2021年7月15日木曜日

「同質的集団にイノベーションなし」と日経に書いた大沢真知子日本女子大名誉教授の誤解

 女性問題を女性論者に語らせるとツッコミどころの多い内容になりやすいーーという経験則がある。日本女子大学名誉教授の大沢真知子もそれが当てはまる1人のようだ。15日の日本経済新聞朝刊経済教室面に載った「やさしい経済学~女性活躍社会に必要なこと(9) 多様な価値観尊重の重要性」 という記事にツッコミを入れていきたい。

筑後川と夕陽

【日経の記事】

東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長が、「女性が多い会議は時間がかかる」という趣旨の発言で辞任しました。森氏は「私どもの組織委員会の女性はみんなわきまえておられて」とも述べ、古い世代のリーダーの意見に従うことが暗黙の了解であることを印象づけました。

実際には女性が多い会議は時間がかかるわけではありません。特に女性がリーダーになると、会議の時間は短くなるようです。働く女性の多くは家庭と仕事を両立させながらキャリアを積み重ねています。その過程で物事に優先順位をつけ、重要なことからこなすやり方を経験によって身につけているからです


◎女性特有の長所?

女性は「物事に優先順位をつけ、重要なことからこなすやり方を経験によって身につけている」としよう。だからと言って「会議の時間は短くなる」のか。「会議」の「優先順位」が高い場合には「会議の時間」は長くなりやすいだろう。女性は「会議」の「優先順位」を低く設定すると決まっているのか。

さらに言えば「重要なことからこなすやり方」が身に付いているのは感心しない。こういう人は、重要性の低い顧客との約束をキャンセルして大事な顧客との商談を入れたりしそうだ。出世のためには正しい「やり方」かもしれないが、人としてはあまり信頼できない。

物事に優先順位をつけ」て仕事をするのは基本的に誰もがやっていることだ。「働く女性」の専売特許ではない。

付け加えると、大沢氏の見方が正しければ、独身で一人暮らしの「働く女性」は「家庭と仕事を両立させ」ずに済むので「物事に優先順位をつけ、重要なことからこなすやり方を経験によって身につけて」いない人が多いはずだ。本当にそうだろうか。

さらに続きを見ていこう。


【日経の記事】

女性のリーダーが増えることの利点の一つは、短時間で必要な結論を出したり、無駄な会議を減らせたりすることでしょう。今それを望んでいるのは、働く女性だけでなく、子育てをパートナーと分かちあっている男性も同じです。


◎だったら考え方としては…

短時間で必要な結論を出したり、無駄な会議を減らせたりすること」が重要で、それができるのは「物事に優先順位をつけ、重要なことからこなすやり方を経験によって身につけている」人だとしよう。この場合「女性のリーダー」を増やすべきだろうか。

既に述べたように、この点で独身の「働く女性」には多くを期待できない。「家庭と仕事を両立させながらキャリアを積み重ねて」いないからだ。一方で「子育てをパートナーと分かちあっている男性」には期待が持てる。

大沢氏の見方に従えば、子育てを経験していない者は「リーダー」に選ばず、「家庭と仕事を両立させながらキャリアを積み重ねて」いる者を男女問わず「リーダー」にしていくのが好ましいことになる。本当にそれでいいのか。

続きを見ていく。


【日経の記事】

しかし、森発言で気になったのは、わきまえた女性が出席している会議は短い時間で終わるという後半の発言です。そもそも、会議でわきまえるということはどういうことでしょうか。それは、上の人の発言に対して反対しないということであり、日本の男性中心社会の秩序を乱さないということを意味しているのではないでしょうか。


◎日本は「男性中心社会」?

日本は「男性中心社会」だと大沢氏は見ているようだ。違うとは言わない。しかし安易に決め付けるのは好ましくない。何を重視するかで「女性中心社会」とも言えるからだ。

ECのミカタ編集部によると「家庭で使用する商品やサービスの購買において、女性が8割の意志決定権を握っていることが明らかになった」らしい。家計で支出の決定権を持っている側が「中心」にいると見なせば、日本は明らかに「女性中心社会」だ。

根拠や条件を示さず「男性中心社会」と言い切ってしまっていいのだろうか。

今回の記事で最も引っかかったのが以下のくだりだ。

【日経の記事】

女性の活躍を阻害する要因を除去し、男女平等社会を実現させる重要性は、価値観の多様性が尊重される社会が生み出されることにあります。同質的な集団には、イノベーション(革新的なアイデア)は生まれないのです

異なる文化的な背景を持つ人や、セクシュアリティーの異なる人、障害を持った人、さらには世代の違う人々が様々に異なる意見を交わし、従来のやり方を変えていく方法を見つけ出す時代が来ています。


◎「同質的な集団」にイノベーションなし?


同質的な集団には、イノベーション(革新的なアイデア)は生まれないのです」と大沢氏は断定するが、根拠は示していない。これは明らかに違うと思える。

米国の発明家兄弟であるライト兄弟を例に考えてみよう。兄弟なので非常に「同質的」だが人類初の動力飛行を成功させたと言われている。それはなぜなのか。「同質的」でも「イノベーション」は「生まれ」るのではないのか。

そもそも「革新的なアイデア」は基本的に個人から生まれるもので「集団」を必要としない。多様性に富む「集団」が「革新的なアイデア」を生む土壌となる可能性は否定しないが「同質的な集団には、イノベーションは生まれない」と見るのは明らかに誤りだ。

さらに言えば、何を以って「同質的な集団」と見るかという問題がある。

例えば東大の男子学生が何人かで宇宙船を開発する会社を立ち上げたとしよう。世代、性別、出身大学に関して多様性はない。故に「同質的な集団」と言えるだろうか。

北海道の公立高校出身で経済学部に所属し会社のマネジメントに興味がある鉄道オタクのA君と、東京の中高一貫名門私立高校出身で工学部に所属し宇宙工学とファッションにしか関心がないB君を「同質的」と見るべきなのか。

男ばかりだから「同質的な集団」と単純に決め付けるのは危険だ。大沢氏には、そのことに気付いてほしい。


※今回取り上げた記事「やさしい経済学~女性活躍社会に必要なこと(9) 多様な価値観尊重の重要性」 


※記事の評価はD(問題あり)

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