2021年6月22日火曜日

山口慎太郎 東大教授が日経で披露した「効果なさそうな少子化対策」

 「東大教授」と聞くと賢い人だと思い込みがちだ。しかし山口慎太郎氏は違う気がする。21日の日本経済新聞朝刊女性面に載った「ダイバーシティ進化論~止まらない日本の少子化 妻が前向きになる環境築く」という記事からはそう判断できる。中身を見ながら、その根拠を示していきたい。

久留米教会

【日経の記事】 

新型コロナウイルス感染症が広まる中、世界中で出生率が大きく低下した。日本も例外ではなく、今年の1~3月の出生数は19万人余りと、コロナ禍前の妊娠を反映した前年同期に比べると10%近く少ない。


◎「出生率」は見せない?

世界中で出生率が大きく低下した。日本も例外ではなく」と言うならば「日本」の「出生率」を見せないと…。なのになぜか「出生数」の話になっている。冒頭から「この書き手は大丈夫なのか」と不安になる。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

かつて産み控えが起こった1966年の丙午(ひのえうま)では、その後出生数は反騰した。今回もコロナ禍で妊娠時期を一時的に遅らせているだけで、また回復するという見方には一理ある。しかし、日本の出生率低下は第2次ベビーブームの終焉(しゅうえん)以来50年近く続く傾向だ。

なぜ日本の少子化は止まらないのか。一つの理由は、子育て支援政策が不十分だからだ。日本は国内総生産(GDP)の1.8%を子育て支援にあてているが、これは経済協力開発機構(OECD)平均の2.3%を大きく下回り、首位フランスの半分にすぎない。


◎まともな根拠と言える?

なぜ日本の少子化は止まらないのか。一つの理由は、子育て支援政策が不十分だからだ」と山口氏は断言する。しかし、まともな根拠は示していない。「子育て支援政策」が他国と比べて少ないことは「少子化」が止まらない理由にはならない。

仮に「子育て支援」の予算額に「出生率」が連動するとしよう。日本が「OECD」の平均を下回っていたとしても、増額を続けているのならば「出生率」は上向いているはずだ。

日本の出生率低下は第2次ベビーブームの終焉(しゅうえん)以来50年近く続く傾向だ」と山口氏は言う。ならば「子育て支援」の予算(GDP比でもいい)は減額に次ぐ減額となっているのだろう。その数字をなぜ見せないのか。

そうした相関関係があるとしても因果関係があるとは限らないが、「子育て支援」の予算減額と「出生率」低下がきれいに連動しているデータは欲しい。

山口氏の主張が説得力のあるものならば、少なくとも「第2次ベビーブーム」の頃には「子育て支援」の予算が非常に多かったはずだ。それが、どの程度だったのかはぜひ教えてほしい。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

もう一つの理由は、子育て負担が女性に集中しすぎているからだ。OECD平均では女性は男性の1.9倍の家事・育児などの無償労働をしているが、日本ではこの格差が5.5倍にも上り、先進国最大だ。

家事・育児負担が女性に偏っていることは、出生率に悪影響を及ぼす。米ノースウエスタン大のドゥプケ教授らは欧州19カ国のデータを用い、出産に対する夫婦の意識を分析した

その結果、夫は子どもを持ちたいと思っているものの妻が同意しないために、新たに子どもをもうけない夫婦が多いことがわかった。さらに詳しく調べると、こうした夫婦では妻に育児負担が集中していた。新たに子どもを持つとさらに自分に負担がかかることを見越し、妻は子どもを持ちたくないと考えているのだ。

これまでの少子化対策をめぐる議論は、夫婦全体としての子育て負担をどう減らすかという点に集中し、夫婦間でどう負担が分担されているのかという視点が欠けていた。夫が前向きでも妻が後ろ向き、という夫婦が多いのならば、妻が前向きになれる環境を築くことが鍵になる。効果的な少子化対策のためには、ここに狙いを定めるべきだ。


◎なぜ「欧州」?

家事・育児負担が女性に偏っていることは、出生率に悪影響を及ぼす」とは言い切れない。「第2次ベビーブーム」の頃には今よりずっと「家事・育児負担」が男性側に重くなっていただろうか。「家事・育児負担が女性に偏って」いそうなイスラム圏の国の出生率が総じて高いのも、むしろ「女性に偏っている」方が「出生率」を高く保つ上で有利だと示唆している。

少子化問題を語る人の多くが「欧州」などの先進国に限定して話を進めたがる。人口置換水準を基準にすれば先進国に見習うべき手本はない。一方、先進国以外に目を移せば、出生率が2を大きく上回る国がいくつもある。どうしても「効果的な少子化対策」を打ち出したいのならば、それらの国にまず学ぶべきだ。

百歩譲って「欧州19カ国のデータ」を用いて「対策」を打ち出すとしよう。しかし、この「データ」だけでは何とも言えない。「夫婦間でどう負担が分担されて」いれば、どの程度の「少子化対策」になるのかが見えないからだ。夫の側が大幅に「負担」を増やしても「出生率」がわずかしか上向かなければ、あまり意味はない。

そもそも「夫婦間でどう負担」を分担するかは極めて個人的なことなので有効な「対策」も打ちにくい。

しかし「効果的な少子化対策のためには、ここに狙いを定めるべきだ」と山口氏は言い切ってしまう。その根拠を見ていこう。


【日経の記事】

具体的には待機児童の解消や学童保育の充実が挙げられる。夫が育児・家事に参加する機会を増やすための施策も必要だ。男性の育休、育児のための時短勤務、テレワークなどのワークライフバランス改善策も推進せねばならない。男性を家庭に返すことは、最善の少子化対策でもあるのだ。


◎「最善の少子化対策」ではないような…

上記の提言は基本的に意味がない。

夫婦間でどう負担が分担されているのか」が重要だったはずだ。「待機児童の解消や学童保育の充実」によって「夫婦全体としての子育て負担」は減らせるかもしれないが、「夫婦間」の負担割合に直接的な影響は及ぼせない。「夫婦全体としての子育て負担」が減った結果「もう夫が手伝わなくても大丈夫」という状況になり妻の負担割合が増える可能性もある。

夫婦間」の負担割合を変化させても、出生率の向上にどの程度の効果があるのか不明。「待機児童の解消や学童保育の充実」に至っては「夫婦間」の負担割合で妻の比率を減らす効果があるのかも不明。なのに「ここに狙いを定めるべき」なのか。

男性を家庭に返すこと」に反対はしない。しかし「最善の少子化対策でもある」とは思えない。「男性を家庭に返すこと」に成功している国は「少子化対策」を成功させ人口置換水準を安定的に上回る出生率となっているのか。

山口氏にも分かるはずだ。


※今回取り上げた記事「ダイバーシティ進化論~止まらない日本の少子化 妻が前向きになる環境築く

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210621&ng=DGKKZO73014880Y1A610C2TY5000


※記事の評価はD(問題あり)。山口慎太郎氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「男女格差」は解消すべき? 山口慎太郎 東大教授が書いた日経の記事に注文https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/05/blog-post_17.html

ノルウェーを見習えば少子化克服? 山口慎太郎 東大教授の無理筋https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/blog-post_24.html

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