記事を書く上で、ネタの使い回しは感心しない。書き手としての能力の低さを自ら認めているようなものだ。10月6日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に辻本浩子論説委員が書いた「中外時評~女性のSTEMが開く未来」という記事は、9月28日の朝刊に載った「育てたい女性の理工系人材」という社説の焼き直しだろう。
夕暮れ時の筑後川 |
社説に署名はないので断定はできないが、同じ媒体で期間も10日以内。社説を担当するのが論説委員といった条件を考えると、辻本論説委員がネタの使い回しに走った可能性は極めて高い。
2つの記事の類似点を見ていく。
(1)国際比較
【中外時評】
日本のこれからを左右してしまうかもしれない。
経済協力開発機構(OECD)は9月、STEM(科学、技術、工学、数学)分野で学ぶ大学生らの女性割合のデータを公表した。日本では工学系で16%、自然科学系では27%にとどまった。
加盟国平均はそれぞれ、26%と52%だ。比較可能な36カ国のなかでいずれも最下位だ。日本の理工系が、飛び抜けて男社会であることを示している。
【社説】
これは日本の大きな損失ではないだろうか。経済協力開発機構(OECD)は、2019年に大学などの高等教育機関に入学した学生のうち、STEM(科学・技術・工学・数学)分野に占める女性の割合を公表した。
工学系では日本は16%(加盟国平均26%)、自然科学系では27%(同52%)だった。比較可能な36カ国のなかで、日本が最も低い。女性の理工系人材の育成が遅れていることは明らかだ。性別ゆえに個人の可能性が制約され、進学をためらわせる壁があるなら、なくさねばならない。
(2)親や教師の責任
【中外時評】
進路選択で影響を与えるのは、両親や学校の教師だ。PISAの過去の調査では、数学の成績が同等でも、STEMの職業への親の期待感は娘より息子に対して強かった。
【社説】
まずは、「理工系は男性」という根強いステレオタイプだろう。本人が興味を持っていても、親や教師が後ろ向きで、諦めてしまう女子生徒は少なくない。
(3)ロールモデル
【中外時評】
政府は6月の骨太の方針で「理工系学部における女子学生の割合向上を促す」と明記した。内閣府の会議も、2021年度内に改善策をまとめる予定だ。教育現場の意識とカリキュラムの改革、身近に理工系のロールモデルを示す。やるべきことは多い。
【社説】
現状の数の少なさゆえに、目標となるロールモデルがおらず、将来のイメージを持ちにくい面もあろう。小中高のうちから広く理工系の人と出会えるイベントなどを増やし、魅力を伝えていく工夫が大学や企業には求められる。
(4)イノベーション
【中外時評】
STEM分野でいかに女性の力を引き出すかは、世界的な課題だ。多様な視点があってこそ、イノベーションが生まれる。大学や企業の研究開発力、国際競争力にも直結するからだ。
【社説】
多様性があってこそ、新たなイノベーションが生まれ、技術の発展にもつながる。デジタル分野を中心に、優れた人材は企業で奪い合いになっている。産官学あげて、理工系に進む女性を後押ししたい。
◇ ◇ ◇
社説で書いたことをベースに少し話を加えて表現を変えたのが今回の「中外時評」と言える。焼き直しを選んだとすれば、辻本論説委員は「中外時評」を書くに当たって新たに取り上げたいテーマがなかったことになる。肩書から推測すると、既にベテランの域に達しているはずだ。後輩に模範を示すべき論説委員として残念と言わざるを得ない。
※今回取り上げた記事「中外時評~女性のSTEMが開く未来」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211006&ng=DGKKZO76365170V01C21A0TCR000
※記事の評価はD(問題あり)。「育てたい女性の理工系人材」という社説に関しては以下の投稿を参照してほしい。
「女性の理工系人材」育成のためには男性差別もありと日経は訴えるが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/09/blog-post_28.html
※辻本浩子論説委員への評価はDを据え置く。辻本論説委員については以下の投稿も参照してほしい。
日経 辻本浩子論説委員「育休延長、ちょっと待った」に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/10/blog-post_16.html
「人生100年時代すぐそこ」と日経 辻本浩子論説委員は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/100.html
少子化克服を「諦めるわけにはいかない」日経 辻本浩子論説委員に気付いてほしいことhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/blog-post_11.html
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