2021年9月3日金曜日

日経「米ETF、選別型が主流に」で後藤達也・北松円香記者に注文

3日の日本経済新聞朝刊グローバル市場面に載った「米ETF、選別型が主流に~指数型上回り個別銘柄にマネー 実態伴わない値動きも」という記事は興味深い内容だった。ただ、引っかかる説明もあった。記事を見ながら指摘したい。

熊本市の繁華街

【日経の記事】

米国で「アクティブ」と呼ばれる銘柄選別型の上場投資信託(ETF)が急拡大している。2021年はアクティブETFの新規上場が株価指数に連動する「パッシブ」を大きく上回る。開示義務が緩和されたほか、少数の銘柄に集中投資する手法が人気を集めているためだ。ただ、アクティブに資金が集中しすぎれば、企業の実態よりもマネーの動きで株価が左右されやすくなる


◎「資金が集中しすぎ」はどう判断?

アクティブに資金が集中しすぎれば」と書いているが、「資金が集中しすぎ」ているかどうかの判断基準は最後まで示していない。「パッシブ」への「集中」が問題なのは分かるが、「アクティブに資金が集中しすぎ」ることはないとも個人的には感じる。この問題は後で触れたい。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

米調査会社モーニングスターの集計によると、21年に上場したアクティブETFは9月1日時点で179本に対し、パッシブETFは98本にとどまる。既存のETFは「S&P500種株価指数」や「ナスダック100」などの株価指数に連動したパッシブが中心だったが、20年にはアクティブの上場数がパッシブを上回り、今年はさらにアクティブが勢いを増している。


◎金額ベースは?

今回の記事ではメインの見出しが「米ETF、選別型が主流に」となっている。「既存のETF」でも「20年にはアクティブの上場数がパッシブを上回り、今年はさらにアクティブが勢いを増している」のならば「主流」との見方を否定はできない。ただ、まずは金額ベースで見るべきだと感じる。しかし、金額でも「主流」かどうかには言及していない。そこは残念。

さらに見ていく。


【日経の記事】

アクティブETFの人気をけん引するのは米新興資産運用会社アーク・インベストメント・マネジメントのETFだ。「ハイテク株の女王」とも呼ばれるキャシー・ウッド氏が運営する旗艦ファンドの「アーク・イノベーション・ETF」は電気自動車(EV)のテスラを筆頭に50銘柄ほどの「破壊的革新」銘柄に集中投資する。


◎50銘柄に「集中投資」?

50銘柄ほどの『破壊的革新』銘柄に集中投資する」と書いているが、個人的には「50銘柄」だとあまり「集中」していない感じがする。「50銘柄」が「アクティブETF」としては「集中投資」だと言えるのならば、その裏付けとなるデータは欲しい。

少し飛ばして続きを見ていく。


【日経の記事】

ETFは取引がしやすく、手数料も安いため、個人投資家だけでなく、年金などからの投資も増えるため、運用会社も顧客の取り込みに力を入れている。


◎「ため」の繰り返しは避けよう!

1つの文の中で「手数料も安いため」「年金などからの投資も増えるため」と「ため」を繰り返しているので拙い印象を受ける。例えば「ETFは取引がしやすく、手数料も安いため、個人投資家だけでなく、年金などからの投資も増えており、運用会社も顧客の取り込みに力を入れている」とすれば問題は解消する。

今回の記事では「アクティブETF」の信託報酬に触れていないのも引っかかった。「ETFは取引がしやすく、手数料も安い」のはその通りだが「アクティブ」でも「パッシブ」並みの低コストなのか。だとしたら「パッシブ」にこだわる意味はなくなる。なので、そこも触れてほしかった。

話を「資金が集中しすぎ」問題に戻そう。


【日経の記事】

たとえばアークは資産規模が膨らんでも投資先を少数に絞っているため、個別銘柄への影響力が強くなりすぎる面もある。さらに、ユーチューブなどを通じて日々積極的に情報を公開しているため、個人投資家はアークの動向に追随しやすい。その分、アークのETFから資金が動けば、個別企業の実態と関係なく、株価が大きく上下してしまうことが既に何度もおきている


◎「個別企業の実態」に連動させたい?

記事を書いた後藤達也記者と北松円香記者には「個別企業の実態と関係なく、株価が大きく上下してしまう」のは好ましくないとの前提があるのだろう。賛成はできない。

株式市場の価格発見機能は様々な参加者が様々な思惑で売買することで働く。ゆえに「個別企業の実態と関係なく、株価が大きく上下」する場合もある。それでも自由な売買を認めた方が“正しい価格”にたどり着けると見ている(インサイダー取引などの例外はある)。

なので「個別企業の実態と関係なく、株価が大きく上下」する事態に際しては、傍観で良いのではないか。中長期には、ほぼ“正しい価格”に収斂していくはずだ。

アーク」の件は「アクティブETF」の問題ではないとも感じる。同じようなことは「ユーチューブなどを通じて日々積極的に情報を公開」するカリスマ投資家でも起きうる。このカリスマ投資家が「投資先を少数に絞って」個別株を買っている場合、その「動向に追随」する投資家が出てきても不思議ではない。

昔で言えば仕手筋に提灯が付くようなものだ。そこを否定すると株式市場は機能しにくくなる。今回の記事では「アクティブETFへの資金集中は、株式市場全体を不安定にさせるおそれもある」と最後に書いている。「株式市場」は基本的に「不安定」だ。そして「安定」が常に好ましい訳でもない。

後藤記者と北松記者は同意してくれないだろうが…


※今回取り上げた記事「米ETF、選別型が主流に~指数型上回り個別銘柄にマネー 実態伴わない値動きも

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210903&ng=DGKKZO75399350S1A900C2ENG000


※記事の評価はC(平均的)。後藤達也記者への評価はD(問題あり)からCへ引き上げる。北松円香記者への評価は暫定でCとする。後藤記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「先進国の金利急低下」をきちんと描けていない日経 後藤達也記者
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_87.html

日経 河浪武史・後藤達也記者の「FRB資産 最高570兆円」に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/frb-570.html

IT大手にマネーが「一極集中」と日経 藤田和明編集委員・後藤達也記者は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/it_26.html

日経 後藤達也・高見浩輔記者が書いた「先進国の債務、戦後最大」への注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/blog-post_63.html

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