「日本にはユニコーン(価値10億ドル以上の未上場企業)が少ない」と嘆く記事をよく目にする。1日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に村山恵一氏(肩書は本社コメンテーター)が書いた「Deep Insight~小粒上場の国でいいのか」という記事もそうだ。しかし「ユニコーン」を増やしたい理由がよく分からない。「小粒上場の国でいいのか」という問いには「別に悪くないのでは?」と答えたい。
夕暮れ時の筑後川 |
「米調査会社によれば世界のユニコーンは約650社。産業構造を変革する原動力だが、日本は5社にとどまる。流れを変えるヒントを(今春ユニコーンの仲間入りを果たした)ペイディから得られないか」と村山氏は言う。
「ユニコーン」の中には「産業構造を変革する原動力」になる企業もあるだろう。だが、それが「未上場企業」である必要があるのか。日本に「5社」しかない「ユニコーン」が今月一気に上場すれば日本の「ユニコーン」はゼロになるだろう。だからと言って「産業構造を変革する原動力」が損なわれるだろうか。「5社」は上場企業として活動を続けるはずだ。「評価額の高い『未上場企業』が多い方がいい」という考え方は理解に苦しむ。
記事の一部を見ていこう。
【日経の記事】
なぜ日本はユニコーンが増えないか。ベンチャーキャピタル(VC)などからよく聞く答えは「東証マザーズ市場に新規株式公開(IPO)するから」。だがユニコーンと並べて語るには小粒だ。
10年以降、今年5月初めまでにマザーズに上場した315社の上場日の時価総額を調べた。平均で199億円。ユニコーン基準の5分の1だ。同じ期間に米ナスダックに上場した1705社の平均935億円とも差がある。
「日本は投資回収(エグジット)の手段がほぼIPOに限られ、未成熟な上場会社が量産されている」。京都が本拠地のVC、フューチャーベンチャーキャピタルの松本直人社長は話す。人工知能やロボットなど流行する要素を絡めた事業を即席でつくり、IPOで早めに売り抜ける。関係者はそんな思考に陥りがちとみる。
◎結局、何が問題?
「日本は投資回収(エグジット)の手段がほぼIPOに限られ、未成熟な上場会社が量産されている」としよう。それの何が問題なのか。「ベンチャーキャピタル」にとって好ましくないのか。一般の投資家が困るのか。あるいは「スタートアップ」にとってマイナスなのか。
「ヒントは米英で広がる『エグジット・トゥー・コミュニティー(E2C)』の潮流にある。投資家がIPOやM&A(合併・買収)を選ばず、株を従業員や顧客などのコミュニティーに売却。長期的にスタートアップを支え、社会課題の解決などに生かす発想だ」とも村山氏は書いている。日本で「E2C」が盛んになれば「ユニコーン」は増えるかもしれない。しかし上場企業として株式が取引されているより「従業員や顧客などのコミュニティー」内で取引されている方が好ましい訳ではない。
「E2C」に「拙速なIPOを防ぐ効果」はあるだろう。だが、それが「スタートアップ」の成長を促すとは限らない。早い段階で「スタートアップ」に投資したいと願う一般の投資家にとっては「機会損失」にもなる。
上場にはメリットもデメリットもある。非上場も同じだ。それぞれの企業が自社に最適だと思う方を選べばいい。結果として「小粒上場の国」になったからと言って見直す必要はない。
個人的には早い段階で「上場」して様々な投資家の目にさらされる方が成長できる気がする。「ペイディ、ユニファのようなスタートアップは日本では例外的だ。日本のベンチャー資金に占める海外投資家の比率は2~3%とされる。日本だけの内輪の論理に縛られやすい構造といえる」と村山氏も記事に書いている。上場すれば外国人投資家の投資対象にもなりやすい。やはり「小粒上場」でいいのではないか。
プロ野球に例えて考えてみよう。海外では、社会人野球で活躍し「プロ入りすれば即戦力」と言われる選手が多いとしよう。一方、日本にはそういう選手はわずかしかおらず、ほとんどが高卒後にプロ入りする。結果としてプロで活躍できない「小粒選手」も目立つ。
だからと言って、高卒後のプロ入りを制限して大学野球や社会人野球の「大物」を増やすべきだろうか。一流のプロ野球選手を多く育てることが目的ならば、どちらがいいとも言い切れない。大量の「小粒選手」を生む代わりに一流選手も多く生み出す効果が今のやり方にあるのならば、そのままでいいはずだ。
「ユニコーン」も同じだ。問題は優れた企業が生まれてくるかどうかだ。「優れた未上場企業」が生まれてくるかどうかではない。「ユニコーン」の数を問題にする時には、このことを忘れないでほしい。
※今回取り上げた記事「Deep Insight~小粒上場の国でいいのか」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210601&ng=DGKKZO72437420R30C21A5TCR000
※記事の評価はD(問題あり)。村山恵一氏への評価もDを維持する。村山氏については以下の投稿も参照してほしい。
「日本の部長、データを学べ」に説得力欠く日経 村山恵一氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_16.html
日経 村山恵一氏の限界見える「Deep Insight~注目 シェア人類の突破力」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/deep-insight_6.html
記事の批評内容に照らせば、村山氏の考え方は浅慮に過ぎる。コメンテーターの肩書きに値しない。評価はE以下でよい。
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