21日の日本経済新聞朝刊1面に載った「多様な働き方できる自治体、『10万人都市』上位~本社・東大調査、首位は石川・小松」という記事を読む限りでは、この「調査」に意味はない。そう感じた理由を述べてみる。
有明海 |
◎理由その1~「多様な働き方」とは?
記事では「多様な働き方」を定義していない。「テレワークが広がり、自宅やその周辺で効率よく働けることを重視する人が増えてきた。生活サービスの使いやすさも求められ、多様な働き方や生活を実現できる都市が再評価され始めた」などとは書いているが、これでは何を以って「多様な働き方」とするのか判断できない。
「テレワークがしやすい自治体」とか「ワーケーションに適した自治体」といった具合に、焦点を絞った方が良かったのではないか。
◎理由その2~「10万人未満」が対象外だと…
今回の調査で「10万人都市」が「上位」に来たと日経は言う。嘘ではないだろうが、2つの意味で問題がある。まず「人口10万人以上の市と特別区に絞り、その実力を探った」ことだ。
この調査では人口が少ない方が高い点数が出る傾向があるとしよう。その場合「10万人都市」が「上位」に来たのは「人口10万人」で線を引いたからだという可能性が出てくる。作業が大変になるので「人口10万人」未満は対象外としたのだろうが、それで「10万人都市」が「上位」にと打ち出されてもとは思う。
もう1つの問題は「10万人都市」が全体に占める比率を見せていないことだ。「トップ30の68%を10万人台の都市が占めた」とは書いている。仮に、調査対象となった「主要287市区」のうち60%が「10万人都市」だとしたら「トップ30の68%を10万人台の都市が占めた」としても大した話ではない。逆に「10万人都市」が全体では10%に満たないなら、「トップ30の68%」という数字はかなりのものだ。なぜ、そこを見せないのか。
◎理由その3~「通勤時間」に意味ある?
今回の調査の最下位は埼玉県所沢市。ワースト3を埼玉県の市で占めている。「通勤時間」の長さがマイナスになったのだろう。しかし「通勤時間」が長い人が多いからと言って「多様な働き方」がしにくいとは限らない。「多様な働き方」の定義が明確ではないので「テレワーク」に限って考えてみよう。
「テレワーク」を選ばない人が多いからと言って、その地域で「テレワーク」がしにくい訳ではない。所沢市では「テレワーク」をしない人が多く、結果として「通勤時間」が長くなっているとしよう。だからと言って「テレワーク」に向かない市だと評価すべきだろうか。
今回の調査に関しては「保育サービス利用率」「地域内の経済循環率」「コロナ前後の昼間人口増減率」にも同じ問題を感じる。これらの数値と「多様な働き方」のしやすさに直接的な関係があるのか。
さらに言えば「経済循環率」については用語解説も入れるべきだろう。
◎理由その4~「徒歩圏に生活関連施設がある人口比率」と言われても…
「徒歩圏に生活関連施設がある人口比率」を点数化するのも意味がなさそうだ。まず「生活関連施設」の定義が分からない。なぜ「徒歩圏」なのかも不明だ。田舎で働く人は多くが車を利用している。「徒歩圏に生活関連施設」がないとしても、車で5分の場所に「生活関連施設」があれば不自由はない。自転車やバイクを使う手もある。「徒歩圏に生活関連施設がある」かどうかで「多様な働き方」のしやすさを測られても…とは感じる。
やはり今回の調査は意味がない。
※今回取り上げた記事「多様な働き方できる自治体、『10万人都市』上位~本社・東大調査、首位は石川・小松」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210721&ng=DGKKZO74074220R20C21A7MM8000
※記事の評価はD(問題あり)
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