17日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「アフガンの混乱回避へ最大限の圧力を」という社説はピントがずれていると感じた。中身を見ながら具体的に指摘したい。
筑後川昇開橋 |
【日経の社説】
アフガニスタンで反政府武装勢力タリバンが全土を掌握し、政府が事実上崩壊した。米国が2001年の米同時テロをきっかけに打倒して以来、20年ぶりにタリバン主導の政権が復活する。
武力による強引な政権奪取は許されない。8月末の米軍撤収を控え、タリバンはアフガン政府との対話を約束したはずだ。同国を混乱に引き戻さないために、国際社会はタリバンに対する圧力を強める必要がある。
◎なぜ米国を責めない?
日経は米国に借りでもあるのだろうか。「タリバン主導の政権が復活する」ことを歓迎しないのならば、まずはさっさと逃げ出した米国を責めるべきだ。しかし、そうした話は全く出てこない。なのに「同国を混乱に引き戻さないために、国際社会はタリバンに対する圧力を強める必要がある」とは訴える。それなら「米軍撤収」の撤回を求めればいいではないか。米国にその意思がないことを批判してもいい。しかし、日経にその気はないようだ。
「武力による強引な政権奪取は許されない」という主張も納得できない。「タリバン政権は前回、米同時テロを起こした国際テロ組織アルカイダの首謀者をかくまったとして米国の攻撃を受けて崩壊した」はずだ。
選挙で負けたのに下野せず「武力による強引な政権奪取」に乗り出した訳ではない。自分たちが「武力による強引な政権奪取」をされた側だ。やり返す権利があるとも言える。
「武力による強引な政権奪取」はいかなる理由があってもダメと言うならば「タリバン政権」を武力で排除した米国の行動がそもそもダメだ。しかし日経は米国には甘い。なので説得力がなくなってしまう。
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【日経の社説】
タリバンは主要都市を次々と攻略し、兵力や装備で上回るはずの政府軍は敗走した。予想を上回る速度で首都カブールに到達し、ガニ大統領は出国した。治安の急速な悪化で避難民が多数出ている。
タリバン政権は前回、米同時テロを起こした国際テロ組織アルカイダの首謀者をかくまったとして米国の攻撃を受けて崩壊した。統治時代はイスラム法を厳格に適用し、女性の教育や就労を禁じるなど深刻な人権上の問題を起こした。その再来は容認できない。
タリバンは今もアルカイダとのつながりが指摘される。各地からテロリストが流入してアフガンが再びテロの温床になれば、世界にとって重大な脅威となる。
バイデン米大統領は米同時テロから20年の節目より前に米軍を撤収させ、「米国史上、最も長い戦争」を終わらせる考えを示してきた。米国が20年2月にタリバンと交わした和平合意は恒久停戦をめぐるアフガン政府との交渉や、アフガンをテロ組織の拠点にさせないことを確認した。
タリバンの行動はこの合意を踏みにじる。各国は新政権を承認すべきでない。重要なのはアフガンのあらゆる勢力が参加する政権の実現だ。タリバンが国際的に認められるには、国際基準に合わせる努力が不可欠である。
◎「あらゆる勢力が参加する政権」とは?
まず「重要なのはアフガンのあらゆる勢力が参加する政権の実現だ」という主張がよく分からない。「あらゆる勢力が参加する政権」を「実現」させている国などあるのか。選挙をやって全政党が与党となる挙国一致内閣を作るイメージなのか。非常にハードルが高そうだが、なぜそんな「政権の実現」が「重要」なのか、よく分からない。
「タリバンが国際的に認められるには、国際基準に合わせる努力が不可欠である」との説明も謎だ。「タリバンの行動はこの合意を踏みにじる。各国は新政権を承認すべきでない」との立場で言えば、「国際基準に合わせる努力」をどれだけしようと「合意を踏みにじ」った過去は消せないから「各国は新政権を承認すべきでない」との結論に至るはずだ。
そもそも「国際基準」が何を指すのか、よく分からない。「国際基準」では「あらゆる勢力が参加する政権の実現」が必要とされているのか。だとしたら日本も米国も「国際基準」に達していない。
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【日経の社説】
アフガンの混乱は国境を接する中国やパキスタン、イランなどにも見過ごせない事態だ。日米欧は周辺国と連携し、タリバンに平和的な政権移行を迫る必要がある。
アフガンへの派兵は北大西洋条約機構(NATO)も歩調を合わせた。日本は復興支援会議を東京で開くなど、内戦で疲弊したアフガンの復興に協力してきたが、見直しを迫られる。20年を経て振り出しに戻るのは残念だ。
日本は茂木敏充外相がちょうど中東を訪問中である。アフガンを安定に導く国際社会の輪に粘り強く加わっていきたい。
◎「振り出しに戻る」?
まず「日米欧は周辺国と連携し、タリバンに平和的な政権移行を迫る必要がある」という説明が引っかかる。「アフガンを安定に導く国際社会の輪」とは「日米欧」と「周辺国」だけで作られているのか。カナダやオーストリアや韓国は無関係なのか。
「内戦で疲弊したアフガンの復興に協力してきたが、見直しを迫られる。20年を経て振り出しに戻る」というくだりも理解に苦しむ。例えば日本の「協力」で水道が整備されたとしよう。こうしたインフラも「タリバン」に全て破壊されてしまうとの前提なのか。
アフガニスタンの非「タリバン」化が「20年を経て振り出しに戻る」のは分かるが「復興」まで「振り出しに戻る」と考えるのは無理がある。
※今回取り上げた社説「アフガンの混乱回避へ最大限の圧力を」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210817&ng=DGKKZO74827350X10C21A8EA1000
※社説の評価はD(問題あり)
評者の指摘は、的確と感じた。社説というものが、ある程度俯瞰的であるのは仕方ないが、高みの見物では野次馬根性以外の何者でもない。「問題ありD」のレベルではない。社説はもとより新聞社全体の信用を落としている。
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