15日の日本経済新聞朝刊ビジネス1面に中村直文編集委員が書いた「ヒットのクスリ~大人の階段上るマック 『ちょい』が開拓、多様な利用」という記事は苦しい内容だった。順に見ながら具体的に指摘したい。
下関駅前 |
【日経の記事】
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う巣ごもり需要も追い風となり、好調を続ける日本マクドナルドホールディングス。再成長の理由を探ると、マックが低価格食・色を薄めようとした地道なマーケティングの成果も見えてくる。
◎まだ「巣ごもり」?
「新型コロナウイルスの感染拡大に伴う巣ごもり需要も追い風となり、好調を続ける日本マクドナルドホールディングス」と書くと「今も『巣ごもり』が続いていると取れる。完全に消えたとは言わないが、昨年との比較で言えば「巣ごもり需要」は減少傾向ではないのか。
続きを見ていく。
【日経の記事】
マクドナルドと言えば、「でも・しか」的要素が強かった。マックでも行くか、マックしかないから行くか。決して否定的な動機ではなく、いつでも、どこでも、安く買えるマックの「インフラ力」のなせる強みだ。
◎「いつでも、どこでも、安く買える」?
「マック」は「いつでも、どこでも、安く買える」のか。全店舗が24時間営業なのか。
「どこでも」も苦しい。日本全国どこへでも宅配してくれるのか。ちなみに自分の家から最寄りの「マック」までは20キロメートルほどある。
「でも・しか」が「否定的な動機ではなく」との説明も無理がある。「マックしかないから行くか」は明らかに「否定的」だ。自分はモスバーガーが隣にあっても安さゆえに「マック」を選ぶ。それは「でも・しか」ではない。「安く買える」のは大きな魅力だ。
ここから本題に入ってくる。
【日経の記事】
だが、消費が成熟すると量的志向だけでは限界がある。外食、小売りなど量販型の消費ビジネスが必ずぶつかる悩みだ。コロナ下での追い風が目立つマックだが、実は2018年に「価格」から「体験」を重視した高付加価値戦略に転換したことも奏功している。旗振り役が、日本マクドナルド取締役でCMO(チーフマーケティングオフィサー)を務めるズナイデン房子氏だ。
ズナイデン氏は資生堂や日清食品など有力消費企業を経験してきたマーケティングのプロ。16年度に黒字化し、成長軌道に乗り始めたマックの次の戦略を託された。
ズナイデン氏の考え方はシンプルで「ブランド価値とは、体験価値を価格で割ったもの」。マックの価格は、大きく下げようがない。では、いかに体験価値を上げるか。
◎読者に期待に応えられる?
「マック」がいかにして「体験価値を上げ」てきたのか。ここから中村編集委員が教えてくれると読者は期待しそうだ。それに応える内容になっているのか。さらに見ていく。
【日経の記事】
ポイントは2つ。消費シーンの拡大と、大人向けのプレミアム商品の投入だ。「とにかく『マックでいい』の『で』を抜くこと」(ズナイデン氏)。シーン拡大に向け、「でも・しか」という消極的な動機ではなく、「マックがいい」という積極的な動機の醸成が欠かせないわけだ。
例えばキャッチコピー。200円の3種類のバーガーとドリンク、ポテトなどで構成する安価な商品群を「おてごろマック」としていたが、これを20年に「ちょいマック」に変更した。
おてごろだとお得感を強調しすぎている。ランチタイムに加え、小腹、別腹と様々なシーンで利用してもらえるセットメニューとしてリ・ブランディングした。CMに起用した木村拓哉さんの口癖とされている「ちょ、待てよ」から拝借したのではないらしい。
◎商品名を変えただけ
「おてごろマック」を「ちょいマック」に変えると「体験価値」が上がるのか。「ランチタイムに加え、小腹、別腹と様々なシーンで利用してもらえるセットメニュー」として消費者にアピールすると「体験価値」が上がるのか。
例えば「ちょいマック」を注文すると特別席で食べられるといった話ならば「体験価値」は上がるかもしれない。しかし、そういう説明は見当たらない。
続きを見ていこう。
【日経の記事】
ズナイデン流はとにかくネーミングにこだわる。「ごはんバーガー」の場合、当初は「おコメバーガー」だったが、「これだと物性を表現している。ごはんという食事シーンを想起するネーミングを選んだ」。
CMの内容も凝る。物語風にすると同時に、哀愁漂う大人の世界を演出した。主役は漫才コンビのナイツの塙宣之さんで、「」た妻、仲の悪い同期などネガティブな人間模様を舞台とした。明るく前向きなトーンが目立ったマックが、「うま味」だけでなく「苦み」を加えるようになった。確かに順風な人生より、逆風感のある人生の方が人々の共感を得やすい。
◎「ネーミング」の問題?
「ズナイデン流はとにかくネーミングにこだわる」として「ごはんバーガー」の話も持ち出してくるが、やはり「体験価値」との関連は感じられない。
「CMの内容も凝る」とさらに脱線して、結局は「体験価値」が上がる話として着地していない。「大人向けのプレミアム商品」を投入したからと言って「体験価値」が上がる訳ではない。
高価格の「プレミアム商品」を投入すれば、それが「体験価値」の向上につながるとの考え方ならば、回りくどい説明をせずに、高価格商品へのシフトによる「高付加価値戦略」と説明すればいい。
中村編集委員の説明を信じれば「マック」「は『体験』を重視した高付加価値戦略に転換した」はずだ。では「体験」とは何を指すのか。その明確な説明は結局出てこない。最後の段落も見ておこう。
【日経の記事】
少子高齢化で日本の胃袋はますます縮む。若者、家族から大人の階段を上るマックは国内消費の縮図と言えそうだ。
◎「体験価値」の話のはずが…
「体験価値」を上げる話をしていたはずが、顧客層の高年齢化への対応にすり替わってしまった。訴えたいことが明確にならないまま書き始めた記事は、こういう展開になりやすい。そこに中村編集委員の書き手としての実力が見える。
※今回取り上げた記事「ヒットのクスリ~大人の階段上るマック 『ちょい』が開拓、多様な利用」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220415&ng=DGKKZO60012680U2A410C2TB1000
※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価はDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。
無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html
「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html
スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html
「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html
日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html
「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html
キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html
分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html
「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html
「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html
日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html
「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html
「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html
日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html
「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html
「江別の蔦屋書店」ヨイショが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_2.html
渋野選手は全英女子まで「無名」? 日経 中村直文編集委員に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_23.html
早くも「東京大氾濫」を持ち出す日経「春秋」の東京目線
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_29.html
日経 中村直文編集委員「業界なんていらない」ならば新聞業界は?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_5.html
「高島屋は地方店を閉める」と誤解した日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_23.html
野球の例えが上手くない日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_15.html
「コンビニ 飽和にあらず」に説得力欠く日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_23.html
平成は「三十数年」続いた? 日経 中村直文編集委員「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/deep-insight.html
拙さ目立つ日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ~アネロ、原宿進出のなぜ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_28.html
「コロナ不況」勝ち組は「外資系企業ばかり」と日経 中村直文編集委員は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/blog-post.html
データでの裏付けを放棄した日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_17.html
「バンクシー作品は描いた場所でしか鑑賞できない」と誤解した日経 中村直文編集委員https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/09/blog-post_11.html
「新型・胃袋争奪戦が勃発」に無理がある日経 中村直文編集委員「経営の視点」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post_26.html
「悩み解決法」の説明が意味不明な日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_19.html
問題多い日経 中村直文編集委員「サントリー会長、異例の『檄』」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/blog-post_89.html
「ジャケットとパンツ」でも「スーツ」? 日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/blog-post_30.html
「微アルコール」は「新たなカテゴリー」? 日経 中村直文編集委員の誤解https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/03/blog-post_12.html
「ながら族が増えた」に根拠欠く日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/05/blog-post_14.html
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