24日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に田中暁人論説委員が書いた「中外時評~アジア発ユニコーンの真価」という記事は完成度が低かった。論説委員ならば若手記者の手本となるような記事に仕上げてほしい。具体的に問題点を指摘してみる。
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【日経の記事】
とはいえ、こうしたスタートアップを本家になぞらえるのは時期尚早だ。クーパンの20年12月期のフリーキャッシュフロー(純現金収支)は1億8千万ドル以上の赤字。設立から10年以上にもかかわらず、ソフトバンクグループ(SBG)傘下のビジョン・ファンドなどから調達した資金を食い潰している。同期間のフリーキャッシュフローが300億ドル以上の黒字だったアマゾンとの差は歴然としている。
アジア発のユニコーンにとって今後の最大の課題は、世界のベンチャーキャピタル(VC)がばらまいた投資マネーに依存する体質からの早期脱却だ。クーパンの成長に触発されるように、アマゾンは韓国通信大手のSKテレコム傘下のネット通販会社と提携する形で同国への参入をうかがう。利益を伴う成長に転換できなければ、期待先行で買われた株価がはがれ落ち、経営が行き詰まる懸念もある。
◎なぜフリーキャッシュフローで見る?
「韓国ネット通販大手」の「クーパン」について「20年12月期のフリーキャッシュフロー(純現金収支)は1億8千万ドル以上の赤字」と書いた上で「ビジョン・ファンドなどから調達した資金を食い潰している」と解説している。
「フリーキャッシュフロー」の赤字は、それほど問題がない。きちんと利益を計上していても、多額の設備投資などをしていれば赤字になり得る。「利益を伴う成長に転換できなければ」と田中論説委員は書いているが「フリーキャッシュフロー」が赤字の企業でも「利益を伴う成長」を実現している場合はある。「クーパン」が「利益を伴う成長」になっていないと伝えたいのならば営業損益などを用いた方が良いだろう。
「こうしたスタートアップを本家になぞらえるのは時期尚早だ」という説明も引っかかる。「同期間のフリーキャッシュフローが300億ドル以上の黒字だったアマゾンとの差は歴然としている」と田中論説委員は言うが「同期間」(解釈に迷う面はあるが「20年12月期」だろう)で比べて意味があるのか。
「アマゾン」も設立当初は赤字続きだった。設立からの年数で今の「クーパン」と同じ時期の業績がどうだったのかが知りたい。「本家になぞらえる」のが適当かどうかは、そこで判断すべきだ。
記事の終盤も見ておこう。
【日経の記事】
それでも、グーグルやアマゾンといった「GAFA」の影響力がデジタル経済の隅々にまで広がり、市場寡占の懸念が世界規模で強まるなか、これらに対抗する可能性があるスタートアップが一段の成長のために上場を目指すのは望ましい潮流といえよう。
日本でもヤフーを傘下に持つZホールディングスとLINEが経営統合し、楽天が日本郵政などと資本提携するなど「GAFA対抗」の再編が続く。ただ、こうした動きが老舗ネット企業にとどまっているだけでは心もとない。
米CBインサイツによると日本のユニコーンは4社で、韓国(10社)の半分に満たない。ユニコーン上場を機に世界の投資家による玉石混交の見極めが始まるなか、日本ではその「石」を探すことすら難しい。
GAFAに挑む気概を持つ起業家と、それに応える太い流れのリスクマネーが日本にも必要だ。足踏みを続ければ米中の遠い背中はおろか、アジア全体の競争からも遅れかねない。
◎色々とツッコミどころが…
まず「米中の遠い背中はおろか、アジア全体の競争からも遅れかねない」という文が気になった。「AはおろかBからも~」という表現の使い方が上手くない。「遠い背中から遅れる」とはあまり言わない。「米中の背中がさらに遠のくだけでなく、アジア全体の競争からも遅れかねない」などとした方が自然ではないか。
「ユニコーン上場を機に世界の投資家による玉石混交の見極めが始まる」との解説も謎だ。「玉石混交の見極め」は常にある。「ユニコーン」になる過程でも、なってからも「世界の投資家」の「見極め」を経なければ資金調達はできない。これまで「玉石混交の見極め」がなかったと田中論説委員が見ているのならば少し怖い。
上場企業としての「玉石混交の見極め」と言いたいのかもしれないが「ユニコーン」の上場自体も珍しくない。日本発の「ユニコーン」だったメルカリが上場したのは3年前だ。
最後に記事の結論部分に注文を付けたい。
「GAFAに挑む気概を持つ起業家と、それに応える太い流れのリスクマネーが日本にも必要だ」と訴えたいのならば、そのためには何をすべきか論じてほしかった。記事にはそれが全くない。
そもそも「GAFAに挑む気概を持つ起業家」が乏しいのか怪しい。「日本のユニコーンは4社で、韓国(10社)の半分に満たない」ことを根拠にしているようだが、「GAFAに挑む気概を持つ起業家」の多寡は「ユニコーン」の社数では測れない。評価額が低くても「気概」は持てる。
「ユニコーン」の社数をベースに「スタートアップ」を語るのは基本的に危うい。企業評価額10億ドル以上の「スタートアップ」の数を比べるのならば、まだ分かる。しかし「ユニコーン」とは評価額10億ドル以上の「未公開企業」だ。
韓国の「10社」のうち例えば6社が上場すると「ユニコーン」は日本と同じ4社になる。だからと言って「韓国もGAFAに挑む気概を持つ起業家が日本並みに少なくなってしまった」などとは語れないはずだ。
その辺りを田中論説委員には考えてほしかった。
※今回取り上げた記事「中外時評~アジア発ユニコーンの真価」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210324&ng=DGKKZO70251750T20C21A3TCR000
※記事の評価はD(問題あり)。田中暁人論説委員への評価は暫定C(平均的)から暫定Dに引き下げる。
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