ジャーナリストの大西康之氏に東芝を語る資格はないと見ている。FACTA2022年1月号に載った「死ねずに彷徨う『東芝の悲劇』」という記事にも、かなり無理がある。中身を見ながら問題点を指摘したい。最初の段落から始めよう。
船小屋温泉大橋 |
【FACTAの記事】
東芝の大株主でシンガポール拠点の資産運用会社、3Dインベストメント・パートナーズは11月24日、東芝が11月12日に発表した「3分割案」を「支持しない」とする書簡を東芝の取締役会宛に送った。3Dを筆頭に東芝の発行済み株式の過半を握ると見られる「物言う株主」が不支持で足並みを揃えれば、分割案は臨時株主総会で否決され、東芝再建は振り出しに戻る。死ぬに死ねない東芝は冥界を彷徨い続けることになる。
◎死ねないのに「冥界」へ?
「冥界」とは「死後の世界。あの世」(デジタル大辞泉)だ。「死ぬに死ねない東芝」が「冥界を彷徨い続けることになる」のは辻褄が合わない。
続きを見ていこう。
【FACTAの記事】
「あそこで一度死んでおけば、楽になったはずなんだよ」
東芝における会社と株主の泥試合が続く中、大型の再生案件をいくつも手がけてきた大物弁護士はこう呟いた。「死んでおけば」とは「法的整理」、すなわち会社更生法か民事再生法の適用を申請しておけば、という意味である。
そして「あそこ」とは2017年12月。東芝が約6千億円の第三者割当増資を実施したタイミングだ。新株の発行数は発行済み株数の53.8%を占め、腰が引けた国内投資家の代わりに海外アクティビストが大量に雪崩れ込んだ。東芝が自らの運命を自らで決める「自己決定権」を放棄した瞬間と言える。
このとき東芝は米国の原発子会社ウエスチングハウス(WH)の再生手続きなどで1兆2428億円の損失を計上し、17年3月期に5529億円の債務超過が確定、18年3月も7500億円の債務超過が見込まれていた。18年3月期末までに債務超過を解消しなければ上場廃止になる、というギリギリのタイミングで最後の切り札だった半導体子会社、東芝メモリ(現キオクシア)の売却交渉がうまく進まず、最終的に増資を決断した。
しかし前出の弁護士によると、このときの東芝には「第三の道」が存在した。会社更生法、または民事再生法の適用申請、いわゆる「倒産」である。東芝を倒産させたらどうなっていたか。かつて会社更生法の適用を申請した日本航空(JAL)を例に考えてみよう。
◎自らの不明を総括しないと…
「前出の弁護士によると、このときの東芝には『第三の道』が存在した。会社更生法、または民事再生法の適用申請、いわゆる『倒産』である」と、最近になって東芝に「会社更生法、または民事再生法の適用申請」という選択があったことを知ったような書き方をしている。これは解せない。
FACTA2017年7月号の「時間切れ『東芝倒産』」という記事で「もはや行き着く先は決まっている。東芝の経営破綻だ」と言い切ったのは大西氏自身だ。そして予想は外れた。なぜ「倒産」不可避と言い切ったのに、そうならなかったのか。そこを総括してほしいと当時FACTAにも要望を送ったが、現在に至るまで実現していない。
なのに「東芝を倒産させたらどうなっていたか」などと論じる気が知れない。「もはや行き着く先は決まっている。東芝の経営破綻だ」と断言したのに、なぜ「倒産」に至らなかったのか。その説明から大西氏が逃げ続けたいのならば、東芝を論じるのは諦めるべきだ。
こうした経緯を抜きにすれば記事に説得力があるかと言うとそうでもない。最後の段落を見ていこう。
【FACTAの記事】
「妥協の産物」として生まれたのが「分割案」だが、それでお茶を濁せるほど海外アクティビストは甘くない。今のところ「反対」を表明しているのは3Dだけだが、筆頭株主のエフィッシモ・キャピタル・マネージメントも「真摯に検討を進め、臨時総会までに賛否を判断する」としており、東芝が「22年の3月までに開く」としている臨時株主総会が大荒れになるのは想像に難くない。こうして東芝はゾンビになる。かつて経団連会長の椅子を分け合った東京電力も今やゾンビ。死ぬに死ねない巨大企業が彷徨い歩く日本は、まるでお化け屋敷のようだ。
◎そもそも東芝はそんなに苦しい?
そもそも東芝は「死ぬに死ねない」企業なのか。赤字を垂れ流しているのならば「こうして東芝はゾンビになる」「死ぬに死ねない巨大企業」などと言われるのも、まだ分かる。しかし11月12日に東芝が発表した2022年3月期の業績見通しでは1700億円の営業利益を見込んでいる。半期ベースで見ても約450億円の営業利益を確保している。
「分割案」が実現しなかったとしても普通に生きていける収益力を現時点で有していると見るのが自然だろう。
「臨時株主総会が大荒れになるのは想像に難くない。こうして東芝はゾンビになる」との説明も謎だ。総会が「大荒れになる」と「ゾンビになる」のか。「分割案」が承認されるかどうかの問題ではなく「大荒れになる」かどうかが大事なのか。
「分割案」が「ゾンビ」化を防ぐ切り札ならば(そうは思えないが…)、問題は「分割案」が承認されるかどうかだろう。大西氏の分析はやはり説得力がない。
※今回取り上げた記事「死ねずに彷徨う『東芝の悲劇』」https://facta.co.jp/article/202201008.html
※記事の評価はE(大いに問題あり)。大西康之氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。
日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html
大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html
東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html
日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html
FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html
文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html
文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html
文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html
大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html
文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html
文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html
「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html
「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html
経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_22.html
大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/facta.html
「経団連」への誤解を基にFACTAで記事を書く大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/facta.html
「東芝問題」で自らの不明を総括しない大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_24.html
大西康之氏の問題目立つFACTA「盗人に追い銭 産業革新機構」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/facta.html
FACTA「デサント牛耳る番頭4人組」でも問題目立つ大西康之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/facta4.html
大西康之氏に「JIC騒動の真相」を書かせるFACTAの無謀
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/jicfacta.html
FACTAと大西康之氏に問う「 JIC問題、過去の記事と辻褄合う?」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/facta-jic.html
「JDIに注がれた血税が消える」?FACTAで大西康之氏が奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/jdifacta.html
FACTA「アップルがJDIにお香典」で大西康之氏の説明に矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/factajdi.html
FACTA「中国に買われたパソコン3社の幸せ」に見える大西康之氏の問題
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/facta3.html
FACTA「孫正義『1兆円追貸し』視界ゼロ」大西康之氏の理解力に疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/facta1.html
文藝春秋「LINEはソフトバンクを救えるか」でも間違えた大西康之氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/line.html
大西康之氏が書いたFACTA「コロナ禍より怖い『食べログ』の減点」の問題点https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/05/facta.html
FACTA「『防衛と原発』東芝は国有化される」の手抜きが過ぎる大西康之氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/07/facta.html
FACTA「『三無』創業にかけるカッコいい若者たち」に見える大西康之氏の誤解https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/11/facta_25.html
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