2022年5月31日火曜日

「『積み立て投資』が急速に広がっている」に根拠欠く日経朝刊1面の記事

日本経済新聞には肝心な情報が抜けている記事がよく載る。31日の朝刊1面に載った「積み立て投資、年2兆円ペース~若年層、老後に備え」という記事もそうだ。新聞の顔とも言える1面でこの完成度は辛い。全文を見た上で具体的に指摘したい。

サッポロビール九州日田工場

【日経の記事】

個人の間で投資信託を定期的に買い続ける「積み立て投資」が急速に広がっている。大手ネット証券と独立系投信の計7社に聞き取りしたところ、3月の投資額は1584億円と月間で過去最高になった。年間で2兆円に迫るペースに増えており、投信の純流入額の2割に相当する。老後への不安で若年層が資産形成に動いており、日本でも長期の資産運用に資金が向かい始めた。

積み立て投資は一定額を定期的に買い、長期の資産形成に向くとされる。購入額に増減がある投信全体と異なり、個人の投資の普及度合いを推し量る指標になる。日本経済新聞がSBI証券、楽天証券、マネックス証券、松井証券、auカブコム証券のネット証券5社、セゾン投信、さわかみ投信の計7社を対象に毎月積み立て設定の投信の買い入れ額を調べた。

3月は1584億円と年換算で約1.9兆円になる。投信全体の純流入額は2019~21年の3年平均で約9兆円。積み立て投資の年2兆円の水準は、投信全体の純流入額と比べると2割に相当する。また個人の現預金は21年に35兆円増えており、現預金偏重は変わらないが、2兆円の水準は約6%に相当する。


◎「急速に広がっている」と訴えるなら…

『積み立て投資』が急速に広がっている」というのが記事の柱だ。当然に「急速に広がっている」と裏付けるデータが要る。しかし、どの期間でどの程度の増加なのか全く分からない。

「書くのを忘れていた」というならば書き手としての資質に欠けるし、増加率のデータは元々ないのならば、根拠なしに「急速に広がっている」と書いたことになる。今回のような記事を1面に持ってきたデスクや編集局幹部の責任も重い。

3月の投資額は1584億円と月間で過去最高になった」とは書いている。ただ、これだけでは「急速に広がっている」かどうかは分からない。2月も「過去最高」で3月はそれをわずかに上回っただけかもしれない。前年同月で見る手もあるが、それでも伸び率が低い中での「過去最高」であれば「急速に広がっている」とは言えない。

さらに言えば、5月末に載せる記事でなぜ3月の数字なのか。各社とも4月の数字はありそうな気がする。

4月の数字をまだ出せないとしても「年間で2兆円に迫るペース」と書くならば1~3月の数字は見せたい。そこから「年間」の「ペース」を見るのが好ましい。

やはり、この記事の完成度は低い。


※今回取り上げた記事「積み立て投資、年2兆円ペース~若年層、老後に備え」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220531&ng=DGKKZO61278020R30C22A5MM8000


※記事の評価はE(大いに問題あり)

0 件のコメント:

コメントを投稿