2022年1月10日月曜日

「異次元緩和撤退が株高持続の条件」? 日経QUICKニュース永井洋一編集委員の無理筋

10日の日本経済新聞朝刊グローバル市場面に日経QUICKニュースの永井洋一編集委員が書いた「日本株、買われない『真相』~実質金利高止まりで低迷」という記事には色々と疑問を感じた。順に見ていこう。

夕暮れ時の筑後川

【日経の記事】

2021年は欧米株が最高値を更新するなか、日経平均株価は32年前の最高値まで2割以上も低い水準にとどまった。日本株が買われない「真相」の一つは銀行の店頭で示される名目金利から物価変動の影響を除いた実質金利の高さがもたらす民間投資の低迷との見方がある。実質金利の低下は最高値更新の条件といえる

財務省によれば21年の海外投資家による日本国債の買越額は10兆円以上に膨らみ、14年以降で最大規模となった。一方、株式は1兆円程度の買い越しにとどまった。ここ数年、海外勢は日本株から日本国債への資金シフトを続けている。「ほかの国に比べて日本は低成長・低インフレが続くとの見方が背景にある」(野村証券の中島武信氏)

10年物国債の名目の利回りから消費者物価指数(CPI)の前年同月比の上昇率を控除して便宜的にはじいた実質長期金利(21年11月までの3年平均)は米国がマイナス1%、ドイツがマイナス2%程度なのに対し、日本はほぼゼロ、中国はおよそ1%だ。株価が伸び悩む日本と中国は相対的に実質金利が高い。


◎実質金利が高い?

日本株が買われない」要因として「実質金利の高さがもたらす民間投資の低迷との見方がある」と永井編集委員は言う。「実質金利」が「ほぼゼロ」だから「民間投資」が「低迷」するのか。「投資」をしたいと望む企業にとって「実質金利」が「ほぼゼロ」ならば強力な追い風と言える。

名目金利も「実質金利」も「長期金利」ベースでさえ「ほぼゼロ」まで下がっているのに「民間投資」が「低迷」しているとすれば、そもそもの「民間投資」需要が非常に弱いとみるべきだ。

なのに「実質金利の低下は最高値更新の条件」なのか。「米国がマイナス1%」だとしたら日本は「実質金利」が1%分下がるだけで並ぶ。今はゼロ近辺の物価上昇率がプラス1%になれば実現だ。最近の経済情勢を考えれば、それほど難しくない。原油高などを受けてインフレ率が1%を安定的に超えてきたとして、それで「民間投資」が盛り上がるのか。

さらに気になったのが以下のくだりだ。


【日経の記事】

問題は、こうした海外要因に振り回されやすい日本株が抱える構造的な脆弱性にある。

日本経済の低迷の原因は国債の大量発行にある。景気対策で目先の国内総生産(GDP)は増えても、その資金を国債で賄う限り、政府の資金需要が民間経済を押しのける『クラウディングアウト』が発生し、名目金利から期待物価上昇率の影響を除いた実質金利を押し上げるためだ」。バブル経済研究の第一人者である慶応大の櫻川昌哉教授は指摘する。

名目金利はゼロ%まで下がると人々は将来、何かに投資するのに備えてお金を流動性の高い現金や預金に滞留させる。国民の預金は金融機関を通じて国債に吸い上げられ、民間の資金需要が締め出される。その結果、経済活動はふるわず、期待物価上昇率が低迷するので実質金利が高止まりする。長期停滞と呼ばれる日本の病根だ。「国債の大量発行の結果、日本人は気づかぬうちに長期デフレや潜在成長率の低下といったコストを支払わされている」(櫻川氏)


◎「クラウディングアウトが発生」?

クラウディングアウト」とは「国債の増発などによる政府の資金需要の増加が市中金利を上昇させ、金融が逼迫して民間の資金需要を抑制する現象のこと」(百科事典マイペディア)だ。これが日本で発生していると「慶応大の櫻川昌哉教授」が言っているらしい。しかし長期金利ベースで見ても日本の金利はゼロ近辺に張り付いたままだ。「政府の資金需要の増加が市中金利を上昇させ」るような動きは全く見られない。

日本の企業は現預金をため込み過ぎだとの指摘もある。「政府の資金需要の増加が市中金利を上昇させ」ているために企業が資金を調達できず、投資したくてもできない状況には程遠い。

記事の結論部分もかなり無理がある。


【日経の記事】

21年末の東証1部の時価総額は735兆円と1999年末比1.6倍となったが、国債の発行残高は947兆円(21年3月末時点)と22年で3.2倍に膨らんだ。長期的な株高持続の条件は一にも二にも財政再建と日銀の異次元緩和撤退ということになる


◎株安になりそうだが…

長期的な株高持続の条件は一にも二にも財政再建と日銀の異次元緩和撤退ということになる」という驚くべき結論を永井編集委員は導き出している。

では「長期的な株高持続」を狙って政府・日銀が「異次元緩和撤退」を決めたらどうなるだろうか。長期金利のコントロールをやめ市場に任せる。日銀は保有国債の大部分を市場で売却する。そうなると長期金利にはかなり上昇圧力がかかる。

さらに「財政再建」のために公的年金の支給額を半減させ、支給開始年齢も80歳からとするのはどうか。国家公務員の給与も一律半額とするなど歳出削減を強力に実行してみよう。

こうした動きは名目金利を上昇させる一方で、消費低迷などを通じて物価下落要因となるだろう。つまり「実質金利」には上昇圧力がかかる。「実質金利の高さ」を問題視していたのに、永井編集委員の提案に従うと「実質金利」は上昇する可能性が高い。それで「長期的な株高持続」につながるのか。よく考えてほしい。


※今回取り上げた記事「日本株、買われない『真相』~実質金利高止まりで低迷

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220110&ng=DGKKZO79080140Z00C22A1ENG000


※記事の評価はD(問題あり)。永井洋一編集委員への評価はC(平均的)からDへ引き下げる。

0 件のコメント:

コメントを投稿