11日の日本経済新聞朝刊総合3面に大石格編集委員が書いた「風見鶏~基本法花盛りの功罪」 という記事には「メディアとしての役割放棄では?」と感じる記述があった。当該部分を見ていこう。
筑後川と夕陽 |
【日経の記事】
90年代前半に盛り上がった政治改革のうねりの中で出てきた「官僚任せから、国会議員が国の針路を示す政治主導へ」という流れを国民にわかりやすく見せるにはどうすればよいのか。編み出した手法が、この基本法づくりだった。
これには功と罪がある。基本法ができると、そのテーマを所管する役所が決まり、○○白書を毎年、発行し始める。政治主導というと、省庁の利権争いを国会議員が調停するイメージがあるが、どこの役所も手を出したがらない課題に光を当て、実定法づくりにつなげる効果がある。
一例として、06年に与野党相乗りでつくった自殺対策基本法を挙げたい。政府として総合的な施策を進めるように求める以上の中身はないが、てんでに動いていた厚生労働省、内閣府、警察庁などに連携を促す役割を果たした。
罪の方は、政治主導を気取りつつ、これといったアイデアを持たない政治家のやってる感の印象付けに利用されがちなことだ。
議員立法づくりを裏方として支えることが多い参院法制局のホームページに、基本法に関するこんな解説が載っている。
「具体的な権利・義務までが導き出されることはなく、裁判規範として機能することもほとんどない」
衆院選が近いので、具体名を挙げるのは控えるが、あってもなくてもよい基本法が少なからず存在するのは事実である。
◎何のための新聞?
「衆院選が近いので、具体名を挙げるのは控えるが、あってもなくてもよい基本法が少なからず存在するのは事実である」と大石編集委員は言う。
「あってもなくてもよい基本法」の「具体名を挙げる」ことを今の時期に規制する法律はないはずなので「具体名を挙げ」ないのは大石編集委員の自主規制なのだろう。
なぜ、こんな自主規制をするのか。「功」の方では「自殺対策基本法」という「具体名を挙げ」ているのに「あってもなくてもよい基本法」の「具体名」は「衆院選が近い」から「挙げるのは控える」という姿勢には一貫性も感じられない。
「自殺対策基本法」の「功」は「てんでに動いていた厚生労働省、内閣府、警察庁などに連携を促す役割を果たした」ことだ。しかし、どの「基本法」がそうした役割を果たしているのか一般の読者には判断する術がない。
「あってもなくてもよい基本法が少なからず存在する」と大石編集委員には判断できるのならば「具体名を挙げる」べきだ。あるいは「あってもなくてもよい基本法」の見分け方を伝授してもいい。そうすれば読者は「衆院選」の判断材料にもできる。しかし、なぜか「衆院選が近いので、具体名を挙げるのは控える」と逃げてしまう。何のための新聞なのか、よく考えてほしい。
記事の続きを見ていく。
【日経の記事】
そうした議員立法ができると、苦労するのが首相に直属する内閣総務官室だ。
新しい法律が届くと、条文ごとに赤線を引き、どこの省庁のどこの課が所管し責任を持つのかを決める箇所付けの作業がここでなされる。政府提出法ならば作成を担当した省庁に丸投げすればよいが、業際的な法律だったりすると割り振り先がなかなか見つからなかったりする。
この先、国会議員のやってる感の競い合いが激しくなるとどうなるのか。「国民が明るく楽しく暮らせる社会づくり基本法」といった法律ができる日が来るかもしれない。
どうでもよい法律が増えれば増えるほど順法意識が薄れ、本当に守られるべき法律までもがないがしろにされかねない。
◎それは「悪い法律」では?
「どうでもよい法律が増えれば増えるほど順法意識が薄れ、本当に守られるべき法律までもがないがしろにされかねない」と大石編集委員は訴えている。本当に「順法意識が薄れ」るのならば、それを促す「法律」は「どうでもよい法律」ではない。悪い「法律」だ。「衆院選が近いので、具体名を挙げるのは控える」という姿勢はさらに罪深くなる。
ただ「どうでもよい法律が増えれば増えるほど順法意識が薄れ」るという因果関係が成立するとは思えない。国民の多くは「基本法」の具体的な内容を認識していないだろう。仮に「あってもなくてもよい基本法」だと認識していたとしても「だから法律を守らなくていい」となるのか。その経路がよく分からない。
※今回取り上げた記事「風見鶏~基本法花盛りの功罪」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210711&ng=DGKKZO73767580Q1A710C2EA3000
※記事の評価はD(問題あり)。大石格編集委員への評価もDを維持する。大石編集委員については以下の投稿も参照してほしい。
日経 大石格編集委員は東アジア情勢が分かってる?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_12.html
ミサイル数発で「おしまい」と日経 大石格編集委員は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_86.html
日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_15.html
日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_16.html
日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_89.html
どこに「オバマの中国観」?日経 大石格編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_22.html
「日米同盟が大事」の根拠を示せず 日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_41.html
大石格編集委員の限界感じる日経「対決型政治に限界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_70.html
「リベラルとは何か」をまともに論じない日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_30.html
具体策なしに「現実主義」を求める日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_4.html
自慢話の前に日経 大石格編集委員が「風見鶏」で書くべきこと
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_40.html
米国出張はほぼ物見遊山? 日経 大石格編集委員「検証・中間選挙」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_18.html
自衛隊の人手不足に関する分析が雑な日経 大石格編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_27.html
「給付金申請しない」宣言の底意が透ける日経 大石格編集委員「風見鶏」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/05/blog-post_74.html
「イタリア改憲の真の狙い」が結局は謎な日経 大石格上級論説委員の「中外時評」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post_7.html
菅政権との対比が苦しい日経 大石格編集委員「風見鶏~中曽根戦略ふたたび?」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post_18.html
「別人格」を疑う余地ある? 日経 大石格上級論説委員「中外時評~政治家は身内にこそ厳しく」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/03/blog-post_17.html
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