2022年4月8日金曜日

日韓の少子化の原因を「性別役割分担意識」に求める日経 石塚由紀夫編集委員の思い込み

欧米(特に欧州)を見習い進歩的な方向に変化すれば少子化問題は解決できる。そう思い込んでいる人は多い。日本経済新聞の石塚由紀夫編集委員もその1人だ。7日の夕刊くらしナビ面に載った「日本と韓国 少子化の共通点は~結婚・出産ためらう性別役割」という記事で強引な主張を展開している。一部を見ていこう。

大バエ灯台

【日経の記事】

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で出生数は世界的に落ち込んでいる。ただ、日韓が共に少子化に沈む理由はほかにもあり、それが社会に根強い性別役割分担意識だ

日本経済新聞は16年に韓国の中央日報と少子化に関する共同意識調査を実施した(20~40代の男女、両国で各約1000人が回答)。「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という考え方に両国とも約4割が賛成した。「女性は仕事より子育てを優先すべきだ」とする人も、日本で38%、韓国で40%に上った。

韓国では「男性が家計の主たる稼ぎ手であるべきだ」という価値観が男性も苦しめている。韓国では結婚前に男性側が住まいを用意するという慣習がある。ただ、ソウル市を中心に都市部で住宅価格が急騰し、若い男性の収入では満足な住まいを準備できない。それが男性に結婚をためらわせる一因になっている。

家事・育児などの無償労働に1日当たり、どれだけ時間を割いているか。OECD調査(20年)では日本は男性41分に対して女性224分、韓国は男性49分、女性215分だ。女性は男性と比較して日本は5.5倍、韓国は4.4倍も家事・育児等に時間を費やしている。OECD平均1.9倍を大きく上回り、男女の不均衡はOECD加盟国の中でも突出している。

経済発展に伴い共働きが広がるのは自然の流れだ。欧米など性別役割分担意識が強くない国は、職場でも家庭でも男女それぞれが応分の役割を果たすようになり、スムーズに共働き社会に移行した

日韓の事情に詳しい横浜国立大学の相馬直子教授は「性別役割分担が残る社会では共働きとの齟齬(そご)が生じて、女性は合理的な選択として子どもを産まなくなるといわれている。まさに日韓はその状況に陥っている」と説明する。


◎辻褄合う?

欧米など性別役割分担意識が強くない国は、職場でも家庭でも男女それぞれが応分の役割を果たすようになり、スムーズに共働き社会に移行した」と石塚編集委員は言う。結果として「欧米」の出生率が高いのならば「(日韓)両国に共通する構造的な問題は、性別役割分担意識の強さが女性に結婚・出産をためらわせる元凶になっていることだ」と断定するのも分かる。しかし、そうはなっていない。

記事には「OECD加盟国の出生率上位と下位」というタイトルのグラフが付いている。上位でも人口置換水準(2.1前後)を上回るのはイスラエルとメキシコだけで、欧州各国も米国も及ばない。そして、下位を見ると日本と韓国の間にギリシャ、イタリア、スペインが入っている。

つまり「性別役割分担意識が強くない国」の出生率も決して高くない。その好例がフィンランドだ。昨年8月13日の日経に載った「[FT]『日本化』する世界人口~若者の悲観生む懸念」という記事を石塚編集委員にはぜひ読んでほしい。そこには以下のような説明がある。


【日経の記事(FTの翻訳)】

いずれにせよ、我々が先進国の出生率を人口置換水準にまで回復させたいと考えても、それは無理かもしれない。 フィンランドは仕事と育児を両立できるよう様々な政策を実施しているが、出生率はいまだに置換水準の2.1をはるかに下回ったままだ。フィンランドの人口研究所のアンナ・ロトキルヒ研究教授はこう話す。

「16歳未満の子どもを持つ親たちがどのように仕事と家庭を両立させているかを調査したところ、最大の問題はどうしたら興味深い調査報告を書けるかだった。というのも、誰もが現状に非常に満足していたからだ」

そしてこう続けた。「これまで、真の男女平等を実現できれば出生率は上がるという期待があった。ところが、両親が共に働き、キャリアを追求しつつ家庭を築けるようになっても、平均出生率は1.5程度にしかならなそうなことが判明した。ただ、人々がそれで満足しているのであれば、この出生率の低さは果たして問題視すべきなのか、ということだ」


◇   ◇   ◇


フィンランドでは「両親が共に働き、キャリアを追求しつつ家庭を築けるようになっても、平均出生率は1.5程度にしかならなそうなことが判明した」そうだ。なのに日本や韓国がフィンランドを見習うと「出生率は上がる」のだろうか。

韓国はともかく日本の出生率はフィンランドと大差ない。イスラエルを例外として、先進国は少子化という点ではドングリの背比べだ。欧米を見習っても基本的に意味はない。

進歩的な方向に社会を向けたいと考えるのは悪くない。しかし、そのエサとして少子化問題を持ち出すのはやめた方がいい。石塚編集委員もそのことに早く気付いてほしい。


※今回取り上げた記事「日本と韓国 少子化の共通点は~結婚・出産ためらう性別役割」 https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220407&ng=DGKKZO59775710X00C22A4KNTP00


※記事の評価はD(問題あり)。石塚由紀夫編集委員への評価もDを維持する。石塚編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。


「女性活躍後進国」と日経 石塚由紀夫編集委員は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_2.html

「フリーアドレス制でダイバーシティー効果」が怪しい日経の記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_88.html

「地方から都市部に若い女性が流出」に無理がある日経 石塚由紀夫編集委員の記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/12/blog-post_9.html

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