「日本は○○後進国になってしまった」と嘆く記事を最近よく見かける。この手の記事には問題が多い。「後進国」の基準を明確にしないまま論じているものが目立つからだ。そもそも先進国、後進国という色分けが適切なのかと思える分野もある。9日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に載った「大機小機~いつの間に後進国になったか」という記事を基にこの問題を考えてみたい。
夕暮れ時の筑後川 |
【日経の記事】
コロナ禍で思うのは、いつの間に日本は「後進国」に転落したのかという点である。肝心のワクチンは米独英や中ロのような開発国にはなれず、インドのような生産拠点でもない。ワクチン接種率は世界で100番目だ。
「ワクチン後進国」に甘んじるのは、企業も政府も目先の利益を追う安易なイノベーション(革新)に傾斜し、人間の尊厳を守る本源的なインベンション(発明)をおろそかにしたからではないか。
◎開発していても「後進国」?
新型コロナウイルスのワクチンに関して「開発国にはなれず」と書いているが同意できない。「開発を進めている国=開発国」とすれば日本は「開発国」だ。
「承認されて初めて開発国になれる」と筆者の無垢氏は考えているのだろう。だとしても、それを根拠に「ワクチン後進国」と言えるのか。先進国は「米独英や中ロのような開発国」だけになってしまう。未承認であっても「開発」を進めているのであれば「先進国」に入れる方がしっくり来る。
「ワクチン接種率は世界で100番目」だから「ワクチン後進国」とも思えない。「ワクチン接種率」は高い方が良いとは限らない。仮に良いとしても「接種率」が高い国を「ワクチン先進国」と見るべきなのか。例えば、国民に接種を強制して「接種率」100%を実現する国が出てきた時に「ワクチン先進国」と見なす気にはなれない。
同日の日経にもアストラゼネカ製のワクチンに関して「接種に年齢制限相次ぐ」という記事が出ている。こうした「制限」の結果として「接種率」が低くなった場合も「ワクチン後進国」なのか。
途中を飛ばして「財政後進国」のくだりを見ておく。
【日経の記事】
そして「財政後進国」である。コロナ禍で財政出動は避けられないが、日本の公的債務残高の国内総生産(GDP)比は2.7倍に膨らんだ。日銀が大量の国債購入で財政ファイナンスにあたるから規律は緩む。財政危機の重いツケは将来世代に回る。
日本が「後進国」に転落した背景には、政治・行政の劣化がある。責任も取らず、構想力も欠く。問われるのは、日本のガバナンス(統治)である。コロナ危機下で科学的精神と人道主義に基づいて民主主義を立て直し、資本主義を鍛え直さないかぎり、先進国には戻れない。
◎財政黒字は「先進的」?
発展段階があるものに関しては「後進国」「先進国」という色分けも分かる。しかし「財政」はそういうものではない。初期段階は財政赤字で、国が発展するに従って黒字化するものでもない。赤字が悪で黒字が善とも言えない。
「日本の公的債務残高の国内総生産(GDP)比は2.7倍に膨らんだ」かもしれないが、だから「財政後進国」なのか。「科学的精神と人道主義に基づいて民主主義を立て直し、資本主義を鍛え直さないかぎり、先進国には戻れない」と無垢氏は言うが、「財政後進国」から抜け出すのは技術的にはそれほど難しくない。大増税と大幅な歳出削減を進めればいい。
だが、それが国民の幸福感を高める可能性は極めて低いだろう。「財政後進国」などと言うと、そこから抜け出さなければならないという不適切な印象を与えてしまう。
「財政危機の重いツケは将来世代に回る」というのも基本的には誤解だ。「財政危機」の定義が不明だが、現状を「財政危機」と見ていると仮定しよう。「公的債務残高」の多さは「将来世代」が大人になっても変わらないかもしれない。だが「将来世代」は「債務」だけを引く継ぐ訳ではない。国債などの資産(債権)も受け継ぐことになる。
現役世代が国債の債務不履行を受け入れて「公的債務残高」を大幅に圧縮するとしよう。この場合は「将来世代」に受け渡す国債が目減りしてしまう。「債務」の裏側には債権があることを忘れてはならない。
さらに言えば、「財政危機」を「公的債務」の返済に窮する事態と定義すると、日本でそれが起きる可能性は非常に低い。日本には強い通貨主権があるからだ。債務返済に必要な日本円は政府・日銀が自ら創出できる。無垢氏にはMMTの考え方をぜひ学んでほしい。
※今回取り上げた記事「大機小機~いつの間に後進国になったか」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210409&ng=DGKKZO70831300Y1A400C2EN2000
※記事の評価はD(問題あり)
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