2021年7月28日水曜日

「入院率」は適切な指標? 日経「医療懸念、都内で再び」に思うこと

28日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「医療懸念、都内で再び~入院率2割、病床確保急ぐ」という記事は悪い出来ではない。「重症者の病床使用率はもっとも厳しかった1月の第3波ほどの逼迫感はない」などとも書いており、バランスもそこそこ取れている。とは言え引っかかる部分もあった。

電柱と夕陽

特に気になるのが「内閣官房によると26日時点で感染者のうち入院している人の割合を示す入院率が2割と、最も深刻な『ステージ4』に達した」ことだ。「『ステージ4』に達した」のはその通りだろう。だた「入院率」という指標には疑問を感じる。記事では以下のように説明している。

【日経の記事】

緊急事態宣言の対象とすべきかなどの目安にする指標のうち、入院率は今春から使う新しいものだ。コロナ患者が増加すると、本来は入院する必要があるのに入院できずに自宅や施設で療養する人も増加する。そのため入院率は数値が低いほど、受け入れることができない患者が増え、医療が逼迫している可能性があることを意味する


◎療養者は全員入院すべき?

入院率」の分母は「療養する人」全体だ。新型コロナウイルス関連の療養者は全員入院が好ましいのだろうか。この問題を日経には考えてほしい。「入院させるべき療養者」が分母ならば「入院率」で「医療が逼迫している」かどうかを見るのは適切だ。しかし「療養する人」の中に入院の必要がない人を含むのならば話は変わってくる。

常識的に考えれば「療養者=入院が必要な人」ではないはずだ。今の定義ならば「入院率」の指標としての有用性は低い。

付け加えると「コロナ患者が増加すると、本来は入院する必要があるのに入院できずに自宅や施設で療養する人も増加する」という説明は正確さに欠ける。

コロナ患者が増加」しても「入院する必要」がない人が増えただけならば「本来は入院する必要があるのに入院できずに自宅や施設で療養する人」が「増加する」とは限らない。さらに言えば、医療の受け入れ体制を拡充すれば「コロナ患者が増加」する一方で「自宅や施設で療養する人」が減る可能性もある。

ついでに「重症者」についてもコメントしておきたい。

【日経の記事】

東京都は26日、救急などの一般医療を一部制限し、コロナ病床を確保するように医療機関に要請した。都内の新規感染者数は6月中旬ごろから増加傾向が続いている。

感染力が強いデルタ型(インド型)の割合が高まっていることが背景にある。専門家からは過去最多を超えてもなお増加する可能性を指摘する声が上がる。重症者数は27日時点で82人となり、4連休を挟んで1週間で22人増えた。厚労省によると、重症者向けの病床使用率は21日時点で53%とステージ4の水準だ


◎わずか「82人」で「ステージ4」とは…

東京都」の「重症者数は27日時点で82人」と100人に満たない。人口比で見れば極めて低水準だ。それで「ステージ4」になってしまうとしたら、基準が厳しすぎるか医療体制が脆弱すぎるかのどちらかだ。

なのに、飲食店に営業自粛を求めたり人々の外出を抑制したりすべきなのか。この点も日経には改めて考えてほしい。


※今回取り上げた記事「医療懸念、都内で再び~入院率2割、病床確保急ぐ」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210728&ng=DGKKZO74241980Y1A720C2EA2000


※記事の評価はC(平均的)

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