2021年4月11日日曜日

エビデンスが足りない日経社説「政治でも経済でも女性の活躍をもっと」

日本経済新聞の論説委員ならば「エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング(Evidence-Based Policy Making)」という言葉を聞いたことがあるだろう。社説で政策提言をする際には、有効性に関する「エビデンス」がどの程度あるのか考えてほしい。その意味では11日の朝刊に載った「政治でも経済でも女性の活躍をもっと」という社説には不満が残った。

夕暮れ時の筑後川

内容を順に見ていこう。

【日経の社説】

日本の世界との距離を、改めて示した数字だろう。男女平等の度合いを示す世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数」で、日本は世界156カ国中120位だった。121位だった前回とほぼ変わらず、主要7カ国(G7)で最下位だ。

問題は、こうした状況が長年、続いていることだ。政府は2003年、指導的地位に占める女性の割合を20年までに30%程度にする目標を掲げた。しかし達成できず「20年代の可能な限り早期に」と先送りしている。実効性あるやり方を考えるときだ。


◎「男女平等の度合いを示す」?

以前から訴えているが「ジェンダー・ギャップ指数」は「男女平等の度合いを示す」ものではない。「ジェンダー・ギャップ」(男女格差)を表しているだけだ。

日本の世界との距離を、改めて示した数字」とも言えない。上位の国だけが「世界」ではない。順位で言えばトップとは119位差だが、これが「世界との距離」ではない。

続きを見ていこう。

【日経の社説】

とりわけ遅れが目立つのは政治だ。列国議会同盟のまとめでは国会議員(衆院)の女性比率は9.9%で、世界193カ国中166位だった。改善の余地は大きい

18年には候補者の男女比を「できる限り均等」にするよう政党に促す法律ができた。ただ、あくまで各党の努力目標だ。今年の衆院選挙に向けて、候補者などの一定割合を女性に割り振る「クオータ制度」について、前向きに議論を始める時期ではないか


◎議員の女性比率は高い方が良い?

改善の余地は大きい」と言うが、そもそも「国会議員の女性比率」は高い方が好ましいのか。例えば「国会議員の女性比率」を高めると国民の幸福度が高まるといったエビデンスはあるのか。

自分は男女平等主義者だが、国の諸問題を一気に解決できるといった強いプラス効果が期待できるのならば「国会議員の女性比率」を100%とする「クオータ制度」の導入にも反対しない。しかし「海外に比べて低いから」とか「政府目標があるから」といった理由では納得できない。

特に「クオータ制度」は男女平等の原則を崩すものだ。絶対に崩すなとは言わないが、男性差別をしてまで「クオータ制度」を導入するのならば、その効果に関して強力かつ十分なエビデンスが欲しい。なのに社説には何の説明もない。

国会議員の女性比率」に関しては、女性が新党を立ち上げて大量の女性候補者を擁立し、女性の支持を得れば問題は解決できる。女性は有権者ベースで多数派なのだから、難しい話ではない。「国会議員の女性比率」の低さが問題ならば、まずは「女性よ立ち上がれ。女性議員増加に向けて行動せよ」と呼びかけるべきだ。

続きを見ていこう。

【日経の社説】

経済分野では、女性の力を生かす要請が資本市場から強まっている現実がある。金融庁と東京証券取引所が6月にも改定する「企業統治指針」(コーポレートガバナンス・コード)では、上場企業が女性の管理職の登用などに関して目標を立てて実施し、状況を開示するよう強く促す。

経営戦略や商品開発に多様な価値観が反映されれば、幅広い顧客の支持を得やすくなる。米マッキンゼーの調べでは、女性の幹部登用に積極的な会社は消極的な会社に比べ利益率が高い傾向にある


◎「幅広い顧客の支持を得やすくなる」?

経営戦略や商品開発に多様な価値観が反映されれば、幅広い顧客の支持を得やすくなる」ことの根拠として「女性の幹部登用に積極的な会社は消極的な会社に比べ利益率が高い傾向にある」と記したのだろう。

まず「女性の幹部登用に積極的な会社は消極的な会社に比べ利益率が高い傾向にある」としても、相関関係しか確認できない。因果関係があるとしても「利益率」が高くなると「女性の幹部登用に積極的」になるという方向なのかもしれない。

女性の幹部登用に積極的」になると「利益率」を高める効果があるとしても、それが「幅広い顧客の支持を得やすくなる」ことと関連するのかどうかは分からない。

利益率」を高めることが必ずしもプラスにならない点にも注意が必要だ。「女性の幹部登用に積極的な会社」は設備投資など出費に消極的になるので「利益率」が高まりやすいとすれば、成長の芽を自ら摘んでいるとも言える。

そもそも「商品開発に多様な価値観が反映され」るためには、必ずしも「女性の幹部」を必要としない。平社員でもいいし、女性顧客への調査などを「開発」に生かす手もある。

それでも「女性の幹部登用に積極的」になることに意味があると言うのならば、その根拠を示してほしい。基本的に企業は自社の利益を最大化するように「幹部登用」を進めるはずだ。そこに縛りを加えるのならば、やはり強力で十分なエビデンスが欲しい。しかし社説には、そうした記述はない。

政治でも経済でも女性の活躍をもっと」進めるべきかどうかは「エビデンス」ベースで考えたい。


※今回取り上げた社説「政治でも経済でも女性の活躍をもっと」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210411&ng=DGKKZO70895250R10C21A4EA1000


※社説の評価はD(問題あり)

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