2022年4月18日月曜日

ハイパーインフレ回避の道はあえて無視? 藤巻健史氏の主張に無理がある週刊エコノミストの記事

フジマキ・ジャパン代表取締役の藤巻健史氏が週刊エコノミスト4月26日号で無理のある主張を展開している。「奇策~ハイパーインフレと日銀 新中央銀行、新通貨しかない」という記事では、編集部も苦しいと思ったのか見出しに「奇策」 とは入れている。その一部を見ていこう。

夕暮れ時の筑後川

【エコノミストの記事】

インフレとハイパーインフレの発生原因は全く違う。インフレは需給のアンバランスで起こるが、ハイパーインフレは中央銀行の信用失墜で起こる。他国が現在直面している危機はインフレだが、日銀が直面している危機はハイパーインフレリスクなのだ。深刻度も異次元である。

中略)要は、日銀が金融引き締めをしようとすると、日銀自身が債務超過に陥ってしまうのだ。債務超過は中央銀行の信用失墜の最たるものであり、そのような中央銀行が発行する通貨は暴落し、ハイパーインフレに進む。

一方、債務超過を恐れて引き締めを回避すれば、インフレはますます加速する。もはや袋小路だ。金融引き締めができなくなった中央銀行は、すでにその体を成していない。日本は悪性インフレかハイパーインフレに陥らざるを得ないのだ。

このような状態になった時に考えられる対処法は以下の三つだ。いずれも日銀の負債の圧縮にほかならない。

(1)法定通貨を円からドルに換える、(2)1946(昭和21)年のように預金封鎖・新券発行を行う、(3)第二次世界大戦後のドイツのように中央銀行の取り換えを行う──。

私は(3)の手法が適切だと思っている。46年は終戦後だが、日本はまだ明治憲法下だった。私有財産権が確立された現憲法下で(2)を行った場合、後に訴訟が頻発する可能性がある。一方、(3)では日銀の倒産・解散なので、倒産会社の負債が消滅するだけだ。私有財産権を犯したとのクレームは回避できる。

この手法を取るには、日銀を残務処理機関として残し、新中央銀行から新通貨で資本投入を受ける。その新紙幣1枚を、例えば福沢諭吉1万円札1000枚と交換するのだ。財務内容が健全な中央銀行が創設されればハイパーインフレは終息するし、国民の塗炭の苦しみと交換に究極の財政再建が成される。終戦後のドイツで国力、供給能力などは何も変わっていないのにライヒスバンク(旧中央銀行)を廃し、代わりにブンデスバンク(新中央銀行)を創設し、ハイパーインフレが沈静化されたことで、実証されている。


◎悪性インフレの場合も?

実際は大したことは起きないと思うが、百歩譲って「日銀自身が債務超過に陥ってしまう」と「ハイパーインフレに陥らざるを得ない」としよう。その場合に「新中央銀行」の創設といった話が出るのは分かる。

だが、日銀には「債務超過を恐れて引き締めを回避」する選択肢がある。その場合は「悪性インフレ」に進むはずだ。ならば、ここで止まればいいだけだ。

なのに、なぜか「財務内容が健全な中央銀行が創設されればハイパーインフレは終息するし、国民の塗炭の苦しみと交換に究極の財政再建が成される」と「ハイパーインフレ」に進む前提では主張を展開してしまう。

国民の塗炭の苦しみと交換に究極の財政再建が成される」必要はない。「悪性インフレ」に留めておけばいい。日銀には長短金利をコントロールする力がある。なのに、なぜ「苦しみ」が大きくなる「ハイパーインフレ」をえあえて選ぶのか。藤巻氏の主張は今回も説得力がない。


※今回取り上げた記事「奇策~ハイパーインフレと日銀 新中央銀行、新通貨しかない」https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220426/se1/00m/020/021000c


※記事の評価はE(大いに問題あり)。藤巻健史氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「中央銀行が信用を無くす最たるものは債務超過」と訴える藤巻健史氏の誤解https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/02/blog-post_8.html

週刊エコノミストでの「ハイパーインフレ」予測に無理がある藤巻健史氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/09/blog-post_29.html

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