2021年6月14日月曜日

東洋経済オンラインでのインフレに関する説明に矛盾がある小幡績 慶大准教授

慶應義塾大学大学院准教授の小幡績氏が相変わらず雑な記事を東洋経済オンラインに書いている。13日付の「日本でも今後『ひどいインフレ』がやって来るのか~そもそもインフレはどうやったら起きるのか?」という記事の中身を見ながらツッコミを入れていきたい。

夕暮れ時の筑後川

【東洋経済オンラインの記事】

今後はアメリカ以外も物価が急速に上昇し、インフレという世界が戻ってくるのだろうか? 

私には、よくわからない。しかし、誰にもわからない、ということだけは私にはわかっている。

なぜか?

それは、インフレがどうやって起きるのか、21世紀の時点では誰にもわかっていないからだ。

一般的には、物価の上昇要因は3つあると言われている。

まずは、需要が供給を上回って増加すること。これがいちばん普通のインフレで、経済が過熱してインフレになる、という場合にはこの現象を指している。


◎だったら分かっているのでは?

上記の説明は矛盾している。「インフレがどうやって起きるのか、21世紀の時点では誰にもわかっていない」と書いた直後に「物価の上昇要因は3つあると言われている。まずは、需要が供給を上回って増加すること。これがいちばん普通のインフレ」と説明している。

だったら「需要が供給を上回って増加する」から「いちばん普通のインフレ」が「起きる」と分かっているのではないか。「誰にもわからない」はずのに「いちばん普通のインフレ」が「どうやって起きるのか」を説明してしまっている。そのことを小幡氏は「わかっていない」のか。

続きを見ていこう。


【東洋経済オンラインの記事】

このインフレを抑えるためには、超過需要、多すぎる需要を減らすことが必要である。それが経済政策であり、財政支出縮小(あるいは増税)と、金融引き締めを行うこととなる。これが金融政策と債券市場、株式市場の焦点である。中央銀行は利上げを検討し、投資家は、株式も債券も下落するリスクに怯えることになる。投資家にとって恐ろしいのは、株式も債券も価格が両方下落することである


◎そうとは限らないような…

このインフレを抑えるためには、超過需要、多すぎる需要を減らすことが必要である」と小幡氏は言うが、そうとは限らない。供給を増やして「インフレを抑える」手もある。

ついでに言うと「投資家にとって恐ろしいのは、株式も債券も価格が両方下落することである」という説明も問題がある。ショートポジションの「投資家」にとっては「株式も債券も価格が両方下落する」局面は悪くない。

記事には「金融引き締めによる利子率の上昇では、すべての資産の利回りが上昇する必要があり、そのためには資産価格が下落しないと辻褄が合わないから、すべての投資資産の価格が下落することになる。だから、利上げをすべての投資家が恐れることになる」とも書いている。

すべての投資家」がロングポジションとの前提で小幡氏は考えているようだが、現実はそうではない。

少し飛ばして記事の続きを見ていく。


【東洋経済オンラインの記事】

さて、それでは第3のインフレとは何か。巷のエコノミストが大好きな、マネーの増加によるインフレである。貨幣数量説、マネタリズムという経済学の用語を振り回して、中央銀行がマネーを供給すれば、モノとマネーの比率が変わり、モノのマネーに対する相対価格は上昇する、そしてインフレになる、という主張である。

これは、なぜかインフレを起こしたい人たちが、とりわけ、日本経済の文脈で特に好んで使う主張である。だが世界的には、むしろ逆に、それがインフレを起こし、経済を壊滅させるという議論が主流である。ハイパーインフレーションである。

これは新興国、途上国では、毎年世界のどこかでは見られる現象であり、インフレを見かけなくなったのは、成熟国だけで、世界では、まだハイパーインフレ懸念のほうが普通である。為替レートが暴落し、一国の経済が成り立たなくなる。

しかし、ハイパーインフレはインフレとは異なる。別と考えたほうが良い。なぜなら、インフレとはモノの値段が上がることだが、ハイパーインフレはマネーあるいは貨幣の値段が暴落することだからである。貨幣とは本来は価値ゼロのバブルそのものであるから、いったん「価値がない」と思われればすぐに紙くず、あるいは仮想通貨(暗号資産)なら「ビットくず」になってしまう。


◎同じことでは?

ハイパーインフレはインフレとは異なる。別と考えたほうが良い。なぜなら、インフレとはモノの値段が上がることだが、ハイパーインフレはマネーあるいは貨幣の値段が暴落することだからである」という説明に無理がある。

ハイパーインフレ」でも「モノの値段が上がる」のは同じだ。裏返して言えば、普通の「インフレ」でも「貨幣の値段」が下がっている。両者を分けるのは、その度合いだろう。

そもそも「ハイパーインフレ」と普通の「インフレ」を分ける基準を示していない。物価上昇率が20%なのか50%なのか。そこは欲しい。「経済を壊滅させる」のが「ハイパーインフレ」だと見ているのかもしれない。だとしたら、定義が漠然としていてグレーゾーンが大きすぎる。

続きを見ていこう。


【東洋経済オンラインの記事】

第3のインフレ、正確にはハイパーインフレは、実は、経済学にとっては、むしろ普通のインフレよりはありがたいものである。なぜなら、もちろん経済社会に与えるダメージは深刻で、インフレのように「ほぼ無害」であるのとは大きく異なるわけだが、しかし、なぜ起こるのかについては、原因が解明されているからである。


◎再び矛盾が…

第3のインフレ」が「なぜ起こるのかについては、原因が解明されている」らしい。「インフレがどうやって起きるのか、21世紀の時点では誰にもわかっていない」と書いたことは忘れてしまったのか。

大目に見て「インフレがどうやって起きるのか、21世紀の時点では誰にもわかっていない」というのは「第3のインフレ」を除いた話だとしよう。それでも辻褄は合わない。

続きを見ていく。


【東洋経済オンラインの記事】

そう。われわれは、インフレはどうしたら起きるか、無知の世界にいる。それは経済学者もエコノミストも投資家たちも、人類すべてが、インフレがどうやったら起きるのか、知らずにいるのだ

しかし、おそらく世界で1人だけといってもいいくらい、これについて詳しい経済学者がいる。それは、日本の渡辺努・東京大学経済学部教授だ。彼は、一連の研究でこれを解明しようと努めてきた。物価インデックスの会社まで作ってしまった。恐るべき偉大な先輩だが、彼(とその共同研究者)以外で、物価の秘密を素人として理解しているのは、後は、私だけかもしれない

インフレはどうしたら起こるのか。物価はどうしたら上がるのか。その方法はただひとつ。値上げすることである。

製品・サービスの供給者が価格を上げること。これが物価を上げる方法であり、現実に物価が上がる唯一の理由である

オークションと一緒である。株価と一緒である。高い値段をつけて売りに出し、それが実際に売れること。これ以外ない。この話は、また次回以降に行いたいが、日本でインフレがおきにくい理由は、日本企業が値上げを嫌うこと、そして、その背景には、値上げを極端に毛嫌いする日本の消費者がいることである。つまり、日本人がケチだからなのである。


◎自分たちは特別?

経済学者もエコノミストも投資家たちも、人類すべてが、インフレがどうやったら起きるのか、知らずにいる」と言っていたのに例外がいるらしい。「渡辺努・東京大学経済学部教授」と「その共同研究者」に加えて小幡氏が該当するようだ。「インフレがどうやって起きるのか、21世紀の時点では誰にもわかっていない」という説明を自ら否定してしまった。

それに「製品・サービスの供給者が価格を上げること。これが物価を上げる方法であり、現実に物価が上がる唯一の理由である。オークションと一緒である。株価と一緒である」という説明は誤りだ。

株で考えてみよう。A社株を大量保有しているB氏が毎日少しずつ成り行きで売却していくとしよう(市場での売り手はB氏のみとする)。「供給者」であるB氏は「値上げ」をしていない。しかしA社株の人気が高まり「株価」がどんどん上がっていく可能性はある。この場合、買い手が「価格」を引き上げる役割を果たしている。

オークション」もそうだが、「供給者が価格を上げ」なくても買い手が勝手に価格を吊り上げる可能性は十分にある。小幡氏の説明は、まずここがおかしい。

さらに言えば「物価はどうしたら上がるのか。その方法はただひとつ。値上げすることである」という説明は、そもそもあまり意味がない。「ホームランはどうしたら打てるのか。その方法はただひとつ。フェンスより先のフェアゾーンにノーバウンドでボールを打ち込むことである」と言っているのに近い。間違ってはいないが「そんなことは分かってるよ」と返したくなる。

それを「物価の秘密」であるかのように語られても…。

付け加えると「日本でも今後『ひどいインフレ』がやって来るのか」との問いに対する答えが、記事には結局出てこない。「ひどいインフレ」とは「ハイパーインフレ」を指すのだろう。「その通貨を発行している中央銀行、あるいはそれを支えるその国家、その経済、それらいずれかの(あるいはすべての)信用が失われる(疑問を持たれる)こと」で「ハイパーインフレ」が起きると小幡氏は言う。しかし、これから日本がそういう状況になるかどうかは論じていない。

やはり小幡氏は問題が多い。

そう言えば、週刊ダイヤモンド3月27日号の座談会で「僕は今年、バブルが崩壊すると言っている。そんなすぐに結果が出て、外れが明確で、皆に非難される可能性のあることを断言する人間は僕ぐらいでしょうが、今年21年中にはじける」と小幡氏は語っていた。あと半年。どうなるか注目したい。


※今回取り上げた記事「日本でも今後『ひどいインフレ』がやって来るのか~そもそもインフレはどうやったら起きるのか?

https://toyokeizai.net/articles/-/433980


※記事の評価はD(問題あり)。小幡績氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

小幡績 慶大准教授の市場理解度に不安を感じる東洋経済オンラインの記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_18.html

「確実に財政破綻は起きる」との主張に無理がある小幡績 慶大准教授の「アフターバブル」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post.html

やはり市場理解度に問題あり 小幡績 慶大准教授「アフターバブル」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post_4.html

週刊ダイヤモンド「激突座談会」での小幡績 慶大准教授のおかしな発言https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/03/blog-post_25.html

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