2022年1月29日土曜日

インフレ対応として預貯金・国債へのシフトを日経 小栗太編集委員は勧めるが…

日本経済新聞の小栗太編集委員が29日朝刊マネーの学び面に書いた「インフレ不安、家計を守る~支出を抑え、運用は分散重視」という記事は問題が多かった。ここでは資産運用に関する解説を見ていく。

夕暮れ時の筑後川

【日経の記事】

インフレ不安は個人の資産運用にも悪影響を及ぼす。米国の中央銀行である米連邦準備理事会(FRB)は、早ければ3月にも政策金利の引き上げ開始を見込む。市場では金融引き締めで米国の景気回復にブレーキがかかることへの警戒感が台頭。ウクライナを巡る地政学リスクも加わり、世界的な株価の乱高下が起きている。

昨年までの株高を背景に、日本の個人投資家の間では米国株などへの投資が膨らみ、世界的な株価や為替相場の乱高下で大きな損失を被るリスクが高まっている。相場が不安定で先行きの不透明感が強い間は、株式や外貨を中心にした運用で損失を膨らませないように、預貯金や個人向け国債などの割合を高め、運用先を分散しておくことが重要となる


◎特別なことはしない方が…

まず「インフレ不安は個人の資産運用にも悪影響を及ぼす」という説明がよく分からない。問題は「インフレ」ではなく「インフレ不安」なのか。とりあえず「インフレ」の方だとしよう。名目ベースで言えば「インフレ」は「個人の資産運用」にとってプラスだ。基本的には株価も上がりやすい。

物価の影響を除いた実質ベースで言えば、どちらとも言えない。過去のデータから経験則は導き出せるかもしれないが、小栗編集委員もそうしたデータは見せてくれない。「インフレ」傾向が強まっているからと言ってリスク資産の比率を下げる必要は感じない。

ところが「相場が不安定で先行きの不透明感が強い間は、株式や外貨を中心にした運用で損失を膨らませないように、預貯金や個人向け国債などの割合を高め」るべきだと小栗編集委員は言う。これは賛成できない。

通常であれば「インフレ」は金利上昇を伴うので「預貯金や個人向け国債」(ただし国債は変動金利型に限る)を持つのは悪くない選択だ。預貯金金利も連動して上がってくれる。

しかし現状では「預貯金や個人向け国債」は「インフレ」に弱すぎる。日銀は物価上昇率が2%を安定的に超えてこない限り利上げには踏み切らないだろう。つまり2%の「インフレ」になっても「預貯金や個人向け国債」の利回りはほぼゼロのままだ。実質価値は目減りが避けられない。なのに預貯金や個人向け国債などの割合を高め」るべきなのか。

相場が不安定で先行きの不透明感が強い」のは多かれ少なかれいつものことだ。それでいちいちリスク資産の比率を下げていたら何のために投資しているのか分からなくなる。

個人投資家」であれば、持っておくべき無リスク資産の金額を決めたら、残りの資金はリスク資産に投じてひたすら待つスタンスでいい。「インフレ」だからとか「地政学リスク」とかを考えても仕方がない。そうした材料は既にほとんどが市場価格に織り込まれている。

インフレ」だからと言って資産運用で特別なことはしない。それが「インフレ不安」に対応する一番の方法だと思える。


※今回取り上げた記事「インフレ不安、家計を守る~支出を抑え、運用は分散重視

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220129&ng=DGKKZO79637520Y2A120C2PPK000


※記事の評価はD(問題あり)。小栗太編集委員の評価はE(大いに問題あり)を据え置く。小栗編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

「『金利消失』新興国でも」と読者を欺く日経 小栗太編集委員https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_23.html

ビットコイン解説に見える日経ヴェリタス小栗太編集長の「限界」https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_4.html

処方箋を示してる? 日経1面「人口病に克つ」への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_97.html

日経 小栗太氏 E評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_18.html

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