男子大がない日本では「国立女子大=性差別制度」と言うほかない。しかし、なぜかメディアでは前向きに取り上げられがちだ。オフィス解体新書・代表の杉山直隆氏が27日付で東洋経済オンラインに書いた「国立女子大で『工学部』が相次ぎ新設される背景~『工学=男性』は過去に、STEM人材を増やせ」という記事もそうだ。一部を見ていこう。
有明海 |
【東洋経済オンラインの記事】
工学=男性はもはや過去の話。
男女の性差を解析し、研究開発に取り入れる「ジェンダード・イノベーション」の重要性も叫ばれ、工学分野でも女性の人材が求められるようになっている。
ところが、日本は工学分野の女性人材があまりに少ない。経済協力開発機構(OECD)の調査によると、2019年に大学などの高等教育機関に入学した学生のうち、STEM(科学・技術・工学・数学)分野を専攻する女性の割合は、日本は加盟国36カ国で最下位。とくに工学・製造・建築は16%にとどまる。
この問題を解決すべく、女子大初の工学部設置に乗り出したのが、国立女子大の奈良女子大学とお茶の水女子大学だ。両校は2016年に大学院の生活工学共同専攻を開設している。
共学の工学部は男子が大半を占めるので抵抗を感じる女子学生もいた。そうした人も女子大ならば、思う存分、工学を学べるわけだ。
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疑問点を列挙してみる。
(1)「日本は工学分野の女性人材があまりに少ない」?
「日本は工学分野の女性人材があまりに少ない」と見る根拠は「STEM(科学・技術・工学・数学)分野を専攻する女性の割合は、日本は加盟国36カ国で最下位」という「経済協力開発機構(OECD)の調査」。これだと「あまりに少ない」とは感じられない。
日本で必要とされる「工学分野の女性人材」の人数に対して供給される「人材」が圧倒的に少ないのならば分かる。しかし、そうした情報は出てこない。「工学・製造・建築は16%」しかいないとしても、それで企業や研究機関が困っていないのならば問題はない。
「STEM分野を専攻する女性の割合」の高さを競うことに意味はない。日本は「STEM分野を専攻する男性の割合」が加盟国でトップとも言える。そんなに悪いことなのか。
(2)女子大への工学部設置で「問題を解決」?
女子大への「工学部設置」が「問題」の「解決」につながるとも思えない。「共学の工学部は男子が大半を占めるので抵抗を感じる女子学生もいた。そうした人も女子大ならば、思う存分、工学を学べるわけだ」と杉山氏は言う。しかし「そうした人」がどの程度いるのかには触れていない。数が少なければ効果は限定的だ。「共学の工学部」に進む女子学生を減らすだけに終わる可能性も十分にある。
「共学の工学部」にも「16%」の女子学生がいるとしよう。それでも「男子が大半を占めるので抵抗を感じる」からと言って「工学部」への進学を諦める女子学生は「工学」への熱意が高いとは考えにくい。「そうした人」が「女子大」の「工学部」に集まってくるとしたら、その「人材」に多くを期待できない気もする。
(3)国立女子大の性差別は気にならない?
やはり「国立女子大=性差別制度」という問題も引っかかる。杉山氏はこの問題に触れないまま「女子大初の2つの工学部が軌道に乗れば、ほかの女子大でも工学部設置の動きが生まれ、女性のSTEM人材が増えるだろう。両大学に寄せられる期待は大きい」と記事を締めている。
なぜ女子は全ての国立大学の受験資格があるのに男子は2校から排除されるのだろう。これを性差別でないとするのは難しい。何も問題を感じないのか。
杉山氏が性差別容認論者ならば、それはそれでいい。ただ「国立女子大の奈良女子大学とお茶の水女子大学」が男子に門戸を閉ざしても良いと言える理由はぜひ考えてほしい。
※今回取り上げた記事「国立女子大で『工学部』が相次ぎ新設される背景~『工学=男性』は過去に、STEM人材を増やせ」
https://toyokeizai.net/articles/-/590165
※記事の評価はD(問題あり)
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