日本に制度的な女性差別はわずかしか残っていない。それでも女性問題を語る女性の多くは女性を差別される側として語りたがる。そこに無理が生まれる。20日の日本経済新聞朝刊女性面にアジア開発銀行副官房長の児玉治美氏が書いた「ダイバーシティ進化論~年齢、性別にとらわれる日本 多様性生かす企業文化に」 という記事もそうだ。中身を見ながら問題点を具体的に指摘したい。
可也山 |
【日経の記事】
女性は年齢と性別による二重の差別を受けている。これまではエイジズムとセクシズムを別々にとらえる風潮が強かったが、近年この2つの関係性が頻繁に論じられるようになった。
◎根拠はある?
「女性は年齢と性別による二重の差別を受けている」と児玉氏は言い切るが、それを裏付ける根拠は示していない。
この後に「欧米の意識調査によると、10代から70代までの女性の大半が年齢差別を経験している」とは書いているが、具体的なデータはない。しかも「欧米」の話で「(日本の)女性は年齢と性別による二重の差別を受けている」と言える根拠は示していない。
仮に「女性は年齢と性別による二重の差別を受けている」としても、それは男性も同じではないかとの疑問が湧く。しかし、児玉氏は根拠を示さずに「女性」の問題に絞って話を進めてしまう。
続きを見ていこう。
【日経の記事】
外見によって人を判断するルッキズム(外見至上主義)と相まって、若々しく魅力的な人が社会で優遇される傾向がある。これにより女性は男性より不利な立場に立たされる。
◎やはり根拠が…
「若々しく魅力的な人が社会で優遇される傾向がある」とは思うが、それで「女性は男性より不利な立場に立たされる」となぜ言えるのか。児玉氏はここでも根拠を示さない。
「若々しく魅力的な人」がその「外見」を生かして高収入を得る機会は女性の方が多そうにも見える。本当に「女性は男性より不利」なのか。
さらに見ていく。
【日経の記事】
ルッキズムは男女を問わず採用や昇進など、職場での待遇に影響を与える。加齢による外見の「衰え」にかかわる差別は、女性は40代頃から経験し始め、男性と比べ時期が早い。
欧米の意識調査によると、10代から70代までの女性の大半が年齢差別を経験している。25歳未満の女性はまだキャリアを深刻にとらえていないと思われ、25~40歳の女性には家事や育児で忙しいという固定観念がある。そして40歳以降は介護で忙しく、男性や若い女性に比べて知力やスタミナ、野心に欠ける、といった偏見がまん延し、性別によるエイジズムに拍車をかける。
◎ここでも根拠が…
「加齢による外見の『衰え』にかかわる差別は、女性は40代頃から経験し始め、男性と比べ時期が早い」と言い切るが、やはり根拠は見当たらない。
せっかく「欧米の意識調査」という、この記事で唯一の「根拠になり得る話」が出てくるが、深掘りすることなく通り過ぎる。せめて男性との比較は欲しい。
そして「25歳未満の女性はまだキャリアを深刻にとらえていないと思われ、25~40歳の女性には家事や育児で忙しいという固定観念がある。そして40歳以降は介護で忙しく、男性や若い女性に比べて知力やスタミナ、野心に欠ける、といった偏見がまん延し、性別によるエイジズムに拍車をかける」という決め付けを披露してしまう。
ここで言うような「固定観念」や「偏見」を裏付けるデータはあるのか。
続きを見ていく。
【日経の記事】
仕事を持つ年配の女性にとっては、このような差別は仕事の安定と収入に直結する。年齢のために就職の面接すらしてもらえない、自分より若く経験が浅い男性が登用される。定年退職のための資金的な蓄えがなくても、職場には年配の女性の居場所がないために、働き続けるのは困難だと感じる。一度退職に追い込まれると再就職することも難しい。
女性へのこうした二重差別は万国共通だが、日本ほど年齢や性別にとらわれる社会は珍しいと感じる。何歳までに結婚し、子どもを持ち、職場では何歳で課長になり、部長になり、とマニュアル化された価値観に多くの人がこだわる。
◎話を作り過ぎでは?
「年齢のために就職の面接すらしてもらえない」という事例はあるだろう。しかし、それは男性も同じだ。女性の方が圧倒的に多いというならば、その根拠を示すべきだ。
「自分より若く経験が浅い男性が登用される」場合、その「男性」より「自分」の方が「登用される」べきと考える理由がよく分からない。
ロッテの佐々木朗希投手が完全試合を達成した試合で捕手としてマスクをかぶっていたのは18歳の松川虎生捕手だ。チームには当然に経験豊富な捕手もいる。その中で松川捕手を「登用」するのは「年齢差別」なのか。言うまでもないだろう。
さらに見ていく。
【日経の記事】
私も31歳で日本を離れるまでは「生意気な小娘」と思われ、50歳で日本に戻った時には「偉そうなおばさん」と見られ、型にはめられてきた。
◎悪くない「型」では?
まず「31歳」で「小娘」と見られているのが凄い。「生意気なおばさん」と見る人がいてもおかしくない年齢だ。
「型にはめられてきた」と言うぐらいだから「生意気な小娘」や「偉そうなおばさん」であることを求められてきたのだろう。羨ましい。「生意気」や「偉そう」を受け入れてもらえるだけでもありがたいのに、それが求められるとは…。どんな恵まれた職場だったのか。
そこに気付けないから「女性は男性より不利」などと根拠なく決め付けてしまうのかもしれない。
※今回取り上げた記事「ダイバーシティ進化論~年齢、性別にとらわれる日本 多様性生かす企業文化に」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220620&ng=DGKKZO61796190X10C22A6TY5000
※記事の評価はD(問題あり)。児玉治美氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。
日本の教員は「圧倒的に男性」? 児玉治美氏が日経女性面で展開した無理ある主張https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/12/blog-post_20.html
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