大したことがないものを頑張って立派に見せようとしているーー。日経ビジネス4月19日号に載った「後発でも自動運転レベル2~『名より実』取るトヨタの深謀」という記事には、そんな印象が残った。ホンダが「世界初の『レベル3』を実現」する中でトヨタは「後発でも自動運転レベル2」。それでも負けている訳ではなく「名より実」を取ったのだと筆者ら(吉岡陽記者、橋本真実記者)は見ている。そこに説得力はあるだろうか。
熊本城 |
当該部分を見ていこう。
【日経ビジネスの記事】
ホンダは3月に発売した高級セダン「レジェンド」に搭載した運転支援システムで世界初の「レベル3」を実現。高速道路での渋滞時に自動運転に切り替わると、進行方向から視線を外してカーナビの画面などを注視したり、周囲の景色を眺めたりできる。日産自動車やSUBARUも手放し運転機能の搭載で先行する中、トヨタは自動運転のレベル争いから距離を置いた。
こだわったのは「普段の運転スタイルとなるべく変わらないようにする」(前田CTO)ことだ。例えば、トラックなどの幅の広い大型車との並走時は、相手車両との間隔を通常よりも数十cm広く取って進むようにした。人が運転中に意識せずにする行動を再現して、システムによる運転への不安を軽減する狙いだ。
自動運転の完成度をさらに高める仕掛けも盛り込んだ。トヨタの量産車として初めて無線通信経由でソフトウエアを更新できるようにした。交通状況は目まぐるしく変わり、運転スタイルも百人百様だ。現状の制御方法が最適とは限らない。運転支援システムのカメラで撮影した映像や走行データを収集して分析し、安全性や乗り心地が高まるようにソフトを更新していく。
◎なぜ「レベル2」止まり?
まず、なぜ「レベル2」止まりなのかが気になる。「レベル3」を実現できる力があるのに「普段の運転スタイルとなるべく変わらないようにする」には「レベル2」に留めるのが最適との判断なのか。それとも「レベル3」はハードルが高いので「レベル争いから距離を置い」て「レベル2」でも戦える「システム」にしようとしたのか。
前者ならば「『名より実』取るトヨタの深謀」という見出しでいいだろうが「レベル3」を実現できる力があると取れる記述は記事中にはない。となると「自動運転のレベル争い」で後塵を拝したトヨタの弱者戦略だと解釈すべきだろう。
どちらでもいいのだが、どちらなのか分かるように書いてほしい。今回の書き方だと「弱者の戦略を強者の『深謀』のように持ち上げているのではないか」との疑念が晴れない。
「トラックなどの幅の広い大型車との並走時は、相手車両との間隔を通常よりも数十cm広く取って進むようにした」「トヨタの量産車として初めて無線通信経由でソフトウエアを更新できるようにした」とも書いているが、これらは「レベル3」の「システム」だとできなくなるのか。普通に考えるとできそうな気がする。もし「レベル3」と両立不可能なものならば、その説明は欲しい。
他社との比較がないのも気になる。「無線通信経由でソフトウエアを更新」といった話は他社ではできていないのか。そこが分からないと「『名より実』取るトヨタの深謀」と言えるかどうか判断できない。
色々と無理してトヨタを庇っているからか記事の結論部分はかなり苦しい。そこも見ておこう。
【日経ビジネスの記事】
「人中心」。会見中、トヨタはこうした言葉を繰り返した。製造現場では、人が機械に隷属するのではなく、人が主体となる「自働化」を志向してきた。その伝統を運転支援システムの開発でも継承し、個人が所有する乗用車で人と機械がどのように協調すべきかを模索しながら開発してきたという。
「できる」「できない」で比較されがちだった運転支援技術を、感性の領域での勝負に持ち込もうとするトヨタ。「自“働”運転」では負けられないという意地がのぞく。
◎「自“働”運転」で勝負なら…
「自働化」についてトヨタのホームページでは「トヨタ生産方式は、『異常が発生したら機械がただちに停止して、不良品を造らない』という考え方(トヨタではニンベンの付いた『自働化』といいます)と、各工程が必要なものだけを、流れるように停滞なく生産する考え方(「ジャスト・イン・タイム」)の2つの考え方を柱として確立されました」と説明している。
だとすると「車線変更するかどうかといった意思決定も運転者に任せる」ことになる「レベル2」よりも、より高いレベルで「自動運転」ができる「レベル3」の方が「自“働”運転」としては優れている。
この辺りはトヨタも分かっているのだろう。なので「トヨタは遅れている訳ではない」と一生懸命に記者会見でアピールしたと思われる。それは大切なことだ。「私たちはダメなんです」と認めるような自動車メーカーでは困る。
問題は筆者らだ。「レベル3が実現できないから苦し紛れに色々言ってるんじゃないの?」「じゃあホンダのレベル3より『人中心』と言えるの?」といった疑問は持ってほしかった。
今回の記事を読む限りでは「トヨタの言い分を素直に受け入れる良い記者なんだろうな」としか思えない。トヨタにとって「良い記者」という意味だ。読者にとって「良い記者」ではない。
※今回取り上げた記事「後発でも自動運転レベル2~『名より実』取るトヨタの深謀」https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/01014/
※記事の評価はD(問題あり)。吉岡陽記者への評価はDを据え置く。橋本真実記者への評価は暫定でDとする。
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