2021年6月25日金曜日

テレビ観戦で思い付いたことを並べただけ? 日経 武智幸徳編集委員「アナザービュー」

 自由に書けるのは基本的には好ましい。しかし自由を与えすぎる弊害もある。25日の日本経済新聞朝刊スポーツ面に武智幸徳編集委員が書いた「アナザービュー~ストライカーの風景」という記事は、その弊害が目立つ。記事の前半を見てみよう。

熊本城

【日経の記事】

サッカー・ポルトガル代表のロナルドが開催中の欧州選手権で代表通算ゴール数を109に伸ばし、国際Aマッチの世界最多記録でイランのダエイに並んだ。36歳の今、往時の爆発力はないにしても、勘所を押さえた動きはさすがで、記録更新は時間の問題だろう。

ダエイには1990年代に日本も痛い目に遭っている。日本がワールドカップ(W杯)初出場を決めた97年11月の第3代表決定戦でもゴールを奪われた。衝撃だったのは96年アジアカップ準々決勝でダエイ一人で4ゴールを挙げ、韓国を6-2と粉砕した試合だ。屈強な韓国DF陣をパワーとスピードで圧倒したことに心底驚いたものである。

そうはいっても、ダエイの記録は主にアジアで量産したもの。レベルの高い欧州や世界の舞台で2004年から毎年得点を取り続けてきたロナルドのそれは「無事これ名馬」という意味も含め、偉業としかいいようがない。


◎ここまでは問題ないが…

ストライカーの風景」という見出しから、ストライカー論を展開するのだろうと感じた。実際に、前半部分では特に問題がない。「ロナルド」と「ダエイ」の比較を踏まえて、どんなストライカー論につなげるのか。最後まで一気に見ていこう。


【日経の記事】

欧州選手権は23日にベスト16が出そろった。ポルトガルの相手は優勝候補ベルギーでロナルドが新記録を狙うには少々ハードルが高め。ベルギーにはルカクという破格のFWがいて、デブルイネやE・アザールがサポートに入るとその破壊力が何倍にも増す。同じストライカーでも、ポーランドのレバンドフスキは、周りの手厚い支援が足りないうらみがどうしても残る。

ベスト16でクロアチアと対戦するスペインは逆に「決め手」が乏しい。「選手は全員うまいけれど、それが何か?」という2000年代半ばまでのスペインに戻ったような。1点でも先制したら彼ら自慢のボール所有が「攻撃は最大の防御」となって機能するのだが、主戦と頼むFW(モラタ)がPKも決められないようでは……。

ドイツ戦が「バトル・オブ・ブリテン」と話題になりそうなイングランドは大黒柱ケーンの憂い顔を見るにつけ、所属のトットナムの孫興民の存在の大きさを感じてしまう。ドイツは相手の穴をメカニカルに突く作業に長じているが、今回はそこから先の上積みをあまり感じない。その点、W杯王者のフランスは馬なりで歩を進め、強弱も好不調もよく分からない。そこに懐の深さを逆に感じてしまう。エムバペというFWの個性と重なる。


◎ダラダラ書いただけでは…

後半は「欧州選手権」の感想をダラダラと書いているだけだ。「ストライカー」の話が多めではあるが、ストライカー論にはなっていない。それに「ロナルド」と「ダエイ」の比較が全く生きていない。

武智編集委員はテレビで「欧州選手権」の試合をたくさん見ているのだろう。その感想をあれこれ並べただけで記事を終えている。これで給料がもらえるのならば、本当においしい仕事だ。好きなサッカーの試合を見て、思い付いたことをそのまま文字にして垂れ流していけばいい。

コラムを書く時には「何を訴えたいのか」「自分だから伝えられることは何なのか」を意識すべきだ。武智編集委員はただのサッカー好きのおじさんなのか。それとも分析力や構成力に長けたプロの書き手でもあるのか。この記事では後者に入れることはできない。

さらに言えば、説明不足も酷い。「ドイツ戦が『バトル・オブ・ブリテン』と話題になりそうなイングランドは大黒柱ケーンの憂い顔を見るにつけ、所属のトットナムの孫興民の存在の大きさを感じてしまう」という説明で日経の読者に伝わると武智編集委員は思っているのか。

読者をどう想定するかは難しい問題ではある。しかし日経のスポーツ面のサッカー記事で「欧州のサッカー事情に精通しているマニア」を想定するのは無理がある。「日本代表戦ならテレビで見ることもある」といった程度の読者にも分かるように書くべきだろう。

そうした読者は「ドイツ戦が『バトル・オブ・ブリテン』と話題になりそうなイングランド」と言われて理解できるのか。実は自分もよく分からない。「空中戦になる」と言いたいのかとは思うが、自信はない。さらに「ケーン」と「孫興民」はポジションが不明。この2人が「トットナム」でどんな関係なのかも、もちろん教えてくれない。

「そんなこと読者は知ってますよね」という前提なのか。それとも読者のことなど眼中にないのか。いずれにしても、優れた書き手ならばあり得ない。

ついでに言うと「主戦と頼むFW(モラタ)がPKも決められないようでは……」というくだりでは、なぜ「モラタ」をカッコ内に入れたのか。「主戦と頼むFWのモラタ」でいい。この辺りからも、あまり考えずに記事を書いている印象を受ける。


※今回取り上げた記事「アナザービュー~ストライカーの風景」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210625&ng=DGKKZO73242270U1A620C2UU8000


※記事の評価はD(問題あり)。武智幸徳編集委員への評価もDを維持する。武智編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

日経 武智幸徳編集委員はスポーツが分かってない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_21.html

日経 武智幸徳編集委員はスポーツが分かってない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_43.html

日経 武智幸徳編集委員は日米のプレーオフを理解してない?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_76.html

「骨太の育成策」を求める日経 武智幸徳編集委員の策は?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_87.html

「絶望には早過ぎる」は誰を想定? 日経 武智幸徳編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_4.html

日経 武智幸徳編集委員はサッカーと他競技の違いに驚くが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_2.html

日経 武智幸徳編集委員は「フィジカルトレーニング」を誤解?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_14.html

W杯最終予選の解説記事で日経 武智幸徳編集委員に注文
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post.html

「シュート選ぶな 反則もらえ」と日経 武智幸徳編集委員は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_30.html

「ドイツでは可能な理由」を分析しない日経 武智幸徳編集委員の不思議https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_29.html

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