「MMT(現代貨幣理論)」は悪者にされやすい。理論的な欠点を指摘されるのなら分かる。しかし、根拠も示さず悪者的なイメージだけを残すような書き方は感心しない。19日の日本経済新聞朝刊マーケット総合面に載った「大機小機~政治が財政破綻を語るべき理由」という記事はその典型だ。
室見川 |
順に中身を見ていこう。
【日経の記事】
永田町でMMT(現代貨幣理論)が流行している。国債をいくら出しても大丈夫だ、と与党の政治家が公然と議論している。
◎これだけ?
記事で「MMT」に関する記述はこれだけだ。「MMT」をよく知らない読者は「国債をいくら出しても大丈夫」と訴えているのが「MMT」だと誤解してしまう。「MMT」は高インフレを良しとしないので「国債をいくら出しても大丈夫」とは考えない。
「MMT」とは離れるが、記事の続きを見ていく。
【日経の記事】
政治家が「財政破綻はあるはずないからいくら金を使っても大丈夫だ」という姿には「北朝鮮が攻めてくるはずはないから自衛隊は遊んでていい」という主張と同じくらい違和感を持つ。国民が「財政破綻はない」と安心して信じることを政治の目標にするのには賛成だが、それは政治家自らが「財政破綻は起きない」と信じ込むこととは違う。危機に備える心構えを政治家が示して初めて国民は危機が起きないと信じられる。
◎国民に本当のことは知らせない?
上記の主張はかなりの「国民」軽視だ。「財政破綻」のリスクがあっても「政治家」以外の「国民」には「財政破綻はない」と信じさせて問題ないらしい。言い換えれば、一般の「国民」はだましていいという話だ。2011年の原発事故を思い出した。あの事故が起きるまで「原発は絶対安全」と信じていた「国民」も多かったはずだ。
さらに続きを見ていく。
【日経の記事】
新型コロナウイルス対策や経済成長のためにいま必要な財政支出まで止めてはならず、すぐに財政を引き締めるべきではない。しかし世代を超えた時間軸では財政の持続性の確保は必要だ。債務が際限なく大きくなれば、いずれは通貨への信認が失われる可能性がある。
現に第1次世界大戦後のドイツ、オーストリア、ハンガリーなどや、1980年代の中南米諸国では戦争や対外債務をきっかけに通貨の信認が失われハイパーインフレになった。23年のドイツでは物価は平時の1兆倍に急上昇した。戦争で物資の供給不足が起きたからという理由では説明がつかない。供給体制が破壊されたとしても物資の供給が1兆分の1になったはずはないからである。ドイツのハイパーインフレは明らかに通貨に対する国民の信認が失われたことで起きた。
同じような信認喪失は今すぐに日本では起きないかもしれないが、子供や孫の世代まで債務膨張を放置すれば起こらないとは限らない。
◎心配なのは「ハイパーインフレ」?
「財政破綻」の心配をしていたはずが、いつの間にか「ハイパーインフレ」の話にすり替わっている。日本国債の債務不履行に関しては、政府・日銀がそれを望まない前提で言えばゼロリスクだ。なので「財政破綻」のストーリーを説得力のある形で紡ぐのは難しい。その代わりによく登場するのが「ハイパーインフレ」だ。
「ハイパーインフレ」を実質的な「財政破綻」と見ることはできるが、だったら最初から「ハイパーインフレ」の危うさを語ればいい。
「MMT」はインフレを財政支出の制約要件とするので「ハイパーインフレ」を容認しない。今回のような書き方だと「ハイパーインフレでも問題ないという極論を展開するのがMMT」と誤解する人が出てきてしまう。
筆者は意図的にそうしているのかもしれないが…。
※今回取り上げた記事「大機小機~政治が財政破綻を語るべき理由」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220219&ng=DGKKZO80300710Y2A210C2EN8000
※記事の評価はD(問題あり)
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