だがその度に日銀や国内勢に跳ね返されてきた。
「今回ばかりは市場が勝ってほしいし、勝つべきだ」とある日本人の債券トレーダーは漏らす。YCCから撤退すれば、経済の実態に即した金融政策にかじを切ったと世界は強く認識する。市場参加者の声はこれまでになく強い。
◎「市場が勝つ」とは?
「YCC」に関して「市場が勝つ」とは、どういう事態を指すのだろうか。日銀が「YCCから撤退すれば」市場の勝ちだろうか。個人的には、この立場ではない。
「YCC」の旗を日銀が降ろしていないのに、日銀をあざ笑うかのように長期金利が上昇していけば「市場が勝った」と感じる。
「YCC」からの「撤退」が先に実現して、そこから長期金利が上がる場合は微妙だ。「YCC」に関しては円安を進行させるとの不満が国民の側にもあるし、それを受けて日銀に対する政治的な圧力が強まる場合もある。もちろん市場からの揺さぶりもある。
それらの要因が複雑に絡んで「YCC」からの「撤退」となるのであれば、単純に「市場が勝った」とは評価できない。佐伯記者には、そうした視点も持って今後の記事を書いてほしい。
※今回取り上げた記事「Market Beat:国債売り『負けぬトレード』~海外勢、日銀の不合理突く」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220711&ng=DGKKZO62478950Q2A710C2ENG000
※記事の評価はD(問題あり)。佐伯遼記者への評価はDを据え置く。佐伯記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。
日経「外貨投資、思わぬ落とし穴」 佐伯遼記者への疑問https://kagehidehiko.blogspot.com/2015/08/blog-post_54.html
データの見せ方がご都合主義的な日経 佐伯遼・富田美緒記者「チャートは語る」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/blog-post_9.html
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